トービン税入門??--希望は南からやってきた

さて、『トービン税入門』の第二章ののこり、「持続可能な開発のための連帯基金」(FSSD)だ。

● CTT機構の任務と原則

ジュタンさんはこのFSDD機関の任務として(1)CTTの通則法を定めること、(2)この通則法を諸国が適用することと援助し、その尊重を監視すること、(3)規則違反に制裁を課すこと、(4)通則法の解釈と修正、の四つを上げている。

2078eb66299e7bc7e53d.jpg

ようはCTT条約の中味を決めて、それを各国が批准・導入できるような支援を行い、批准した国々がCTT条約を守っているかどうかを監視し、それに違反した場合は制裁を課す、というのがFSSD機関の役割であるという。

そしてそれらの業務を遂行するための原則として、(1)透明性、(2)説明責任、(3)民主主義の確保、をあげている。

● これらの原則にふさわしい既存の国際機関はない

ではこれらの原則を踏まえた上で上記任務を遂行することができる既存の国際機関があるのか、といえば、ジュタンさんは、国連の各機関(総会、経済社会理事会、貿易開発会議、開発計画など)、IMF、世界銀行、国際決済銀行など想定できる国際機関を挙げて各機関の特徴などを検討した上で、次のような結論に達する。

「最終的に、いかなる既存の機関も、必要な三つの基本任務――すなわち、国際条約の交渉、税の実施に必要な技術的な基準の定義づけ、そして諸国間での税収の分配――を果たすことを可能とする能力をすべて有してはいないことが確認される。この理由により、国際条約に基づいて新たな機関を創設することが、より適切であると思われる。」(130頁)

ジュタンさんは、新たな国際機関、FSDDの具体的な一例として、先日ADB総会に対して京都で開かれた市民フォーラム参加のために来日したヘイキ・パトマキさんらが起草した国際通貨取引税条約草案にある通貨取引税機構(CTTO)をあげる。

● 新たな国際機関の民主的構成

ここではパトマキさん自身のことばで語ってもらおう。ADB市民フォーラムにも参加した「人民新聞」(2007年5月15日号)にパトマキさんへのインタビューが掲載されているので、そこから拝借。文中のCTTOとは新たな国際機関である通貨取引税機構のことで、ジュタンさんのFSSDとおなじ。

「CTTOは、評議会、常任書記局、民主的総会によって構成され、政府と各国議会に加えて、NGOや労働組合などの国際的な市民・社会運動団体が参加します。」

「政府・議会代表の議席配分は、拠出金額ではなく人口比を基礎にしており、経済力や政治力が幅をきかす国連とは違う民主的な意思決定機関となります。」

「各国政府代表が構成する評議会で予算案が作成されますが、市民セクターと議会代表者で構成される民主的総会によるチェックと修正が行われます。民主的総会は各国代表が55%を占め、45%は労組・NGO・NPOなど市民社会勢力に割り当てられます。」(「人民新聞」2007年5月15日号より)

この民主的総会というのが市民参加の決定機関として民主主義を保証するものとして想定されている。条約草案では、民主的総会の構成は、CTT条約に批准した国から

(1)政府代表1人
(2)議会代表はその国の人口が1000万未満の国は1人、1000万以上1億人未満は3人、1億人以上は5人
(3)市民社会勢力は(1)+(2)の75%(計算すると同じく1、3、5人となる)

が民主的総会のメンバーとして参加するという。たとえば日本の場合は、政府代表(外務省官僚?)一人と、国会議員5人、そして市民社会勢力から5人となる。

ジュタンさんは著書の中で、市民社会勢力の選出には、最も恣意的ではない方法として抽選をあげており、それは「南の労働組合およびNGOの代表に多数を保証するようなものでなければならない」(133頁)と指摘している。

「ほんまにそんな国際機関ができるのか」という思いもないわけではないが、通貨取引税の実施は不可能だという意見の根拠として、それにふさわしい機関がないから、というものもあるので、ではふさわしい機関を考え出せばいいではないか、という非常にポジティブシンキングな結果として、このCTTOが提起された。

● あつまった資金を現地の人々が民主的に活用する

あつまった通貨取引税を南の国々の開発プログラムの資金として活用する場合は、各国が開発計画を立案するのだが、その計画は、CTT条約機構の原則および各種国際条約(人権条約、性的不平等の解消、ILO条約、環境法などその他関連条約)に合致しているかどうかをCTTO機構が確認するという。

世銀やIMF、ADBがやるような開発援助という名の開発搾取ではなく、現地の人々のニースに合致したプロジェクトをおこなうには、現地の人々自身がプロジェクトを策定することだという。

「それゆえにこそ、われわれが提唱する案では、人権の尊重と政治的民主主義の実行が中心的な役割を果たすのである。民主主義の実行は、収入が社会的およびエコロジー上の目的に向けられ、それ以外の目的(兵器の購入、票の買収、恩顧主義の風習)に流用されたり汚職のもととなったりしないということを保証する唯一の方法である。」(136頁)

「可能であれば理想的なのは、ブラジルのポルトアルグレ市において試みられた参加型予算の方式に従って、資金の正確な使い方が、各国において国民投票によって決定されるということである。」(137頁)

・・・と、資金の活用の仕方はあくまで現地の人々のイニシアチブを前提とする。

● 独裁的政府、人権抑圧の政権の参加と資金の流用など

しかし既存の国際金融機関の融資で多発している汚職や腐敗への流用がおこらないだろうか。その辺の危険性はジュタンさんも十分認識はしている。

「現地の住民がその選択を表明することができるほどまでに人権と民主主義の実行とが十分に尊重されていないときには、可能ならば現地の住民の代表者たちとともに、ケースバイケースで税収の分配の可能性を査定することはFSSDの役割に属する」(137頁)

「この税の収入は、流用されたり汚職のもととなってはならない。税収を有効に使うことを可能にするような最低限の保証が存在しないのであれば、そのときはそれを払い出すのを差し控えるほうが良い」(138頁)

北の国からの押し付けによる援助という名の搾取をCTTによって繰り返すのではなく、「グローバル・タックスから生ずる新たな財源は、開発政策を完全に一新し、失敗をもたらすこうした慣行と手を切る機会となるべきである。」(139頁)

そして民主的な統制は、開発プロジェクトの対象国だけでなく、FSSDにもそのような民主的な統制を導入すべきだ、とジュタンさんは主張する。

「プロジェクトの策定、最終目的、実施における民主的統制というこの要求は、FSSDという資金の分配の役目を担う機関それ自体にも当てはまる。実際に想定されるのは、FSSDが、国連の世界人権憲章や国際労働機関により策定された労働の基本的原則を尊重する諸国政府の代表者だけしか、その中に迎え入れないということである。」(139頁)

もちろんこれに限界はあるが一定程度世界の温暖化などに関する規制を促すことにつながる京都議定書なども加えてもいいだろう。

もちろんジュタンさんは、こんなことくらいでは問題が解決するとは思ってはいない。

「われわれは、いかなる資金の流量もおこらず、汚職の危険は断じて取り除かれており、また、資金を賄われるプロジェクトはすべて有益で効率的なものになるということを保証する制度案を提示している、などと主張するものではない。すべての予想される問題に、また、ましてやまだ思ってもみない問題に、あらかじめ解決策を予見することは不可能である。しかし、ものごとの現状を変えようとするときには、いつもそうしたものではないだろうか?」(139頁)

そう、トービン税が導入されたからって投機がなくなるわけではない、という批判が、脱税はなくならないのだから所得税は意味がない、といっているのと同じように無意味な批判であるように。

● 希望は南からやってきた

もちろんジュタンさんはそこで解決策を投げ出しているわけではない。CTTが導入される過程で、新自由主義や汚職・腐敗に対する民主主義の勝利は、われわれの検討する基盤を大きくかえるだろう。それは、債務帳消しは腐敗した国の指導者に利するだけではないか、という債務帳消し反対論者の主張に対する反論とも重なるところがある。

「通貨取引税は新自由主義に対する政治的勝利に基づいてしか日の目を見ないのであり、その勝利は民主主義の拡大を可能にするものであろう。それゆえ、現地での優先順位の決定、エコロジー、教育、公衆衛生、その他についての政策の内容は、今日よりもずっと良い状況の下で、さらに熟慮を重ね、解決することができるであろう。」(139頁)

そんな未来を夢想するのはナンセンスだろうか。1日あたり約2兆ドルもの通貨取引がおこなわれる一方、三秒に一人子どもが死んでいき、資本主義の生き残りのためにイラクで戦争を引き起こし、次の戦争に向けて堂々と海外派兵ができる国づくりを押しとどめることもできないなかで、こんなことを夢想するのはナンセンスだろうか。

いや、どうやらそうでもないらしい。希望は今度も南からやってきた。

「南の銀行はその資金を資本市場で調達はしません。資金は加盟国によって拠出されます。そしてまたトービン税タイプの税からも調達されるでしょう。」(Interview of Eric Toussaint published in the Belgian daily Le Soir on 12-13 May 2007 より)

チャベス(ベネズエラ)、モラレス(ボリビア)、コレア(エクアドル)など社会運動に押し上げられた政権などを中心に、世界銀行・IMFにかわる「南の銀行」が具体的な構想として検討されつつあるという情報が、第三世界債務帳消し委員会(CADTM)などから届きだしたからだ。

「南の銀行」は、加盟国の通貨が投機によって攻撃された場合、各国に対して外貨準備の20%を市場介入の資金として支援を要請できる、という案もエクアドルなどが提起している。チェンマイイニシアチブなんかよりもずっと通貨市場の安定に寄与するだろう。なぜならIMFや世銀やADBと違って、国際金融市場からの資金調達をしないことで過剰な流動性の寄与することがないからだ。そして、チェンマイイニシアチブは、世界にむけてバンバン債券を発行しまくり投機マネーや余剰資金を再生産させているADBなどの存在を暗黙の前提としているからだ。「南の銀行」は新自由主義に染まりきった国際金融に、もうひとつの風を吹き込もうとしている。

CADTMの代表の一人、エリックトゥーサンは、このプロジェクトに関するエクアドルのアドバイザーの一人になっているという。日本はエクアドルに対して三番目に大きな債権額をもつ国でもあり、決して他人事ではない。希望とともに重大な責任もやってきそうだ。だがそれは光栄なことでもある。

「南の銀行」の詳細については、CADTMのサイトを参照。
スポンサーサイト

Comment

Leave a Reply


管理者にだけ表示を許可する