
前回5月13日(連休が重なったため繰り下げ)の学習会では同書の第二章をやりました。通貨取引税(トービン税)の理念などが述べられています。以下、簡単にまとめてみました。まとめは途中で終わっていますが、続きは重要なCTT機構などにも触れられており、近日中にUPします。
『トービン税入門』
ブリュノ・ジュタン 著
和仁道郎 訳
金子文夫解説
社会評論社
通貨取引税=トービン税についてはこちらにも資料あります。attac Japanとして通貨取引税をどう考えるかはこちらを。ちなみにattacのシンボルマーク「%」はトービン税の税率を象徴するものだったりするのです。
『トービン税入門』第二章(上)
● CTTの理念、目的、正当性
第二章はけっこう重要で、通貨取引税の理念、目的、正当性が最初に述べられています。
「この税収が諸国間の連帯を--いわゆる社会主義諸国の戯画的な試みがその意味を歪めてしまって以来、また、豊な諸国と国際機関によって使われるようになった自由主義的アングロサクソンの合言葉”trade not aid”(援助ではなく貿易を)がその中味を空っぽにしてしまって以来、弱まってしまった連帯を--再び作り出す機会を提供するから」(80頁)
「第一目標は投機をできるだけ減少させることである」(81頁)
「通貨取引税を、通常どおりの資金に代わる開発資金調達の唯一の財源にするというものではない」(同)
「投機に対して、それが引き起こす社会的損害の一部を償うだけのものを支払うよう要求することは・・・道義に適ったことなのである。」(83頁)
「通貨取引税の採用がなされれば、それは必ずや、現在の社会的な力関係を問い直すことを、そして、銀行や多国籍企業がいかなる代償を払っても望まない政治的力学を始動させることを可能にするような、自由主義的グローバル化への反対者たちの象徴的な大勝利と解されることとなろう」(84頁)
など、すこし難しい言い回しかもしれませんが、新自由主義への対抗としてのCTTの意義をジュタンさんは強調しています。
● 税収額とその使途
そしてそのあとに税収がどれくらいになるのかを、いくつもの事例と想定されるパターンを経験的に羅列して概算をだしています。
「通貨取引税が確保しうる最低税収として1000億ドルという額を採用するのが穏当である」(90頁)
そして集まった税収を何に使うのか。
「通貨取引税の税収の全部が、一方では、保健衛生やエコロジーのような領域における国際的な共通利益のプログラムに向けられるべきであり、他方では、南の諸国における各国の開発プログラムに向けられるべきである」(92頁)
ここで言われている「国際的な共通利益のプログラム」は「グローバル公共財」と定義され、97ページに表でいくつかのカテゴリーが提示されています。「森林火災の鎮火」「海洋汚染の除去」「国際裁判所」「洪水の防止」などなど、国境を越えた事象や災害対策などがグローバル公共財としてあげられています。
● 強化版チェンマイイニシアチブとは違う為替安定化の基金
そのなかには金融の安定性も含まれています。安定した為替市場はグローバルな公共財産というわけです(=不安定な為替市場は二酸化炭素や大気汚染と同じくグローバルな害悪)。
「投機的攻撃や大量の資本流出の際に公的当局による通貨防衛能力を強化することを可能にするような『為替準備基金』を創設するのに税収の一部を用いる」(99頁)
「(CTT)は、投機を思いとどまらせることと、準備基金の資金を賄うこととで、二重に通貨の安定性に寄与する」(同)
これが先日京都で開かれたアセアン+3の財務大臣による「強化版チェンマイイニシアチブ」とは違うところです。「強化版チェンマイイニシアチブ」は為替市場が不安定であることを前提にして「為替準備基金」もどきを創設しよう、という主張ですが、ジュタンさんはまず為替市場の安定化のためにCTTを導入して、そのうえでその税収を再度、為替市場の安定化に利用することを提唱しています。似て非なる、とはこのことでしょうか。
● グローバル公共財の市場化をねらう新自由主義
ジュタンさんはグローバル公共財の定義を更につぎのようにわかりやすく述べています。
「すべての国にかかわるものでなければならず、住民の社会的諸階層の全体にとって恩恵をもたらすものでなければならず、そして、将来的に危険を及ぼすことなく現在の世代の必要に応じるものでなければならない」(100頁)
しかし分かりやすいがゆえに「G8や国際機関、とりわけWTOには、そのまま受け入れられるわけにはいかない。というのも、それは多国籍企業の利益にとっては、制限的すぎるからである」(同)
多国籍企業は、なるべくこのグローバル公共財の定義を限定的なものにしようとたくらんでいます。そのためにWTOの協定のひとつGATS(サービスの貿易に関する一般協定)も活用しつつ、公共サービスを民営化し、グローバル公共財の受益者を、支払能力のある顧客に限ろうとしていると述べています。またエイズ薬や情報へのアクセスに際しても、必要とする人誰もが享受できる「グローバル公共財」としてではなく、支払能力のあるものだけが享受できる「商品」にしてしまっている、とジュタンさんは批判しています。
● グローバル公共財はグローバルタックスで賄う
国連の専門委員会報告では、平和維持や疫病防止、農業研究、温暖化ガス排出防止、二酸化炭素規制などの「グローバル公共財」の維持に必要な年間総額は200億ドルを想定しています。ジュタンさんはこれに緊急人道援助(津波や自然災害、紛争など)のための資金、100億ドルを加えた300億ドルを、国際的プログラムの最低必要金額と想定しています。
そしてこれらのプログラムの資金をグローバルタックスで賄うべきだと主張しています。
「各国ごとの次元では、公共財は税を用いて、国家により生産および供給され得るのであり、場合によっては無料ともなる。国際的な次元では、同じ論理によれば、グローバル公共財は、国際協定を要する新たな税で『グローバル・タックス』と呼ばれることになるものによって資金を賄われるべきである。」(108頁)
そして、グローバルタックスとしてユニタリー・タックス(世界中どこでも多国籍企業にはおなじ税率を課すというもの)、航空税、二酸化炭素税、インターネット利用税などをCTTとともにあげています。
● グローバルタックス導入にあたっての注意
しかし、グローバルタックスを導入することで、現在世界各国で進められている新自由主義政策を問題視しない、ということであってはならない、とジュタンさんは述べています。グローバルタックスの意義は何かと問い次のように述べています。
「自由主義的改革によって正当化されている、各国の税負担の引下げを承認するということではない。」(109頁)
「多数の南の諸国政府に、富裕な家計への累進的所得税や法人収益税を本当に払わせようという政治的意思が欠如していることを、取り繕うことでもない」(同)
「グローバルタックスの有無にかかわらず、とにもかくにも現在の傾向を逆転し、市民や企業の国家財政への正当な貢献の必要性を再確認しなければなるまい。それなくしては、市民の間での平等を確保できるようにする国民的連帯※は不可能なのである」(同)
※「国民的連帯」は正しい訳なのでしょうか。「国内的連帯」とか「国家間の連帯」なら分かるのですけど。
● 南の諸国の基礎的社会サービス資金として
CTTによる税収1000億ドルのうち、国連概算で約200億ドルがグローバル公共財のために使われ、のこり800億ドルはというと、第二の使途、南の諸国における基礎的社会サービスへの普遍的なアクセスの実現があげられています。
具体的には、1995年の「社会開発に関する世界サミット」で掲げられた予防・治療ケア、出産ケア、エイズ教育、飲料水、教育、識字などです。また2000年ミレニアムサミットできめられた2015年までに貧困を半減させるというミレニアム開発目標を達成するための資金としても活用できるとのことです。
南諸国に資金がまったくないわけではないのですが、必要な国内投資にまわす税収が、多額の債務支払いによって南なら北へと流れていることは大きな問題で、まずこの債務を帳消しにしたうえで、さらに必要な資金を南へまわす、ということをジュタンさんは述べています。このようにジュタンさんは、ことあるごとに債務の帳消しが前提のひとつであることを強調しています。
● 金だけの問題ではない、しかし資金も必要、そして民主主義も
ジュタンさんは、各国の政府開発援助引き上げによる1000億ドル、CTTの1000億ドル、その他のグローバルタックスによる税収2000億ドルの合計4000億ドルが、南への資金となり得ると述べており、グローバル公共財の維持のための300億ドル、南諸国が貧困脱出に必要とされる社会サービス資金800億ドル(ミレニアム開発目標資金)を支出してもまだ余りあるとしています。しかしミレニアム開発目標をこえた貧困対策、社会保障の構築、文化事業などにも資金を活用できると言っています。
ここで問題になるのは、金さえあればいいのか?ということですが、ジュタンさんは次のように述べています。
「開発は資金調達の問題に要約されるわけではない。それは何よりもまず、現地での活動だけが実現できる、人権および社会権の尊重の問題である。しかし資金もやはり重要である」(118頁)
「資金調達と基本権を実現することは、ワンセットのものである。開発援助が効果的なものとなり得るのは、この条件においてであって、さもなければ開発援助計画はその的をはずし、開発が実現しなかったり人々に不利な形で実行されたりするのである。」(同)
「もしも通貨取引税が日の目を見て、税収が大きな意味を持つ額になるとすれば、その税収を過去の過ちを繰り返すのに利用するということであってはならない。通貨取引税やその他の新たな開発資金の財源は、過去の経験と断絶して開発戦略を一新する機会とならなければならない。そのために唯一可能な保証は、民主主義の実際的応用問題の手本となるように、通貨取引税の税収の分配を検討することであって、そこでは、受け取り側の人々が、プロジェクトの定義、実行、監督における権利を手にするということになる。」(119頁)
そして、南北間の連帯と民主主義をもとにして税収を管理する機構として「持続可能な開発のための連帯基金」(FSDD)を提唱しています。
ここまでで第二章の三分の二です。残りの部分はこのFSDDの解説に当てられています。これは先日来日したヘイキ・パトマキさんらが提唱している「国際通貨取引税条約」(草案)のなかで述べられている通過取引税機構(CTTO)のことです。
「国際通貨取引税条約」(草案)
・・・がここまでで眠気に勝てなくなりました。ここからが面白いところなのに・・・ね。
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