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門番は主に逆らわない--「密告奨励」のゲートキーパ法では「テロ資金」は取り締まれない

money.jpg資金洗浄(マネーロンダリング)という言葉が三度メディアをにぎわしそうだ。昨年12月の三菱東京UFJに続き、今年1月24日に三井住友銀行がアメリカ金融庁から資金洗浄防止対策の不備について改善命令を受けたからだ。

最近では村上ファンド事件や、北朝鮮のミサイル発射に伴う金融制裁などで、この資金洗浄(マネーロンダリング)という言葉が茶の間にも登場した。

安倍内閣は、資金洗浄の疑いのある行為を察知したら当局に通報する義務を、金融機関や通信業者、弁護士や会計士、税理士など50種の職業に課す「ゲートキーパー(門番)法案」を今国会に提出しようとしている。

これについては、日本弁護士連合会をはじめ、おおくの識者から「密告強制法案だ」という批判が上がっている。自らの犯罪・汚職を棚に上げておいて、関係者に「密告」を強制する警察や検察に信頼が置けない、膨大な個人情報が警察に蓄積される、相互監視社会の一歩だ、などが批判点である。東京新聞の「こちら特報部」でも報道された。

東京新聞こちら特報部
『資金洗浄の疑い 通報せよ』(1月26日)

日弁連:密告法に反対

現在は「疑わしい取引」は管轄省庁が金融庁にある「特定金融情報室」に届けることになっているが、2005年に同室を金融庁から警察庁に移管することが決定されている。上記のゲートキーパー法案のとりまとめはこの流れの一環である。

資金洗浄(マネーロンダリング)を取り締まるというのであれば、永田町、霞ヶ関、兜町、桜田門、大手町などが監視の重点にならなければならない。マネーロンダリングに関係のないという大手金融機関や大企業はほぼ皆無なのだから。領収書添付の必要のなかった政務調査費などもマネーロンダリングの一種だろう。そんな犯罪は掘ったらかしにして、「市民生活の平穏確保と経済活動の発展に寄与するため」(法案骨子)といっても、まともに信じるものなどいない。暴力団の資金流れの解明などできるはずもない安倍内閣を信じるものなどいない。

九一一テロ資金との関連を解明し、自国に対するテロ資金だけの解明のために世界の金融機関を恫喝しているアメリカ政府向けの法案といっても過言ではないだろう。G7をはじめとした金融当局者らによって構成される金融作業部会(FATF)でも911テロまでは、どの国も自国の利害を主張し続けまったく効果的な対策が取れなかったのだから。

しかし本当にわたし達が解明し、その首根っこを押さえつけ、根絶しなければならない「テロ資金」とは、先進国から途上国へと流れる「開発援助」と称した生活破壊の「テロ資金」であり、24時間365日世界中を回り続けわずかの金利差を見つけたら膨大な額の資金を投入し儲けるだけ儲けたあとに売り抜けてあとは野となれ山となれとその地域を金融危機に陥れる「テロ資金」であり、北から南への1ドルの「援助」につき4-8ドルの資金が南の腐敗した独裁者から北の銀行へとマネーロンダリングされる「テロ資金」であり、労働者から搾取し預金者から利子を盗んで儲けに儲けた大企業や大手金融機関が「節税」の名のもとに海外のオフショアに移転する「テロ資金」のほうだ。わたし達の「テロ資金」リストはまだまだ続く。

このような「テロ資金」は、80年代から急速にすすんだ金融のグローバリゼーションによる為替管理の自由化、資本市場の自由化、そしてなによりもタックスヘイブンの合法化のなかで急増した為替取引のなかにたくみに紛れ込むことができた。1990年には年間50億ドル未満であった国際証券投資は、2000年には500億ドルに増加。海外直接投資は90年には2090億ドルだったが2003年には5600億ドルに達している。莫大な取引は「テロ資金」の格好の隠れ蓑になった。

世界のマネーロンダリングの総額は、世界のGDPの2-5%、8000億~2兆ドルといわれる。これに加えてタックスヘイブンへの移転による脱税額が加わるが、脱税額を正確に算出ことは難しい。

そしてマネーロンダリングは、こっそり、ひっそり場末のバーや倉庫街でおこなわれるのではない。ニューヨークやロンドン、チューリッヒ、東京や香港など国際的な金融市場のある大銀行の窓口で行われるのだ。莫大な資金を取り扱うことで得られる手数料は銀行にとってはうまい商売の種である。マフィアが銀行ごと買収して、その銀行をつかってマネーロンダリングを行うという荒業もある。

『ニューインターナショナリスト ジャパン』2006年12月号によると、

・開発途上国の汚職によって吸い上げられた200~400億ドルの金が毎年、欧米の銀行に流れていく
・多国籍企業は2070億ドルあまりの利益を無税で開発途上国から吸い上げている。富裕国から貧困国への援助は年間800億ドルである
・少なくとも現在11兆ドルが海外の租税回避地にあるが、これは世界でも最も豊かな個人資産の約3割にあたる。

同誌で紹介されているトランスペアレンシー・インターナショナルの2006年の腐敗認識指数によると、最も腐敗度が高いのは、高い方から「政党」「議会」「警察」「司法」など。

マネーロンダリングの主要な参加者は「北の政府と銀行、そして多国籍企業やマフィア」「第三世界の独裁者やエリート」である(『グローバリゼーション・新自由主義批判辞典』)。

ゲートキーパー法という密告法で、わたしたちが問題にする「テロ資金」が根絶されるはずがない。まさに「犬が主人に噛み付きゃえらいこった」なのである(「おまわりさんに捧げる歌」岡林信康)。門番(ゲートキーパー)が主人を捕まえるはずがない。

911以降厳しくなったマネーロンダリングだが、金持ちにはまったく関係ないようだ。

「チューリヒで超富裕者向けに巨額の資産の管理運用業務を行うプライベートバンクの幹部に話を聞いた。『たとえば5000万ドルを“なんとかして”もらいたいとしますね』とわたしは訊ねた。『当局に見つからないよう資産隠しの手伝いをするのは、十年前と比べて、どのくらい難しくなりましたか』。幹部はにっこり笑って答えた。『とくに難しくはなっておりません。頂戴する手数料が高くなっただけです』(『犯罪商社.com』光文社)

生産過程からあふれ出るべくしてあふれ出た余剰資金の大洪水が世界を駆け巡っている。この洪水は押し返せない天罰の宿命ではないはずだ。

憲法改悪のための国民投票法案、8時間労働法制の規制緩和を含む労基法改悪や企業に肩入れした労働契約法、子ども達の未来を押しつぶす教育3法案など、わたしたちの未来を大きく左右する反動法案がこの通常国会で準備されているが、このゲートキーパ法案にも関心を持っていきたい。

参考
『犯罪商社.com』光文社
『ニューインターナショナリスト ジャパン』2006年12月号
『グローバリゼーション・新自由主義批判辞典』作品社
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attacこうとう(準備会)のブログ記事==門番は主に逆らわない--「密告奨励」のゲートキーパ法では「テロ資金」は取り締まれない==が面白かった。

2007/02/02 (Fri) 02:41 | 今日、考えたこと

attacこうとう(準備会)のブログ記事==門番は主に逆らわない--「密告奨励」のゲートキーパ法では「テロ資金」は取り締まれない==が面白かった。

2007/02/02 (Fri) 13:33 | 今日、考えたこと