
●「エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?」公式サイト
エンロン社の経営者のケネス・レイは、規制緩和を推進し、新ビジネスを展開する際に、この「Ask Why」を掲げた。規制がおかしい、規制さえなければもっとうまくいく、競争こそが株主や消費者の利益になるの・・・・・・、小泉改革以来、あちこちで言われていることだ。
しかしそもそも、エンロン社自身にこの「Ask Why」を突きつけたものは、ブッシュ親子、アーノルドシュワルツネッガー、主要銀行、投資銀行、会計事務所、証券アナリスト、メディア関係者など、エンロン社から莫大な利益を保証されていた人々のなかにはいなかった。この疑問をエンロン社に突きつけた者は、激しく非難され、ポストをはずされた。
エンロン社の経営者連中は、破産寸前、粉飾だらけの決算を覆い隠して、社員に年金基金で自社株を購入するよう進めるいっぽう、自分達はちゃっかりと自社株を売り抜けて莫大な利益を手にした。破産したエンロン社の株券は紙くずに変わり、自社株購入で年金資金を保有していた社員達、とりわけエンロン社に買収された電力企業の配線工らの年金はたった9ドルしか残らなかった。
規制緩和によってカリフォルニアの電力事業に参入していたエンロン社は、電力不足になやむカリフォルニアから電力を持ち出し、さらに値を吊り上げるために電力供給をストップしてしまう。そして電力価格が上昇した段階でものすごい値段で売りつける。人々のの生活を投機の対象とする規制緩和の本領発揮である。
120分の作品だが、話しの展開は、エンロン社の経営とおなじくかなりスピーディー。事前にいくつか本を読んで予習していたのだが、あらすじを追うだけでけっこういっぱいだった。
2006年1月11日にNHK-BSでも同じようなドキュメンタリー、「エンロン倒産事件 7兆円企業の犯罪に迫る」を放映しており、それを何度か見たりもしていたので、映画ではわからないことはなかったが・・・。
映画の方では、インドの発電所のケースが紹介される。インド現地の人々と購買力から採算などとれるはずもない発電所の建設をおこなったエンロンだが、将来の儲けを計算して現在の会計に繰り入れることのできる「時価会計」という手法をもちいていくらでも粉飾ができた、という事例を紹介している。
しかしBSのドキュメント「エンロン倒産事件 7兆円企業の犯罪に迫る」では、このインド・ムンバイのダボール発電所のケースをもっと露骨な規制緩和と新自由主義のケースとして紹介していた。電力は現地政府がすべて市場の何倍もの値段で買い上げる、という契約をしていたのだ。莫大な建設費用がかかり世界一コストの高い電力がつくられた。エンロンはかまわない。なぜなら現地政府がすべて買い上げるのだから。そして建設用地から住民が排除され、環境なども破壊されて投げ捨てられている、という。反対運動をしている住民達の話しもでてくる。
なぜ映画ではこのケースを紹介しなかったのかは分からない。総じて、アメリカ国内の問題として全体の流れが語られていたような感じだが、エンロン社破綻が明らかにしたのは、規制緩和、新自由主義グローバリゼーション、資本主義自身の問題だ。とはいえ、上映作品だけあって、つくりはしっかりしているし、BGMなどもなかなか凝っている。全く退屈はしない。おそらくもうすぐ上映が終わるので、まだ見ていない方はぜひ。
「Ask Why」。来年は、この国や世界を覆う新自由主義グローバリゼーションを常に疑い、みんなで押し返す一年にしたい。
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