金融資本に巨大な民主的規制をかけよう!タイで短期資本に対する規制

img_20060508T185707234.jpg米ドルの短期資金流入額が急増しているタイで、短期資本を規制する政策が12月19日から導入された。タイでは、米ドルの短期資金流入額が、先月は週平均で約3億米ドルだったが、今月に入り約9億5,000万米ドルに急増しているという。あきらかに通常の資本の流れではない。投機マネーである。
タイ政府が発表した規制は次のようなものである。

「バーツ購入の際に資金の30%を保管金とする投機抑制策を発表し、19日付で導入した。・・・・・・新規制は2万米ドル以上の取引が対象。保管金は取引1年後まで全額償還されず、1年以内に再両替する場合、3分の1が没収される。金融機関が保管金を外貨のまま中銀に毎月納め、中銀は運用益を国庫に繰り入れる。物やサービスの貿易決済、国外投資による利益の本国送金は規制の対象外となり、外国直接投資は1年以内でも全額償還される。」

つまり短期の投機マネーに対する規制である。Attacが提唱している通貨取引税(トービン税)は出入りする通貨取引すべてにごくわずかの課税をおこなうものであるが、今回のタイ政府の場合は、出て行こうとする短期資本に対する規制を通じた短期資本の流入規制である。

■ 市場とマネタリストは規制がお嫌い

しかしこの日、タイ株式市場の株価は暴落、タイ証券取引所(SET)の総合株価指数SET指数は14.84%安と、1987年の「ブラックマンデー」に匹敵する下げ幅を記録したという。タイ中央銀行や財務省などは急きょ、株式投資目的の為替取引を規制対象外とする措置を決めた。市場の論理に屈服した形だ。

ラトIMF専務理事は「バーツ相場上昇に関する政府の懸念を解消するには、規制に多くを頼るのではなく、政府および中銀の下での通常の金融政策を通じて行うべきだ」とタイ政府の政策を批判した。

しかし本当に「規制」に頼ってはいけないのだろうか。

■ チリで同様の規制の経験

実は同じような規制は、チリで実施された経験がある。そしてそれは一定の効果をあげた。80年代末から民間資本の流入が活発化したチリでは、90年代に入り高利回りを狙った短期資本の流入が増加した。90~96年の期間平均で、国内総生産に占める資本流入の割合は6.4%にのぼり、この水準は債務危機問題が各地で継続していた80年代と同じ水準であった。チリ政府は91年6月に資本規制に踏み切った。その内容は、(1)海外からのあらゆる信用に対して、取引金額の20%相当の無理し準備預金を中央銀行に預け入れさせ、(2)国内の融資に適用されていた1.2%の印紙税を海外からの融資にも適用した。当初は90日から1年までの保有期間の幅のあった準備預金は、92年5月には30%、一律一年というように規制が強化された。短期資本の投機はコスト上昇で減少し、長期的で安定的な直接投資(多くは生産部門に投資される)の割合が向上した。

西南学院大学の吾郷健二さんは、「資本移動の規制:理論と実践」(西南学院大学経済論集第36巻2001年12月)のなかで、「シカゴボーイズ」と呼ばれるフリードマンの弟子たちらが推進した「チリの奇跡」なるネオリベラリズム政策全体の評価には保留をつけた上で、次のように評価している。

「結論的に言って、チリの規制が成功したかどうかについては、チリの経済政策全体の評価とマクロ経済パフォーマンス全体の評価に関連するので、それをここで全面的に展開することはできないが、以上の限定的な検討だけでも、資本流入(特に短資流入)抑制に果たす資本規制策の効果は十分証明されたといえるだろう。」


■ IMFが指導した国の通貨危機はさらに悪化した

97年タイから始まった東アジア通貨危機は、インドネシア、韓国、マレーシア、香港を回り、98年8月にはロシアで臨界点に達した。為替相場の安定、金融秩序の維持、金融危機への介入などを目的としたIMFの支援を要請したタイ、韓国、インドネシアなどは、IMFの構造改革プログラムという名の一層の規制緩和政策によって更なる混乱を招いた。韓国ではIMF融資を受け入れる代わりに市場開放を条件としたり、インドネシアではいっせいに銀行を破綻させたりした。

それに引きかえ、IMFが批判する「規制」を導入することで、マレーシアや香港は危機を回避することができた。マレーシアでは、外貨準備を使った介入による通貨危機回避ではなく、資本規制を導入した。香港では、通貨当局が直接、株式市場に介入をして株価を支えた。国際金融市場のシンガポールに通貨危機が広まらなかったのも、非居住者の外貨取引にはきわめて寛大だが、シンガポールドルの取引に関しては厳しい規制を設けていたからだ。中国などは、そもそも短期資本が流れ込むことがほとんどできないほど規制が強かった。どれこれもIMFが嫌うやり方で自国・地域の通貨を守った。これがアジア通貨危機の教訓のひとつである。

■ 消防車は間に合うか

『トービン税入門』の著者で10月に来日したattacフランス学術委員会のブルノ・ジュタンさんは、97年通貨危機直後のタイを訪れ、資本規制の有効性を訴えた際に、現地の聴衆からこういわれたという。「あなたのアイデアは確かにすばらしいが、くるのが遅すぎた。火事ですべて焼けてしまってからやってきた消防車のようだ」と。いまジュタンさんは、再び火事に見舞われようとしているタイで調査活動をしている。今回のタイ政府の措置がジュタンさんの滞在と関係するのかどうかはわからないが、すくなくとも97年の痛い教訓をくんでいることは確かなようである。消防車は間に合うだろうか。

ひとりIMFだけが、もうけのためなら人々の生活を破壊してもなんとも思わない投機マネーの代弁者として「規制はよくない」と消えかけた火に油を注ごうとしている。

巨大な投機マネーに対して、強力な民主的規制をかけよう!


【注目】国際的な投機マネーに課税を!通貨取引税の導入を求める市民運動の呼びかけ


参考ニュース
【タイ】株価暴落14%超、為替投機の新規制で - NNA(12月20日)
バーツ投機抑制策、最良の策ではない=IMF専務理事(ロイター) (12月22日)

参考文献
『金融グローバル化を読み解く〈10のポイント〉』


※attacでは通貨危機やトービン税を学び広める学習会やキャンペーンをおこなっています。金融や国際的な問題を専門家だけでなく、市民一人一人が学び、知り、広め、そして変革を促す、それがattacです。
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