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ピノチェトの死

attacchile01.jpg2006年12月10日14時15分、アウグスト・ピノチェト元チリ大統領が死んだ。91才だった。ピノチェトは1973年に米CIAや多国籍企業の支援を受けてアジェンデ政権を軍事クーデーターで転覆し、少なくとも3000人を超える市民を虐殺し、16年にわたる軍事独裁を行ってきたことで有名である。
反グローバリゼーション運動の世界では、軍事独裁とともに、新自由主義の実験場としてさまざまな規制緩和を実施して米国を中心とする多国籍企業にチリ経済を開放してたことでも有名である。

先日なくなった新自由主義のイデオローグ、ミルトン・フリードマンを筆頭とするマネタリストの牙城、シカゴ大学でマネタリズムの理論を学んだ新自由主義者たちが、ピノチェト独裁のチリで経済政策をリードした。新自由主義は、サッチャー、レーガンによって推し進められたと思われがちだが、じつはそれに先駆けること約10年、新自由主義の鬼っ子は、独裁政権の下で産声を上げた。その手法は、民営化、規制緩和、関税撤廃など、まさに現在の新自由主義につらなるものである。

ピノチェトの死を報道した日経新聞12月11日夕刊では、「1974年、国家元首となったビノチェト大統領(当時)を迎えるチリ国民の視線は決して冷たくはなかった。左翼主義の広がりを警戒する米国の支援を受けて経済自由化と開放政策を実行。対外債務に苦しむ周辺諸国を横目に『中南米の優等生』と呼ばれるほどの経済成長を実行した」と紹介されている。このような「チリの奇跡」の神話をいまだ恥ずかしげもなく紹介する日本のメディア関係者にはぜひ『金で買えるアメリカ民主主義』(角川書店)の第四章「レクサスを売れ、オリーブの木を燃やせ」を読んでもらいたい(本書は最近文庫本になったのでぜひひとりでも多くの方に手にとって読んでもらいたい)。

急激な民営化や規制緩和によって多額のマネーが流入し、それによって一時的な経済成長、経済膨張がおこることは当たり前である。それは格差の拡大、富の集中をともなった経済成長である。1973年から83年のあいだに貧困層は20%から40%に倍増し、失業率は4.3%から22%にも上昇している。現在の日本と同じように、大企業や権力につながるものは富み、多数の民衆が貧困へと突き落とされる。そもそもラテンアメリカの累積債務の責任はアメリカをはじめとする多国籍金融機関にある。そのようなハゲタカ金貸し多国籍金融機関にささえられたピノチェト政権による「チリの奇跡」は作られた軌跡であり神話でしかない。その神話のもとに数千人もの死者、行方不明者、何万何十万もの亡命者をつくりだしてきた。

ピノチェトの軍事独裁によって陥没させられた市民社会の再構築を目指して、attacチリをはじめ、チリではさまざまな取り組みが重ねられている。

空白の市民社会を作り直す チリ社会フォーラムとattac chileの挑戦

社会変革の実践のさなか、CIAとピノチェトの銃剣のまえに斃れた何千何万ものチリ民衆の希望は引き継がれている。

ピノチェトは死んだ。しかし独裁のゆりかごで育てられた新自由主義は、ほころびを見せながらも人々の未来を食いつぶしながら世界中をのたうちまわっている。新自由主義をとめよう。

Venceremos!



(参考)『金で買えるアメリカ民主主義』(グレッグ・パラスト著/貝塚泉・永峯涼訳 角川書店)
(参考)『悪夢のサイクル ネオリベラリズムの罠』(内橋克人 著 文芸春秋)
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