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砲撃の合図は「万国の労働者、団結せよ」──中国の若年失業率と米中貿易戦争によせて

今朝(4/19)の日経新聞では10面には5段ぶち抜きで「中国、国有トップ交代3倍」「今年28人、汚職で更迭も」「米に対抗、統制を強化」という記事。3月中頃の全人代から一か月ほどが経ったので人事異動も目立つ季節だが、アメリカに対抗する帝国へと向かう中国資本主義の駆動装置であるとともに、中国における支配階級としての党官僚の動きとしてもフォローしておいたほうがいい記事だとおもいます。(1)

しかし党内部の実際のことはわからないというのもあるので、今日はこの記事ではなく、今日は、その隣の11面の片隅にある小さな記事「3月 中国、失業率高止まり」「16~24歳、15.3%」「内需不足解消せず」を紹介します。(2)

記事によると中国国家統計局が4月18日発表した3月の16~24歳の失業率は15.3%で、2月から横ばいで高止まり。全体の失業率は5.2%なので約3倍。22年の経済協力開発機構(OECD≒先進国)平均の若年失業率の10.9%を上回っているそうです。

中国企業によると「需要が不足している」とのこと。資本主義企業がいう「需要」とは、消費者による商品購入のことですが、突き詰めて言えば、労働者が労働力商品を再生産するために必要な物資と自然循環が許容できる量をはるかに上回る商品生産をもとにした「需要」のことです。

先に挙げた企業やブルジョアメディアが論じる「需要不足」は、資本主義的搾取の体系である「賃労働」や「社会的生産手段の私的所有」そのものも問題にしません。「賃金を上げて需要を増やせば景気は回復する」という資本主義的錬金術を根本から批判するには「賃労働」や「生産手段の私的所有」を階級という点からとらえなおすことが不可欠です。こうしてはじめて、地球的危機に向かう資本主義とはちがうもう一つの未来を展望できると考えています。

余談はさておき本題の中国の失業率ですが、日経の記事では、中国の統計局が23年7月から11月まで若年統計の発表を一時停止した件にも触れています。23年6月までは就職活動中の現役学生らも失業者にカウントしていたが、同年12月から公表を再開したは統計ではその部分を対象から外しました。

この点に関して、週刊誌『東洋経済』2024年2月10日号で梶谷懐さん(神戸大学大学院教授)は次のように指摘しています。(3)

「中国国家統計局は1月17日、2023年7月から取りやめていた16〜24歳の失業率の発表を再開した。この数値は同年6月に過去最高の21.3%を記録した後、発表が停止されていたものだ。就業者調査では、週1時間以上の就労を行っておらず、求職の意思がある人が失業者としてカウントされる。このため、これまでの調査では、就職活動をしている学生もカウントしてしまい、失業率の数字が過大に算出されていた。そこで、学生はすべて非就労人口として扱うよう調査方法の見直しを行った、というのが政府の説明だ。その結果、新たに公表された2023年12月の若年層失業率は14.9%となった。」

「この数字を単独でどう評価するかは難しい。ただ、就業形態が流動化し、プラットフォーム労働などが増えていく中で、週1時間の労働でも就業としてカウントするというILO(国際労働機関)の基準に従った失業の定義は、すでに実態に合わなくなっている可能性がある。すなわち、実質休業状態の青年も、フードデリバリーで週1時間アルバイトを行えば『就業者』にカウントされてしまうからだ。」

「そもそも都市の失業率だけに注目しても、中国の労働市場が抱える矛盾を理解することはできないと考えている。例えば、リーマンショック直後に中国経済も輸出の落ち込みによる大きな打撃を受けたが・・・景気が悪くなるとその(農民工の)多くは農村に帰り、都市においては『見えない』存在になった」

「(このころから)インターネットプラットフォームを利用した新しい就業形態(フレキシブルワーク)が広がることにより、都市労働市場の調整弁が、農村における余剰労働力から都市内部の非正規労働者へと変化してきた・・・国家統計局によるとフレキシブルワーカーはすでに約2億人に達している」

「ただ、そのような構造変化を経験した現在でも、伝統的な農民工や、その存在をめぐる古くからの問題は決してなくなったわけではない・・・『臨時工・日雇い労働者』に分類される農民工は、依然として全就労者の10%程度を占めている」

梶谷さんはさらに、このよう低賃金で不安定な雇用にある社会階層が世代を跨いで固定化していることにも注意を促しており、共著に収録された論文「中国における非正規労働者の就業状況と課題」では統計データの分析を通じてその点を克明にしています。(4)

帝国化する中国の秘訣であるとともに、雇用の調整弁として動員されてきた中国の農民工は、最新のIT技術を使ったフレキシブルワーク(霊活用工)やギグワーク(零就業)のギグワーカー(零工)とも呼ばれますが、マルクス経済学の世界では「産業予備軍」と言ってきたものです。

4月17日、米大統領バイデンは「鉄の町」ピッツバーグの全米鉄鋼労働組合(USW)本部で演説し、中国から輸入された廉価な鉄鋼によって、2000年代初期に何万人もの鉄鋼労働者が仕事を失ったと述べ、「二度とそうしたことは起こさせない」として関税を3倍に引き上げると発言。

帝国化する中国の産業予備軍の兵士らの血と肉と骨で作られた砲弾が詰め込まれた大砲の砲口は、より古い帝国をはじめとする世界中に向けられていますが、資本主義の宿痾である過剰生産恐慌の際には、容赦なくその砲口が火を噴くことになります。古い帝国は中南米をはじめとする全世界からの移民労働者の血と肉と骨で作られた関税障壁という名の万里の長城で、新たな貿易戦争に備えようとしています。

相対峙させられている新旧帝国の産業予備軍の兵士たち、「万国の労働者、団結せよ」の号令一下、その砲口の向きをくるりと180度変え、自国の大地に向けて強烈な一撃を放ち、資本家と資本主義システムそのもの埋葬できるほどの巨大な穴を掘り続けよう。


(1)中国国有大手、トップ交代3倍 米国対抗へ統制強化(日経新聞2024年4月19日)
(2)中国、3月の若年失業率15.3% 内需不足で高止まり(日経新聞2024年4月19日)
(3)失業率だけでは見えない中国「労働問題」の本質(梶谷懐,「週刊東洋経済,2024年2月10日号」 
(4)『ポストコロナにおける中国の労働社会』,石井知章 編,日本経済評論社,2024年2月
(5)バイデン氏、中国製鉄鋼の関税を3倍に引き上げる方針,BBC News Japan,2024年4月18日
 
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