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読書案内:『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』(クリステン・R・ゴドシー著、高橋璃子訳)

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以下、attac首都圏の会員メーリスへの投稿2本。

(2023/06/08 木曜日 00:32)

ひさびさの読書案内。

『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』
クリステン・R・ゴドシー著/高橋璃子 訳/河出書房新社/1900円+税

https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309254463/

刺激の強いタイトルとは裏腹に、内容は極めて社会主義フェミニズム。資本主義グローバリゼーションの家父長制に対して、社会主義の目指した、あるいはかつて存在した東欧やソ連などの「国家社会主義」の女性の生活や状況をふんだんに紹介している。アメリカ出身の著者自身が東欧ソ連の崩壊が女性たちにどのような影響を及ぼしたのかを、滞在や現地調査を通じて研究してきた。

本書のコンセプトそのものはシンプルだ。序章「あなたが苦しいのは資本主義のせいかもしれない」の冒頭と末尾がそれを示している。書き出しはこうだ。

「この本の言いたいことはシンプルです。規制なき資本主義は女性を苦しめる。社会主義のやり方を取り入れれば、私たちの暮らしはもっと良くなる。」

そして、ながい序文のすえに、末尾の一文につづく。

「誤解しないでほしいのですが、私は20世紀の国家社会主義に戻ろうと言っているわけではありません。当時の[ソ連・東欧の]実験は、自身の内部にある矛盾の重みで潰れていきました。表向きの理想と、現実の独裁的な政治とのあいだに、とても深い溝があったのです。」

序文ですでにたくさんの西側社会主義フェミニストらの名前が挙げられている。

各章の間にも写真付きで以下のような社会主義フェミニストや女性社会主義者らの紹介がされている。


エレナ・ラガディノヴァ(1930-2017)最年少の女性パルチザン。ブルガリア。

ワレンチナ・テレシコワ(1937- )世界初の女性宇宙飛行士。ソ連。

クララ・ツェトキン(1857-1933)国際女性デー発案者。ドイツ。

リリー・ブラウン(1865-1916)フェミニスト思想家。ドイツ。

フローラ・トリスタン(1803-1844)労働者階級と女性の解放をセットで提起。フランス。

アレクサンドラ・コロンタイン(1872-1952)ロシア十月革命の闘士。ロシア。

イネッサ・アルマンド(1874-1920)社会主義フェミニスト。ロシア。

ローザ・ルクセンブルク(1871-1919)ドイツ共産党創設者。

アウグスト・ベーベル(1840-1913)ドイツ社会民主労働党創設者。『婦人論』著者。

ナジェジダ・クルプスカヤ(1869-1939)急進的教育者。ボリシェビキ。ロシア。

アナ・パウケル(1893-1960)戦後ルーマニア共産党トップ。世界初の女性外相。


しかし、この本の醍醐味は、やはり第一章以降の各章の冒頭で紹介される著者自身あるいは著者の知人らの身近なフェミ話題や女性差別にまつわるエピソードだろう。その後の本文で語れられる社会主義フェミニズムの理論や資本主義社会や国家社会主義社会における女性の置かれた厳しい境遇といった、やや難解な内容にもスムーズに入っていくことができる。

例えば、第一章「女性は男性に似ていて、より安く使えるもの?」の冒頭のエピソードは、専業主婦の道を選んだ友人リサとの久々の会食での悲しいエピソードから始まり、そしてイギリスのジョージ・バーナード・ショーからマーガレット・アウトウッドなどを引用しつつ、西側諸国における男女の賃金格差や人種・雇用差別、それと比較した旧東側諸国のかつての状況が紹介され、そして公共部門の拡大が提起される。

「はじめに」や序章も社会主義フェミニズムのエッセンスにあふれてはいるが、社会主義者でなければ、ややとっつきにくい(感じがする)ので、読み方のお勧めは、身近なエピソードから始まる第一章から、あるいは自分の興味のあるタイトルの一章を読んでから、まえがきと序章を読むことをお勧めする。

『99%のためのフェミニスト宣言』は一つの章が大変短くシンプルだったが、こちらの方は、分かりやすいが、内容はけっこうぎゅうぎゅうに詰まっている。また知らなかった東欧やソ連時代、あるいは崩壊後の移行期の女性の状況を知ることができる大変貴重な内容。

惜しむらくは、アジアなど非欧米諸国の社会主義フェミニストが(たぶん)まったく登場しない事だろう。特に中国の資本主義化への過渡期における農村女性たちの物語である『梁荘』3部作の第三作『梁荘十年』(2020年)をいま読んでいるだけに、中国(疑似)社会主義社会の移行期における女性たちの生活や苦悩などを、本書と同じような切り口で知りたいとも思う(なお、この梁荘3部作の第一作の日本語訳は『中国はここにある 貧しき人のむれ』として、みすず書房から翻訳出版されている名著)。

まだ第一章、はじめに、序章、を読んだだけだが、一人でも多くの人に読んでもらいたいので、以下に目次を上げておく。

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『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』
クリステン・R・ゴドシー著/高橋璃子 訳/河出書房新社/1900円+税

はじめに
序章:あなたが苦しいのは資本主義のせいかもしれない
第1章:女性は男性に似ていて、より安く使えるもの?──仕事について
第2章:出産する人はなぜ罰を受けるのか──子育てについて
第3章:パンツスーツでは解決しない──リーダーについて
第4章:ベッドの中の資本主義──セックスについて・その1
第5章:誰でも必要に応じて受けとれる社会──セックスについて・その2
第6章:バリケードから投票箱へ──社会参加について
あとがき
謝辞
訳者あとがき
附録:もっと知りたい人のための読書ガイド

(2023/06/12 月曜日 15:46)

『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』の感想の続きです。

ビビッドな表紙をぺらっとはがすと、英文の原題が大きく印字されています。

「Why Women Have Better Sex Under Socialism: And Other Arguments for Economic Independence Hardcover」
(なぜ社会主義のもとでは女性のセックスがより良いものになるのか:そして経済的自立に関するその他の議論について)

(うーん、この原題では日本では売れんなー)とか思いながら、とはいえ、内容としては社会主義を正面に据えているので、正直なタイトルでもある。

もちろん、内容に違和感がないわけではない。たとえば最終章「第6章 バリケードから投票箱へ──社会参加について」は、タイトルからして違和感。

社会参加をいうのだから(まして社会主義の実現を目指すのであれば)、本来は「バリケードから投票箱まで」としなければならないだろう。また代議制民主主義についてだけも、投票するだけでなく立候補もふくめた参加でなければならないのだから、このタイトルでさえ不十分といえる。(他の章で被選挙権についても触れている可能性はあります。まだ読んでません(汗;)

さらに社会変革の手法についても、目標にしても、社会主義というよりも社会民主主義的な感じがすることも事実。

おそらく出版当時の2019年ごろまでのアメリカの政治状況を反映した内容なのだろう。しかしそれらを批判的にとらえたとしても、なお示唆するところが多い。多すぎて引用するところばかりになるのだが、このかんの活動からふりかえると、こんな示唆に富む記述がみられる。「資本主義」を「全体主義」「極権主義」に読み替えて読んでみると現在の中国にも当てはまる。

(以下、引用)

1989年以降に生まれた人たちは、資本主義が一人勝ちした世界しか知りません。20世紀の激動を経て、生き残ったのは資本主義の政治経済システムだけでした。フラシス・フクヤマはそれを「歴史の終わり」と叫び、我々の文明は頂点に達したのだと宣言しました。荒れ狂う新自由主義に希望を打ち砕かれたとしても、ほかの選択肢は残っていません。冷戦後に生まれた人たちは、資本主義こそが天下無敵の、唯一の政治体制なのだと刷り込まれてきました。『スター・トレック』のボーグ風に言うなら、〈抵抗は無意味だ。お前たちはいずれにせよ同化される〉というわけです。

強大な資本主義は若い人たちを踏みつけ、その気力を奪い、諦めを植え付けました。「何も変わりはしない。それが現実なのだ」と何度も言いつづけて。

(略)

(しかし)変化はつねに、予想もしないときにやってきました。1980年代のソ連で育った人類学者のアレクセイ・ユルチャクは、その時代の空気をこう言い表します。「終わりが来るまでは、すべては永遠だった。」

ポジティブな変化は起こりうるし、実際に起こっている。歴史に偶発性はつきものですが、しかし歴史を動かす力の根底にあるのは、力を合わせて活動する人々の存在です。「思慮深く献身的な市民の小さな集団が、世界を変えられるのだということをけっして疑ってはならない」と文化人類学者マーガレット・ミードは言います。「それこそが、世界を変えてきた唯一のものなのだ。」

もちろん、変化はいつも良いほうに向かうとはかぎりません。東ヨーロッパの人びとはそれを現に見てきました。前進があれば後退もある。だから現状にしがみつく人が多いのかもしれません。ですが、流れのなかでその場にとどまろうとすれば、押し戻そうとする力に容易に飲み込まれてしまいます。前進しようとする確かな歩みだけが、過去へと引き戻す勢力に対抗する力になるのです。

(略)

何よりも大事なのは、自分の時間や感情、それに自分自身の価値を、資本主義の手から取り戻すことです。あなたはただの商品ではない。あなたの抑うつや不安は単なる脳の不具合ではなく、人間性を食いつぶして拡大していくシステムに対する健全な反応です。・・・関心を数値化する代わりに、関心を分かち合うことは可能です。気持ちを売買するのではなく、与えたり受け取ったりすることができるはずです。感情を市場に搾り取られないように、感情の主権を取り戻しましょう。

(略)

金権政治にとって最大の脅威は、人々が共通の利害のために連帯し、集団で動きだすことです。資本主義が利己心と個人主義の上に栄えているのは偶然ではありません。資本主義の擁護者が、利他心や協力といった連帯の精神を失い笑い飛ばそうとするのも、けっして偶然ではないのです。

共通の目標に向かって立ち上がりながら、同時にそれぞれの違いを尊重するのは、もちろん簡単なことではありません。誰かが特権を与えられ、誰かがこぼれ落ちていないか。集団の中での権力構造には常に注意深くあるべきです。

(以上、引用)

資本主義の搾取と全体主義の抑圧をともに強く批判しつつ、歴史的に価値のある経験を女性の視点からとらえ返し、社会主義にむけた新しいチャレンジを訴える。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。
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