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台湾の原住民族から習近平国家主席への書簡(2019年1月)

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2022年8月2日から2日間の日程で、アメリカ下院議長のペロシを乗せた特別機が、訪問先のマレーシアのクアラルンプール近郊の空港から通常の倍近い7時間をかけて台湾・松山空港に到着。2日間の訪問を終えた直後から中国軍による軍事演習が始まりました。いろいろと検討すべきとはありますが、とりあえずコロナ明けの8/14にattac首都圏に流した翻訳を紹介しておきます。もう3カ月も前か、忘れてた・・・。写真は総統府の原住民族歴史正義と移行期正義委員会サイトのトップページに掲載されていた2016年8月1日の蔡英文から原住民族への謝罪文公表の式典のもの。謝罪文は漢語のほか16民族の言葉と英語、日本語で書かれています。各言語の謝罪文はこちらのページの下部のリンクから。(い)

台湾の原住民族から習近平国家主席への書簡(2019年1月)

台湾原住民族から中国国家主席へ

原住民歴史正義委員会の各原住民族代表

習近平先生、あなたは私たちのことを認識されておらず、それゆえに台湾のことをも認識されておりません。

われわれは台湾の原住民族で、台湾というこの母なる大地に六千年以上も暮らしてきましたのであり、中華民族の少数民族ではありません。われわれの祖先が台湾の玉山、阿里山、大霸尖山、大武山、卑南主山、都蘭山、そして山林、草原、峡谷、渓流、島嶼、海洋のあいだで伝えてきた物語から、台湾は原住民族の伝統地域であり、原住民族が先祖代々にわたって命をかけて守ってきた祖霊の土地であり、中国の領土ではないことを明確に示しています。

台湾の原住民族は、島々にやってきたスペイン人、オランダ人、鄭氏王朝、清王朝、日本、中華民国の言動に対する証人であり、われわれはオランダ人と契約を結び、アメリカ人と平和協定を締結し、われわれの土地を侵略する外来民族と帝国主義に抵抗し、植民地国家の武力弾圧、権威主義支配を受け、(その後)蕃人という呼称から台湾の原(もと)からの主人と呼ばれるようになり、さらに先住民族は国を人権、民主、自由への転換という歴史的な過程へと突き動かしてきました。

習近平先生、あなたは尊厳ということを認識されておらず、それゆえに何が偉大であるかについても勘違いされております。

われわれ母なる土地に建設された主権国家台湾について、われわれは満足しているわけではありません。というのも原住民族の歴史における正義と移行に向けた正義は、いままさにこの国によってやっと重視され始めたばかりであり、台湾島の多元的な民族、多元的な文化、多元的な歴史観もやっとこの国によって肯定され始めたばかりだからです。しかし、これもまた、われわれと同じように台湾の地にアイデンティを持つ他のエスニックグループとともに努力して築いてきた国家であり、異なるエスニックグループの苦しい歴史的経過を互いに理解しつつある国家であり、われわれが大声で自分たちの言葉で自分たちの物語を語ることのできる国家なのです。その母なる土地において、どのような国家が必要なのかを自分たちで決めて、その建設に取り組む。これこそが尊厳なのです。人口が300人余りの卡那卡那富族(カナカナフ族)も、21万人の阿美族(アミ族)も、われわれ一人一人すべての原住民族に平等な自己決定権(自決権)があるのです。これこそが尊厳なのです。

習近平先生は中国を代表して、単一の文化的価値、統一、強権を推奨されていますが、それは偉大でもなく、人々の心に訴えるものでもありません。土地に対する尊敬、他の生命に対する尊重、各民族やエスニックグループとの共存共栄こそが、わたしたちの信念なのです。

習近平先生、たとえどれだけ自分と違っていたとしても、ひとは他人を傷つけてはならないのです。

習先生は中国政府を代表して談話され、武力を後ろ盾にして台湾統一、一国二制度の実施を堅持することを強調されるとともに、おなじ中国人は傷つけないと述べられました。暴力の行使は間違いであり、それの対象が中国人であるかどうかは関係なく、誰であっても暴力の被害を受けていい人はいません。私たちは、チベット人、ウイグル人が「中国人」になってから、「民族自治区」において文化、言語、信仰の絶滅にひんしている状況をみています。一国二制度のもとにある香港人民も、急速に民主と自由を失いつつある事態をみています。そして中国人民が自らの基本的人権について語り、それを守ることができなくなっている状況を目の当たりにしています。

習先生、暴力は平和をもたらしません。Misawacu hanizaay masasu takid(他人をいじめる人は、同じような報復を受ける:サキザヤ族の古い諺)。どうぞあなたの率いる国家を真の文明に導き、台湾人民への武力恫喝を停止し、中国人民が人権と自由を享受できるよう努力してください。

習近平先生、台湾の原住民族と台湾の主体性は、恫喝を拒否し、一歩も引きさがることはありません。

台湾という国家の未来は、母なる土地にいる台湾の原住民族をふくむ、すべてのエスニックグループが自主的に決定することです。同時に、原住民族が集団的な自決権を行使するまでは、いかなる政府、政党、団体であっても外来勢力や国家と協議をしてはならず、原住民族の伝統的エリアを他国の領土や他国の実質的管理下においてはなりません。これはわれわれが母なる土地を守る決意であり、台湾の原住民族が数千年来守り続け、これからも守り続けていくものです。


いつの日か、中国が歪んだ歴史観、民族観、国家観を放棄したその際には、われわれは強制的な親子関係としてではなく、良き隣人としての関係を望むものです。その時には、われわれは心から盃を掲げて、中国という良き隣人のために小米酒(粟の醸造酒)を献杯したいと思います。pasola xmnx na mansonsou!(快適な呼吸が続きますように!:鄒族の挨拶)

署名人

浦忠成(ツォウ族)、馬千里Mateli Sawawan(プユマ族)、Magaitan.Lhkatafatu(サオ族)、伍麗華Saidai Tarovecahe(ルカイ族)、夏錦龍Obay.Ataw.Hayawan(サイシャット族)、Eleng Tjaljimaraw(パイワン族)、鴻義章Upay Kanasaw(アミ族)、曾華德 集福祿萬(パイワン族)、林碧霞Afas Falah(アミ族)、帖喇.尤道Teyra Yudaw(タロコ族)、伊斯坦大.貝雅夫.正福Istanda.Paingav.Cengfu(ブヌン族)、伊央.撒耘Yiyang Sayion(サキザヤ族)、吳新光voe-uyongana(ツォウ族)、潘經偉(マカタオ族)、孔賢傑'Avia Kanpanena(カナカナブ族)、Uma Talavan萬淑娟(シラヤ族)、潘杰Watan Teymu(セデック族)、陳金萬(ケタガラン族)、謝宗修Buya.Batu(クバラン族)、葛新雄(サアロア族)、蘇美琅Savi Takisvilainan(ブヌン族)、吳雪月(アミ族)

(訳注)原住民族の皆さんの名前は原文記事そのままの漢字名またはアルファベットで表記しています。中国名はかつての蒋介石時代に強制的に中国風に改名させられた名残りです(日帝時代は日本名かな)。


【訳者説明】

ペロシ米下院議長の台湾訪問に対する報復として行われた中国人民解放軍による軍事演習。国境も搾取も差別も抑圧もない平和を願う人民の東アジアへの道は依然として険しいことが改めて示された。裏切られた未完の革命──中国における政治革命と台湾における社会革命──のサイクルは、すでに一度閉じられているが、あらたな展望にチャレンジするさまざまな材料が、台湾民衆自身の闘いを中心に、中国国内、香港、琉球弧、フィリピンなど近隣地域の人民のたたかいにも示されている。

「主権在民」という言葉がある。日本的にはやや古臭い教科書的なニュアンスもしなくもないが、覇権的国家や大民族主義による抑圧が依然続くいま、主権は国家にあるのではなく人民にあること、国家主権は一人一人の主権を民主的な形で集団的に国家に付託しているにすぎない事を示している。そして「人民」は均一で個性のない存在ではなく、地域や課題(階級、ジェンダー、民族など)によってはさまざまなバリエーションや矛盾、ときには対立も内包している。今回のペロシ訪台を巡る中国政府の対応は、一貫して台湾人民に語り掛ける姿勢を欠いてきた。この姿勢は2016年に誕生した蔡英文(民進党)政権以降、一貫したものである。2019年香港の反乱に対する弾圧を目の当たりにした台湾民衆が2020年に再度蔡英文を総統に選出したことを見ても、中国政府の台湾政策(一国二制度)が完全に失敗してきたことを示している。

さまざまな進歩的な政策をとってきた蔡英文・民進党政権も、中国政府との交渉スタンスや労働問題に関しては、それほど民主的で進歩的な政策とは言えないもので、台湾国内の非中国派からも当然の如く批判は上がっている。しかし政権の政策に対する批判さえ、いや、たんに一指導者への採るに足らない批判さえも許さない中国共産党政権に、台湾を批判する権利はほとんどないだろう。

中国政府関係者のアメリカ批判の舌鋒も鋭いが、当時最大の敵は「ソ連社会帝国主義だ」とぶちあげてアメリカとのボス交によって台湾解放の大業を裏切ってきた中国共産党流(源流はスターリニズム)の「敵の敵は味方」論の歴史的破綻の裏返しが空前の軍事演習に示されているとも言える。

台湾民衆の解放へのたたかいは米中両国の代理戦争などではない。むしろその逆であり、中国と台湾、そして東アジアにおける抑圧なき社会という次のステップへの大きな足掛かりでもある。なによりもまず、台湾(中華民国)と中国(中華人民共和国)の両国人民のいっそうの対等な交流と民主的団結が必要だろう。米軍基地や自衛隊基地の軍事的拡張と対峙する琉球弧のたたかいや、過去の侵略戦争や軍隊「慰安婦」問題を深く反省し日本の軍拡に反対する日本人民のたたかいもまた、そのような国境をこえた人民どうしの交流と団結に加わる必要があるだろう。

前置きが長くなったが、ここに紹介する「民」は台湾原住民の書簡(全文https://bit.ly/3pelf3g )。総統府に設置された「原住民歴史正義和転型正義委員会」(先住民族の歴史的正義及び『移行期の正義』委員会、以下「原住民歴史正義委員会」)の原住民メンバーらが、習近平国家主席が2019年1月2日に発表した「民族の偉大な復興を実現し祖国の平和的統一を推進するためにともに奮闘しよう:『台湾同胞への書簡』公表40周年を記念する会でのスピーチ」(原文全文https://bit.ly/3Pl1bqj)に対する返答。3年以上も前の声明だが翻訳紹介する。同委員会は2016年に総統に就任した蔡英文が原住民族への謝罪を行ったことをきっかけにして総統府に設置された組織で、これまでの原住民政策に対する謝罪を行い、正義を実現するために設置された、原住民を主体とした民族政策実施を検討する委員会。われわれにとって、台湾原住民族に対する歴史的謝罪はいうまでもなく日本帝国主義の侵略戦争と植民地支配という問題でもある。なお台湾では先住民族を「原(もと)から住んでいた民」という意味をこめて「原住民族」と呼んでいる。原住民歴史正義委員会のサイトはこちらhttps://indigenous-justice.president.gov.tw/TW 
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