
←この画像は世銀やIMFの援助などを批判する騙し絵「Impossible Financial Architecture」(信じられない金融のお城)に描かれたタックスヘイブンの部分。国際金融機関の実態がよくわかる全体像はこちらから。(SocialWatchより)
中国の経済成長は多額の外資利用によって成功した、といわれてきた。労働力をはじめとする安いコスト、さまざまな税制上の優遇、労働争議など投資企業にとって望ましくない事態には警察などをつかって弾圧することも厭わない地元政府の「歓迎ぶり」など、進出企業にとっては魅力的な投資先であった。
近年、国有企業改革に伴う民営化の推進で、多くの中小国有企業が民営化され、内外の民間企業による活発なM&Aも、対中直接投資を増加させる一つの要因でもあった。
中国政府は、現在167ある中央国有企業グループを2020年までに30社にまで集約する予定だ。05年は「MBO(経営者による企業買収)元年」と呼ばれた。多くの国有企業は「企業改革」の名の下に株式会社化されたが、その実態はそれまでの国有企業の管理者や民間企業が、株式会社化された国有企業の株をさまざまな手段を通じて買収してきた。いわゆる「国有資産の流出」といわれる問題である。
「国有資産の流出」でもう一つ、おおきな問題となっているのが、タックスヘイブンを経由したニセ外資の問題だ。
サーチナ総合研究所のインタビューに答えた金山 権・桜美林大教授は次のように解説をしている。
「04年の対外直接投資のうち、46%の17億ドルがラテンアメリカ向けで、主にケイマン諸島でした。一方、04年の対中直接投資のうち、約9億ドルがケイマン諸島からのものです。ここから分かるように、ケイマン諸島を舞台とする投資資金の激しい流出入は、中国国有企業が、中国における外資系企業としての優遇策を受け、経営コストを削減するために、一旦ケイマン諸島に投資し、海外企業として登録してから、中国国内へ投資することによるものであると推測されます。言葉は悪くなってしまいますが『ニセ外資』、あるいは『偽装投資行為』とも呼べるものです。こうした対外投資を除けば、04年の対外直接投資の実際の規模は大幅に縮小するでしょう。」
中国国有企業による「ニセ外資」問題は、改革開放政策による外資優遇政策を利用した地方政府が、香港にペーパー会社を設立して、そこを経由した資本を外資、として再度地元に投資をして優遇政策を受けている、という指摘がされてきた。JETRO国際経済研究課の明日山陽子さんは次のように指摘している。
「香港はタックス・ヘイブンに含まれていないが、対外投資の約7 割を占める中国の香港向け投資には、中国企業が外国企業として恩典を享受するために、一度香港に投資し、香港企業(外国企業)として中国に再投資するといったラウンド・トリッピングと呼ばれる投資が多く含まれているとみられる。」
このレポートによると2004年、金融業を除く中国資本の対外直接投資の投資対象国・地域は次のようになるらしい。
香 港 67.9%
ケイマン* 14.9%
バージン* 2.4%
米 国 1.5%
マ カ オ 1.4%
韓 国 1.3%
オーストラリア 1.1%
シンガポール 0.5%
バミューダ* 0.4%
タ イ 0.4%
スーダン 0.4%
ベトナム 0.4%
ザンビア 0.3%
日 本 0.3%
ド イ ツ 0.3%
スペイン 0.3%
ペ ル ー 0.3%
メキシコ 0.3%
ロ シ ア 0.3%
マレーシア 0.3%
(中国商務部)
OECD定義によるタックスヘイブン(*印)への投資の割合は17.7%、これに香港の67.9%を加えると85.6%に上る。その多くが外資に「変装」して税制優遇措置を受けるために中国国内から流れてきた資本であることは疑いない。
「中国の対外投資における特徴05年」という人民日報の記事によると、中国の対外直接投資額は前年比123%増加の122億6千万ドルで、ケイマン諸島、香港、英領バージニア諸島などタックス・ヘイブンへの投資額が全体の81%を占めたという。「外資」と呼ばれるものの実態が実は自国の大企業や富裕層の資金を多分に含んでいるという現象は、日本でも中国でもさしてかわりはない、ということか。
最後に、中国の富裕層とはいったい誰なのかについて、香港誌『争鳴』2006年8月号で紹介された中国当局の調査結果を紹介しておこう。
「中国では、個人資産(海外での資産を除く)が1億元(約15億円)を超える『億万長者』は3220人に上るが、その約9割に当たる2932人は、共産党や政府の高級幹部の子女である。また、金融、対外貿易、国土開発、大型プロジェクト、証券といった政府による規制の強い分野では、企業の主要なポストのほとんどが高級幹部の子女が占めているという。」
いま中国共産党は党員7000万人を誇る世界最大の「共産主義政党」である。
投機的な金融取引に課税する通貨取引税を実現する運動は、資本の逃避先であるタックス・ヘイブンの撤廃も同時に求めている。先日来日したイグナシオ・ラモネ(ルモンド・ディプロマティーク総編集長)が書いた社説「金融市場を非武装化せよ」はATTACフランス結成の契機となったが、その社説でもタックス・ヘイブン撤廃が提起されている。
「各地のタックス・ヘイブンは銀行によって堅く秘密を守られ、横領その他の犯罪行為の隠蔽に役立つだけの地域になっている。巨額の資金が課税を逃れ、有力者と金融機関の蓄財に貢献する。というのも、地球上に存在する全ての大銀行は、タックス・ヘイブンに支店を置くことで多大な利益を上げているからだ。諸国は公的機関と取引のある銀行による支店開設を禁止して、ジブラルタルやケイマン諸島、リヒテンシュタインなどに対する金融ボイコットを起こすべきではなかろうか。」
ラモネ氏らによる共著が『グローバリゼーション・新自由主義批判辞典』がこの7月に作品社から翻訳・出版された。このなかでもタックス・ヘイブンは一つの項目として紹介されている。巨額の金融犯罪が政府、企業、マフィアという三つのパートナーの「通常業務」として、経済システムのひとつとして組み込まれている、と批判、そして次のようにタックスヘイブンとグローバル資本主義の関係を指摘する。。
「グローバル資本主義は、以下の三つの要素が結合することによって、相当に洗練されてきたと考えられる。一つめは、1980年以降、資本の動きが完全に自由化され、国家的あるいは国際的な規制のすべてを免れるようになったこと。二つめは、IT革命によって、金融取引の情報の広がりに拍車がかかったこと。最後に、地球上に点在する特別な場所、すなわちタックス・ヘイブンでの金融犯罪が黙認され、利用者達の信頼感を増したことがあげられる。」
「一ヶ所の地域やタックス・ヘイブンだけで、マネーロンダリングに必要なすべてのサービスを、完全に提供してくれることは非常に少ない。多くの所は、ある特定のサービスだけを特化して提供している。そして、いくつもの地域やタックス・ヘイブンが、利用者に最大の効果をもたらすように操作されて互いに結びついているのである」(256頁)
タックスヘイブンは、グローバル資本主義にとっては必要不可欠の存在であり、一部の投機家だけでなく、すべての多国籍企業や大企業がタックス・ヘイブンを利用している。タックスヘイブンで資金を「洗浄」するという方法は、ライブドアや村上ファンドの事件でも明らかになっている。
本書では、「行動に向かう民衆教育運動」としてATTACも紹介されている。読み応えのある、そして元気の出る一冊だ。
『グローバリゼーション・新自由主義批判辞典』(作品社 本体2,800円)
イグナシオ・ラモネ、ラモン・チャオ、ヤセク・ヴォズニアク著/杉村昌昭、村澤真保呂、信友建志訳
通貨取引税の導入とタックスヘイブンの廃止を求める行動に向かう民衆教育運動を!
参考文献
▼2020年までに中央企業168社が30社に?(サーチナ・中国情報局2006年9月19日)
▼拡大するBRICs 企業の対外投資 明日山陽子(JETRO国際研究ノート2006年3月)
▼中国の対外投資における特徴 05年(人民日報・日本語版2006年9月6日)
▼形成されつつある官僚資本階級― 避けるべきクローニー資本主義への道 ―(中国経済新論2006年9月22日)
▼金融市場を非武装化せよ イニャシオ・ラモネ(『ルモンド・ディプロマティーク』日本語・電子版)
近年、国有企業改革に伴う民営化の推進で、多くの中小国有企業が民営化され、内外の民間企業による活発なM&Aも、対中直接投資を増加させる一つの要因でもあった。
中国政府は、現在167ある中央国有企業グループを2020年までに30社にまで集約する予定だ。05年は「MBO(経営者による企業買収)元年」と呼ばれた。多くの国有企業は「企業改革」の名の下に株式会社化されたが、その実態はそれまでの国有企業の管理者や民間企業が、株式会社化された国有企業の株をさまざまな手段を通じて買収してきた。いわゆる「国有資産の流出」といわれる問題である。
「国有資産の流出」でもう一つ、おおきな問題となっているのが、タックスヘイブンを経由したニセ外資の問題だ。
サーチナ総合研究所のインタビューに答えた金山 権・桜美林大教授は次のように解説をしている。
「04年の対外直接投資のうち、46%の17億ドルがラテンアメリカ向けで、主にケイマン諸島でした。一方、04年の対中直接投資のうち、約9億ドルがケイマン諸島からのものです。ここから分かるように、ケイマン諸島を舞台とする投資資金の激しい流出入は、中国国有企業が、中国における外資系企業としての優遇策を受け、経営コストを削減するために、一旦ケイマン諸島に投資し、海外企業として登録してから、中国国内へ投資することによるものであると推測されます。言葉は悪くなってしまいますが『ニセ外資』、あるいは『偽装投資行為』とも呼べるものです。こうした対外投資を除けば、04年の対外直接投資の実際の規模は大幅に縮小するでしょう。」
中国国有企業による「ニセ外資」問題は、改革開放政策による外資優遇政策を利用した地方政府が、香港にペーパー会社を設立して、そこを経由した資本を外資、として再度地元に投資をして優遇政策を受けている、という指摘がされてきた。JETRO国際経済研究課の明日山陽子さんは次のように指摘している。
「香港はタックス・ヘイブンに含まれていないが、対外投資の約7 割を占める中国の香港向け投資には、中国企業が外国企業として恩典を享受するために、一度香港に投資し、香港企業(外国企業)として中国に再投資するといったラウンド・トリッピングと呼ばれる投資が多く含まれているとみられる。」
このレポートによると2004年、金融業を除く中国資本の対外直接投資の投資対象国・地域は次のようになるらしい。
香 港 67.9%
ケイマン* 14.9%
バージン* 2.4%
米 国 1.5%
マ カ オ 1.4%
韓 国 1.3%
オーストラリア 1.1%
シンガポール 0.5%
バミューダ* 0.4%
タ イ 0.4%
スーダン 0.4%
ベトナム 0.4%
ザンビア 0.3%
日 本 0.3%
ド イ ツ 0.3%
スペイン 0.3%
ペ ル ー 0.3%
メキシコ 0.3%
ロ シ ア 0.3%
マレーシア 0.3%
(中国商務部)
OECD定義によるタックスヘイブン(*印)への投資の割合は17.7%、これに香港の67.9%を加えると85.6%に上る。その多くが外資に「変装」して税制優遇措置を受けるために中国国内から流れてきた資本であることは疑いない。
「中国の対外投資における特徴05年」という人民日報の記事によると、中国の対外直接投資額は前年比123%増加の122億6千万ドルで、ケイマン諸島、香港、英領バージニア諸島などタックス・ヘイブンへの投資額が全体の81%を占めたという。「外資」と呼ばれるものの実態が実は自国の大企業や富裕層の資金を多分に含んでいるという現象は、日本でも中国でもさしてかわりはない、ということか。
最後に、中国の富裕層とはいったい誰なのかについて、香港誌『争鳴』2006年8月号で紹介された中国当局の調査結果を紹介しておこう。
「中国では、個人資産(海外での資産を除く)が1億元(約15億円)を超える『億万長者』は3220人に上るが、その約9割に当たる2932人は、共産党や政府の高級幹部の子女である。また、金融、対外貿易、国土開発、大型プロジェクト、証券といった政府による規制の強い分野では、企業の主要なポストのほとんどが高級幹部の子女が占めているという。」
いま中国共産党は党員7000万人を誇る世界最大の「共産主義政党」である。
投機的な金融取引に課税する通貨取引税を実現する運動は、資本の逃避先であるタックス・ヘイブンの撤廃も同時に求めている。先日来日したイグナシオ・ラモネ(ルモンド・ディプロマティーク総編集長)が書いた社説「金融市場を非武装化せよ」はATTACフランス結成の契機となったが、その社説でもタックス・ヘイブン撤廃が提起されている。
「各地のタックス・ヘイブンは銀行によって堅く秘密を守られ、横領その他の犯罪行為の隠蔽に役立つだけの地域になっている。巨額の資金が課税を逃れ、有力者と金融機関の蓄財に貢献する。というのも、地球上に存在する全ての大銀行は、タックス・ヘイブンに支店を置くことで多大な利益を上げているからだ。諸国は公的機関と取引のある銀行による支店開設を禁止して、ジブラルタルやケイマン諸島、リヒテンシュタインなどに対する金融ボイコットを起こすべきではなかろうか。」
ラモネ氏らによる共著が『グローバリゼーション・新自由主義批判辞典』がこの7月に作品社から翻訳・出版された。このなかでもタックス・ヘイブンは一つの項目として紹介されている。巨額の金融犯罪が政府、企業、マフィアという三つのパートナーの「通常業務」として、経済システムのひとつとして組み込まれている、と批判、そして次のようにタックスヘイブンとグローバル資本主義の関係を指摘する。。
「グローバル資本主義は、以下の三つの要素が結合することによって、相当に洗練されてきたと考えられる。一つめは、1980年以降、資本の動きが完全に自由化され、国家的あるいは国際的な規制のすべてを免れるようになったこと。二つめは、IT革命によって、金融取引の情報の広がりに拍車がかかったこと。最後に、地球上に点在する特別な場所、すなわちタックス・ヘイブンでの金融犯罪が黙認され、利用者達の信頼感を増したことがあげられる。」
「一ヶ所の地域やタックス・ヘイブンだけで、マネーロンダリングに必要なすべてのサービスを、完全に提供してくれることは非常に少ない。多くの所は、ある特定のサービスだけを特化して提供している。そして、いくつもの地域やタックス・ヘイブンが、利用者に最大の効果をもたらすように操作されて互いに結びついているのである」(256頁)
タックスヘイブンは、グローバル資本主義にとっては必要不可欠の存在であり、一部の投機家だけでなく、すべての多国籍企業や大企業がタックス・ヘイブンを利用している。タックスヘイブンで資金を「洗浄」するという方法は、ライブドアや村上ファンドの事件でも明らかになっている。
本書では、「行動に向かう民衆教育運動」としてATTACも紹介されている。読み応えのある、そして元気の出る一冊だ。
『グローバリゼーション・新自由主義批判辞典』(作品社 本体2,800円)
イグナシオ・ラモネ、ラモン・チャオ、ヤセク・ヴォズニアク著/杉村昌昭、村澤真保呂、信友建志訳
通貨取引税の導入とタックスヘイブンの廃止を求める行動に向かう民衆教育運動を!
参考文献
▼2020年までに中央企業168社が30社に?(サーチナ・中国情報局2006年9月19日)
▼拡大するBRICs 企業の対外投資 明日山陽子(JETRO国際研究ノート2006年3月)
▼中国の対外投資における特徴 05年(人民日報・日本語版2006年9月6日)
▼形成されつつある官僚資本階級― 避けるべきクローニー資本主義への道 ―(中国経済新論2006年9月22日)
▼金融市場を非武装化せよ イニャシオ・ラモネ(『ルモンド・ディプロマティーク』日本語・電子版)
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