
(香港ネタ、久しぶりだ…)
コロナに感染してなかなか見ることができなかった映画『時代革命』、やっと観てきました。2時間40分があっという間でした。全10章(だっけ)の「あれもこれも」という盛りだくさんの内容。東京ではそろそろ上映終了ですが、各地ではこれからだと思うので、ぜひ観てください。
『時代革命』(香港人作品、監督:キウィ・チョウ)公式サイト
https://jidaikakumei.com/
ただし、ぼくは「あれは?これは?」という感想も持ったことを冒頭に言っておきます。
いろいろな意味で「時代革命」というタイトルに100%マッチした内容でした。ほぼ同時進行で香港の情報を海外で発信していた人間にとっては、あのときのリアルな状況を改めて理解することができたので、たいへんありがたい。
◎同じ時代を生きた
ほんの僅かだけど、映画のシーンに登場した時間を香港で過ごせたこと、そしてそれを映画館で観ていることに不思議な感覚を憶えつつ、あれやこれやを思い出し柄にもなく「うるる」。監督自身の映像をはじめ、当時の激しい闘争が記録されているだけでなく、闘いの真っただ中にあった人々が闘争を思い出し記憶する、すばらしい記録映画でした。
「時代革命」に身を投じた香港人のパッションもビシビシと伝わってきました。さまざまな役割をそれぞれができる範囲で、という運動スタイル。家に帰れない若者たちをかくまう「パパとママ」。自家用車をつかった「車両班」の支援(同じような活動はウクライナのマイダン蜂起でも「オートマイダン」として活躍)。デモ隊が機動隊の追撃をかわすための情報をインターネットを駆使したバックオフィスで支援など、「兄弟爬山,各自努力」(古い言い方だと、別個に進んでともに撃て、でしょうか)が、リアルに伝わる内容でした。
◎世代を超えた連帯には闘いの歴史あり
それと、陳伯(陳おじさん)の活躍もかなりクローズアップされていました。陳おじさんは郊外にあった自分の農地を中国資本の意向を受けた香港政府によって強制収容されたのですが、収用に抵抗する闘いのなかで若者たちが支援に来てくれたので、今回はその恩返しだというシーン。泣けますね。
映画では「本土派」(香港ナショナリスト)という言葉はでてきませんでしたが、勇武派の多くがどちらかといえば中国(人)嫌悪を伴う「本土派」(ナショナリスト)なのですが、じつは、この「本土派」の最初の最初(2000年代初め)は、どちらかといえばネオリベの都市開発に反対する左派的な立場の若者たち、つまり陳おじさんの支援に駆け付けた若者たちのことを指していました。
◎「本土派」の由来、じつは左派
それが2014年の雨傘運動の後半から登場し、後に「勇武派」(非暴力ではダメだ、実力闘争を!を主張)と呼ばれることになる香港ファースト(&中国(人)嫌悪)の若者たちが、この「本土派」の名称を、まさに実力闘争によって「奪還」し、実力闘争に後ろ向きなリベラル派を含む泛民や泛民よりもさらに左の主張をしていたグループを「左腳(サヨク/ヘサヨ/パヨク)」と呼んで批判しだすのが2014年の雨傘運動で顕著に。そういう意味では左翼本土派もがんばってほしい(じっさい、最初に100人規模で立法会に突入して占拠したのは(議場ではなくホールですが)、2014年雨傘運動の直前の、この郊外の開発に反対する若者たちでした)。
◎記録されなかった議論
もちろんそれには非暴力、順法、そして基本法の枠内に運動をとどめてきた泛民の問題があります。映画では非暴力か実力闘争かという、やや分かりやすい構図で紹介されていましたが、基本法を巡る立場の違い、中国本土全体の民主化を射程にいれた戦略(泛民は中国の民主化を主張しつつ、じつは中国と香港は「一国二制度」によって隔絶させるべき、という結果的には本土派の主張とかわるところがない)などの議論については、ほとんど映画では取り上げられることがなかったと思います。
その点については、友人の區龍宇さんの『香港の反乱2019 抵抗運動と中国のゆくえ』(寺本勉訳、柘植書房新社、2021年10月)で述べられていますし、こちらのページでも繰り返し論考を翻訳掲載してきました。
#fight for Hong Kong 2019(東京)
https://www.facebook.com/107334657417337
◎五大訴求の誕生
映画で感心したのは、立法会選挙で演説した梁継平が五つ目の要求として「普通選挙の実施」を主張したことが大きく取り上げられていたことです。じつはそれまでは「普通選挙の実施」は反送中運動のスローガンに入っていませんでした(あるいは中途半端な泛民の主張しかなかった)。5つ目の要求それが確定したのがこの立法会選挙だった、というのは『香港の反乱2019』でも書かれています。あんまり誰も注目しないけど。
もう一つは理工大学の籠城闘争で機動隊に包囲された学生らを救出しようとする市民らの決起。結果的に機動隊の包囲を突破することはできなったが、あれはデモや籠城という市街戦が本当の蜂起と革命に転化するかどうかの分水嶺であり、残念ながら革命には転化しなかった、というのが區龍宇さんの分析だった。(どこに書いてたか忘れたけど)。
あれもこれもという、盛りだくさんのパッションや情報が詰まった映画『時代革命』、あまりに色々と感想があり過ぎて、時間が取れないのですが、まずは『香港の反乱2019』をもう一度読み返してみることにします。
◎消えた8・5三罷スト
そして敢えて「あれは?これは?なぜないの?」ということを言います。
100万、200万の香港中心部でのデモから、7・21元朗事件や8・31太子駅事件を引き起こすことになった香港全土へのデモの広がりの嚆矢となり、11月の中文大学や理工大学の籠城闘争の当初の目的であった「ストライキに決起させる」モデルとなった8月5日の「三罷」(ゼネスト)のことがまったく触れられていませんでした。
映画では全く触れられていなかった理由が労働運動と街頭戦というステージの違いで説明できるものではありません。
6月の100万人や200万+1人のデモや7月1日の立法会占拠、そして勇武派の激しい街頭闘争はもちろんですが、映画で全くスルーされている8月5日の三罷ストの成功がなければ、その後の国際空港占拠闘争や各地の中学校での学生らによる一連の人間の鎖アクションといった取り組みもなかったとまでは言えないかもしれませんが、希望を持って闘いができなかったでしょう(空港占拠や中学生らの人間の鎖のシーンは映画の最後の最後にちょろっとだけ出てくるだけですが、知っている人は大感動のシーンです)。
◎ストライキは出てくるには出てくるのだが…
じつは映画にもほんのちょっとだけ、ストライキのシーンが出てきます。ソーシャルワーカー労働組合のスト集会です。しかしそれは8月5日の三罷ではなく、おそらく(あまりにちらっとしか出てこなかったので確認できず)6月のストライキのシーンだったと思います。しかも映画でのそのストの扱いは「ストではダメだから」ということで陳おじさんが若者のために立ち上がるところで使われていた(気がする)。
つまり労働組合やストライキがそういう風に扱われているのです。しかも映画のクライマックスの大学籠城闘争の理由が「ストライキ」に市民を扇動し巻き込ませるための戦術だったのですが、手段が目的化するという、まさにこういう実力闘争ではよく見られる典型的なケース。その総括にとっても8月5日の三罷ストは、なぜ限定的とはいえ成功し、また何が足りなかったのかという総括の格好の材料のはず。
もちろん「ストイキをさせる」ことに対する批判的意見は映画でも戴耀廷(ベニー・タイ)が述べていました。しかし彼は「若者にそうさせてしまった我々世代の責任」(それ自体は正しい)と言うだけで、手段を目的化したことなどには触れず、むしろそのように決起した勇武派諸君はすばらしい、という流れだけになってしまったと感じました。
そういう意味で「あれは?これは?」という風に感じたわけです(「冷気軍師」でスイマセン!)。冒頭の「『時代革命』というタイトルに100%マッチした内容」というのもそういうことです。
◎香港烈火・・・くすぶり続ける炎
この点については、19年暮れに来日した區龍宇さんや陳怡さんの一連の論考、そしてこのかんでいえば、在外左派香港人でつくるプラットフォーム「流傘LAUSAN」に掲載されたZi-yuetさんの「香港烈火:燃燒のあとで」三部作などを日本語に訳して紹介するなど、まだまだやることはたくさんある。(Zi-yuet三部作の第一部は#fight for Hong Kong 2019(東京)に訳出してます)。
映画『時代革命』も後半は、かなり厳しい現実を映し出し、これから本当に希望があるのか、という思いにもさせられるかもしれない。激しい闘争で燃え尽きたかのような香港。しかし炎はくすぶり続けているし、炎を赤く燃やすであろう気流の流れは中国からも吹き続けている。それは悪臭ぷんぷんたる中国政府からのものだけでなく、抑圧に喘ぐ中国の労働者や農民、少数民族、#MeTooの女性たちやなどの嗚咽と怒りの吐息もある。微力ながらぼくもフーフーとやってみる。
最近はすっかりウクライナ(とくに2014年マイダン革命)の左翼の論考に没頭しているが、香港とウクライナ、ほんとうによく似ています。権力のヒドさはもちろん、右翼と左翼のスタンスや摩擦なども。またいずれどこかで論じてみたい気もするが、とりあえず山積みになった仕事をかたずけるのが先か。
映画『時代革命』は東京以外でも上映が始まるとおもうので、ぜひ観てほしいとおもいます。映画を見たら『香港の反乱2019』ももっとぐっと理解が深まるかも。そして、映画を巡る議論の場も、何らかの形で提供できればと思っています。できるかなー。
まだまだあるけど、とりあえず広東語で『香港に栄光あれ』は歌えるようにしようと決意しました。
オマケ じつは『時代革命』と同時上映されていて先に上映が終了してしまった映画『憂鬱之島BLUE ISLAND』という映画、病み上がり直後に上映が終了してしまうということで隔離解除とほぼ同時にフラフラになりながら観ていました。『憂鬱之島』も香港運動史マニアにとってはかなりお勧め。さらに香港トロツキスト史という超マイナーなマニアにとっては「こんなところで!」という隠された驚きがあったのですが、それはまた体力が回復してからゆっくりと。

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