分析の論調は「中国はロシアに出し抜かれた」という感じでしょうかね。特別な情報が書かれているわけではありませんが、「中国政府の冷静な判断」を持ち上げる親中派リベラルの人もいるようなので、敢えて訳してみました。
「平和の祭典」などというアホなフレーズをいまだに掲げているオリンピックの開幕式の当日に北京で習近平とプーチンの中ロ首脳会談が行われています。ものの見事に「戦争(準備)の祭典」になりました。パラはそもそも負傷兵のリハビリ目的だし競技も軍事関連が多い。ロシアは五輪出場停止なので本来プーチンが公式に五輪関連のイベントには参加できないのですが、習近平国家主席の個人的な招待という事で開幕式にも参加してます。
・習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領と会談(2022年02月05日)
・习近平同俄罗斯总统普京会谈 (2022-02-04 17:50:27 来源: 新华网)
この首脳会談でウクライナ侵攻に(暗黙の)合意をしたと考えるのが普通かもしれませんが、翻訳した記事の内容を考慮すると、せいぜいのところ東部に限定的した侵攻を五輪後に行うことに合意した、あるいはせめて五輪期間中に作戦を開始しないことに合意したという感じでしょうか(見返りとしてのドーピング黙認?)。
首脳会談では「新時代の国際関係とグローバルで持続可能な開発に関する共同声明」というのが出されています。
・首脳会談で合意された「新時代の国際関係とグローバルで持続可能な開発に関する共同声明」(中国語)
・中华人民共和国和俄罗斯联邦关于新时代国际关系和全球可持续发展的联合声明(全文)
https://www.fmprc.gov.cn/web/ziliao_674904/1179_674909/202202/t20220204_10638953.shtml
今から思うと、NATO vs ロシアの構図が「新時代の国際関係」かよ!と言いたくもなりますが、まさかロシアが戦争するとは思ってもみなかった反米左翼などはこの共同声明が世界に向けた平和声明だと勘違いしたのではないかと思います。この共同声明を使って「平和の宣言だ!」などという輩がでなかったのは、不幸中の幸いかも。
日本の状況からつけ加えるとすれば、ロシアの侵攻を機に「台湾も危ない」「南西諸島の軍備の強化を」「自衛隊にも交戦権を」とか煽ってる戦争屋に対しては、この事態をみて紛争にならないように平和的外交しか道はないという世論を対置するしかないですね。そのためには「台湾地区は最終的に祖国の懐に帰ることになる」としか言わない民族共産主義者による一国社会主義のなれの果ての祖国主義から民衆が解放されなければならないとも思うのですけど。
とはいえ、僕もまさかプーチンが首都侵攻まではやると思ってなかったのでやや驚いていますが、それでもダテに「ファシスト」とか「日帝の手先」とか「右翼日和見主義」とか「極左暴力集団」とか言われてきたわけではないので、こんな共同声明に浮かれることはなかったのですけど。時間がもったいないけどそのうちDeepLで翻訳して公開するか。
中国にとってウクライナ(一帯一路の中央アジアと欧州のつなぎめ)、中国にとってロシア(エネルギー輸入国)はどういう関係かを論じた同メディアの記事もあるのでそっちが先かな。
前書きが長くなりましたが、以下翻訳です。
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「弄ばれる」中国? プーチンが戦争に踏み切った背景にある脆弱な露中同盟
(原文) 被「戲耍」的中國?普京開戰決策背後脆弱的中俄聯盟
「友軍」の情報を信用し、いわゆる「向こう側」の情報は無視する習慣。この点で、中国の指導部と微博の「国師」(政府寄りコメントで人気のある知識人ら:訳注)は高い一致を見せている。
昌西 2022-03-01
ロシアのウクライナ侵攻について、在ウクライナ中国大使館は4日間で3回連続してあい矛盾する声明を発表した。ロシアとウクライナの対立は依然として東部の情勢の変化だと主張し、中国国旗の掲示を促し、自分の身分を勝手に明かさないように注意した。こうした矛盾した不適切な公式声明は、ウクライナの中国領事業務の失敗を意味するだけでなく、中国によるロシアのウクライナ侵攻に対する大きな誤解を生んでいる。
■ 不安定な大使館声明、未実施の避難措置
一方、在ウクライナ中国大使館は、行動の質、時間軸ともに明らかに他国に遅れをとっている。
2月22日、在ウクライナ中国大使館はWeChatで「中国市民の安全確保のための注意喚起」と題するツイートを行った。この短い発表の中で、在ウクライナ中国大使館は、ウクライナ情勢を「東部情勢に大きな変化があった」と表現した。その中で中国の外交官は、ウクライナの国民に対し、「現地で出された治安上の注意事項に注意を払い、不安定な地域への渡航を控えること」、「安全対策への意識を高め、食料や飲料水などの必需品を適時に備蓄すること」などを呼びかけた。2月21日、ロシアのプーチン大統領は、ドネツク州とルハンスク州の独立を承認し、これらの地域への軍隊の派遣を開始すると発表した。
2月24日、大使館は警備態勢を「厳戒態勢」に格上げした。 大使館はツイートの中で、「2月24日以降、ウクライナ情勢は劇的に悪化し、いくつかの都市で爆弾テロが発生し、すでに軍事作戦が展開され、ウクライナの安全保障上のリスクは飛躍的に高まっている」と述べている。最も注目されたのは、「自動車で長距離を移動する場合、途中のガソリンスタンドが閉鎖され、旅が続けられなくなることを防ぐため、燃料の有無に注意すること。中国の国旗を車体に目立つように表示してもいい」と書き込んだ。これは中国映画「狼男2」で、主演の呉京が道をふさいだアフリカで武装勢力に対して中国国旗を掲げて無事通過するシーンと符合している。
しかし、2日も経たないうちに、在ウクライナ中国大使館は「現在のウクライナの特別な安全保障状況において、我々はウクライナ国民との友好関係を重視し、特定の問題をめぐる紛争を避けるべき……外出を控え、身分を明かしたり、識別できる表彰をむやみに掲示しないこと」と、先のツイートとは逆のアドバイスをした。同じ政府機関が、ウクライナにいる中国人に対して、「中国国旗を目立つ場所に掲示すること」から「むやみに身元を明かしたり、識別標識を表示しないこと」に変化する48時間のうちに、まったく矛盾した安全上のアドバイスをしているのである。
大使館が言及した「特定の問題をめぐる紛争を避ける」「むやみに身元を明かすような表示をしない」という言葉の出所は、中国のインターネットで拡散された「ウクライナの美女なら受け入れる」という戦争を助長するような投稿と関係があるという。中国のインターネットに出回ったスクリーンショットによると、ウクライナに取り残された一部の学生が武装したキエフ市民に尋問され、中国人ではないと嘘をついて逃亡したという。これらのネット上の書き込みは、ロシアの侵略を支持する中国国内の書き込みとともに、他国のインターネットユーザーに発見され、ウクライナ国民の怒りを買ったと言われている。
領事業務については、在ウクライナ中国大使館が在ウクライナ中国人の登録を開始したのは2月24日からで、避難の準備を開始した。大使館が発表した声明によると、現地時間の2月27日までに登録手続きを完了することになっている。しかし、ウクライナはロシアの侵攻直後の2月25日、民間旅客機の領空を閉鎖してしまった。 中国側が避難の問題をどのように解決するかは現時点ではまだ不明である。
中国時間の27日午前4時、在ウクライナ中国大使の範先栄氏はWeChatを通じて公開書簡を発表し、同国を離れていないことを明らかにするとともに、「皆さん、平和で豊かな時間をお過ごしください!」と祈願した。範大使は書簡の中で、ウクライナから出国したのではないことを明らかにした。範氏は書簡で、中国大使館が全員の安全を無視することはないと表明したものの、ウクライナにいる中国人に自宅待機を求め、「現在の治安状況がすべての場所で整っていないのは事実」と、避難の時期が決まっていないことを明らかにした。「空にはミサイルが飛び交い、地上では爆発や銃撃があり、2つの軍隊の間で戦争が起こっています。夜間外出禁止令が次々に発令される状況で安全を確保できません。そんな状況で移動するとなると家族はさぞ心配するでしょう。ですから、安全になるまで待つしかないのです。 そうするほうが確実なのです。」
中国大使館の呼びかけに比べると、世界各国の大使館や外務省はウクライナ情勢について警告を発した。カナダのメラニー・ジョリー外相は、早くも2月11日にもカナダ国民に国外退去を呼び掛けた。同日、米国のブリンケン国務長官が自国民に対して同様の警告を発した。イギリスとノルウェーの外務省も同日、自国民に退避を呼びかけた。
アジア諸国では、日本と韓国が2月11日に自国民に対してウクライナからできるだけ早く脱出するよう呼びかけた。シンガポール外務省は2月13日、中華民国(台湾)外務省は2月16日、自国民に対してウクライナへの渡航を避けるよう警告を発した。
戦前、外交的解決の仲介に全力を挙げていたフランスでさえ、ロシアによるウクライナ侵攻の前日、2月23日に自国民に国外退去を要請している。 一方、在ウクライナ中国大使館は、行動の質、時系列ともに他国より明らかに遅れていた。 2月27日、中国の公式メディア「環球時報」は、ウクライナでの避難の進捗状況を伝える記事を掲載し、その中で、大使館の職員が「チャーター便の実施は難しい」とした上で、「大使館は他の避難方法を積極的に検討しており、安全条件が整い次第、開始する予定だ」と述べたという。
また、同じように領空封鎖のリスクに直面している台湾の中国テレビニュースの映像では、中華民国外交部がウクライナに閉じ込められた6人の国民をポーランドに避難させるために、青天白日旗(訳注:青天白日旗なら国民党旗だが、おそらく青天白日満地紅旗=中華民国の国旗の間違いか)を掲示したバスで50時間かけて脱出したことが紹介されている。また、Times of India紙は、ロシア・ウクライナ戦争後に、インドは5回の避難を完了し、5回の避難で249人のインド人を救出したと報じた。ウクライナでは旅客機が利用できないため、インドはウクライナの隣国ルーマニアからのチャーター便を手配し、陸路でウクライナから避難した市民を救出した。
新華社通信によると、3月1日未明の時点で、中国はウクライナから第一陣の中国国民の避難を開始したというが、それ以上の詳細は明らかにされていない。
■ 情報の混乱
これまでの報道によると、ロシアのウクライナ侵攻の決定に対して、中国側は十分な準備ができていなかったという。
中国大使館の領事業務の質が市民や華僑から批判されているが、中国が抱えるジレンマは、領事業務や外交官個人のレベルだけの問題ではない。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、北京での冬季オリンピック開幕日にロシアとの協力関係を深める宣言に署名したことで、習近平の侵略リスクに対する判断が揺らいだ、と報じた。記事は、中国の最高指導部がロシアのウクライナ侵攻の可能性を完全には無視しないまでも軽視していることに触れ、会談でプーチンの米国に対する不満が深く響いたという情報筋の話を引用している。 また、同筋によると、プーチンの会話の中で、ウクライナへの具体的な侵攻計画は語られなかったという。
ロシアがウクライナに本格的に侵攻したことで、世界はロシア・ウクライナ戦争における中国の立ち位置に関心を持つようになった。中国の外務省はロシア寄りで、米国とNATOを繰り返し非難しながらも、あまり明確な立場を表明することを避けている。 2月26日に外交部が発表した「現在のウクライナ問題に対する中国の5つの立場」では、「一国の安全が他の国の安全を犠牲にして妥協することはできず、軍事ブロックの強化や拡大によっても地域の安全は保証されない」と主張し、NATOの拡大を明確に指摘している。 中国は、ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連安保理決議にロシアと一緒に反対票を投じることなく、棄権を選択した。
この曖昧さの原因は、中国が他の情報源からの情報を信用せず、ロシアの侵攻という事実に驚いていることにある。 2月25日のNew York Timesの報道によると、ロシア戦争の3ヶ月前、バイデン政権の高官は、ロシアがウクライナに侵攻することを示す情報があり、中国と習近平主席が介入することを期待していると繰り返し中国に伝えたが、これらの要請は繰り返し中国に拒否されたとある。この会談で、米国は中国に対し、プーチンがウクライナで戦争を起こせば、米国とその同盟国はロシアに厳しい制裁を科すと明言した。中国とロシアの経済・貿易関係が緊密であることから、この制裁は中国にも影響を与えることになる。 また、米国は、2014年のクリミア侵攻後、中国がロシアの制裁回避に協力したことを認識していると言及した。ロシアの侵略の危険性があるとして介入を拒否したのは、中国の王毅外相や秦剛駐米中国大使などであったという。さらに、中国は米国が伝えた情報をロシアと共有し、米国が中国とロシア連邦の間に溝を作ろうとしていると非難している。
中国の著名な政治・軍事評論家や「国師」(政府寄りの発言をする知識人など)の中にも、ウクライナ情勢を見誤る人がいる。
例えば、著名な国際専門家で中国人民大学国際関係学院副院長の金燦栄氏は、自身の微博アカウントで「残念ながら、ここ数日、ロシア・ウクライナ情勢の動向について、私はまた間違っていた」と、ロシアのウクライナ侵略はないと誤った予測をした後の状況判断を認めている。 このことは、社会科学の予測機能そのものが、まだまだ貧弱であることを改めて示している。しかし、金教授の微博アカウントでは、ロシアメディアが伝える「ウクライナの海軍と空軍は全滅した」「ウクライナ空軍は戦闘能力を失った」といった中国メディアのフェイクニュースが相変わらず多く見られた。
微博で164万人のフォロワーを持つ復旦大学国際政治学部の人気講師、沈逸氏も「ロシアはウクライナに侵攻しない」と予測したが、事実が変わった後、微博で自分の誤りを認めた。 沈氏の微博アカウントでは、「ウクライナ大統領がキエフを出発した」など、ロシアメディアのフェイクニュースも残されている。
これらの論者が用いた情報源を見れば、この誤判断の根本的な原因は容易に理解できるだろう。 ロシアの一声を意図的に広めようとしたのか、「友軍」の情報を信じていわゆる「向こう側」の情報を無視する癖がついたのか、結果的に予測と判断を誤ることになった。この点で、中国指導部と微博の「国師」は高いレベルで一致を見せている。
■ 脆弱な「ロシアと中国の同盟」
中国にとってより重要なことは、ロシアが、構造改革、人権、貿易の不平等に関する民主主義世界からの圧力を共有できる「パートナー」であることだ。
ウクライナ戦争が続き、ロシアに対する制裁が強化される中、中国はロシアとのパートナーシップを視野に入れた場合、何らかのトレードオフを迫られる可能性がある。
中国税関総署の数字によると、中国とロシアの貿易総額は2021年に過去最高の1470億米ドルに達する見込み。しかし、この数字は、2022年1月14日に中国税関総署が発表した総額6兆500億米ドルと比較すると、対外貿易全体のわずか2.4%に過ぎない。2021年、中国の5大貿易相手国は、ASEAN、EU、米国、日本、韓国。ASEANを除く他の4つの貿易相手国は、いずれも今回の対ロ制裁に加わっている。トップ5の最後の相手国である韓国は、中国の対ロ貿易総額の3倍近い貿易量を誇っている。
ロシアに侵略されたウクライナは、中国の東欧における「一帯一路」戦略における重要なパートナーである。また、中国はウクライナにとって最大の貿易国である。
しかし、中国にとってより重要なことは、ロシアは構造改革、人権、貿易の不平等に関する民主主義世界からの圧力を共有できる「パートナー」であり、同時に中国の台頭から身を守ろうとする米国を抑え込むことができることである。前述した欧米に対する不満は、この2つの権威主義国家の指導者の心にも響く。 しかし、ロシアにとって中国は友人ではなく、同盟というより、共通の敵がいるゲームパートナーのような関係である。
戦争が始まって以来、中国が統一した親ロシアの宣伝路線を設定したという明確な兆候はないが、各メディアはロシア発の報道に追随している。 2月22日、「新京報」新聞の国際ニュース欄「世面」の公式の微博アカウントで、「今後のウクライナ関連のツイートについて」という内部指示のメッセージが、「うっかりして」掲載された。そこでは「今後、ウクライナ関連のツイートは、まず世面アカウントが投稿し、次に新聞社本体のアカウントでフォローする。ロシアに不利なツイートはしない。最初にツイートする前に内容を報告すること」。さらに、フォロワーからのコメントについては「適切なコメント」のみ掲載する「選択的掲載」することや、投稿者が責任を持つことを義務付け、各記事は最低2日間は監視するよう喚起している。同時に、プーチン演説後に中国のソーシャルメディアにも、反戦的な内容やヒトラー演説との比較などが投稿されたものの、これらは中国のネット情報当局によって削除された。
しかし、多くの国家が一致してロシアを非難し、実際に多くの国から制裁を受けたことで、中国の考え方は変わってきているのかもしれない。2月28日の外務省定例記者会見で、「ウクライナを主権国家と認めた場合、ロシア側にウクライナの民主的に選出された政府を尊重するよう呼びかけるのか」との質問に、汪文斌報道官は「一国の安全は他国の安全を損なうことに基づいてはならない」という言葉を繰り返しながらも、それは「ロシアの正当な安全保障上の懸念は真剣に受け止め、適切に対処すべき」ということよりも、「すべての国の正当な安全保障上の懸念は尊重されるべきである」ということを言いたいのではないかと思えた。これはNATOに対してというよりも、ロシアに対して「他国(中国)に不利益を与えて自国の軍事的絶対優位と安全を追求してはならない」ことに暗に言及しているように思われる。
ロシアとウクライナの戦争や交渉が進むにつれて、中国の立場も在ウクライナ大使館の発言と同じように変わっていくかもしれない。しかし、いずれにせよ、中国が再び「パートナー」としてのロシアと対峙するとき、その「不戦」の誓いを再び信じることは難しいだろう。

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