她在哪里?

今日は「#WHERE IS SHE?/她在哪里?/彼女はどこに?」という話をしたいと思います。

去年、中国のオリンピアンで女子テニスプレイヤーの彭師(ほうすい/ポン・シュワイ)さんが、中国の前副首相だった張高麗に肉体関係を強要される性暴力を匂わせる内容をSNSで拡散して、しばらく連絡が取れなくなったという事件があったことはご存じだと思います。多くの著名なテニスプレイヤーや国際女子テニス協会が彼女の行方を案じ、国際的にも「#WHEREIS PENGSHUAI」(彭師さんはどこにいる)が注目されました。昨日ですか、IOCのバッハ会長が彼女と会食をしたという話も報じられました。
しかし今日は、その話はしません。また東京五輪と同じように、市民のコロナ対策を犠牲にするバブル方式で行われる北京五輪の話も直接的にはしません。民族抑圧とグローバル資本の搾取という二重の抑圧にあるウィグルの話もしません。
今日は彭師さんではない、別の「彼女はどこに?」の話をしたいと思います。
2015年7月末、マレーシアのクアラルンプールのIOC総会で、2022年北京冬季五輪が決まりました。きっと巨額のチャイナマネーが動いたのでしょう。ちなみに当時のマレーシアのナジブ首相は中国政府との関係が深く、今回の冬季五輪の会場の一つになっている民間スキー場を経営するマレーの華僑資本から、巨額の献金を受け取っていました。
クアラルンプールIOC総会のおよそ3週間前の2015年7月9日、中国全土で280人もの人権弁護士が一斉に検挙されるという事件がありました。709弾圧事件です。
そしてその4か月前の3月7日、国際女性デーの一日前ですが、中国でアクティヴに活動していた李麦子、韋婷婷、武嶸嶸、鄭楚然、王曼の5人のフェミニスト(女权五姐妹)が逮捕されています。当局は「社会に混乱をもたらす」として彼女らを逮捕しましたが、彼女たちは交通機関などの公共空間での性暴力の撲滅を訴えたり、制定されたばかりのDV法を社会的に広めようと街頭アクションなど企画していたと言います。当局にとって家父長的な性暴力社会に混乱をもたらすことが犯罪にあたると考えたのでしょうか。

彼女たちは一か月ほどで釈放され、一年後に起訴猶予となりましたが、生き生きとした行動派フェミニストの活動は、この弾圧を機に、厳しい監視体制の下に置かれます。つまり、五輪招致がきまった2015年から現在までずっと中国の社会運動、とりわけ男社会にNOを突き付けたフェミニスト活動家は厳しい状況に置かれることになったのです。

つぎに、この黄雪琴さんもいま当局の弾圧に遭っています。中国でも広がった#MeToo運動の立役者の一人でした。2017年に記者だった彼女は、報道業界の女性記者らが仕事中に受けたセクハラ調査を実施するなど活躍。2018年には、北京大学の在学中に大学教員からセクハラを受けたことを告発した女性被害者と協力して加害者の実名報道を行います。じつは彼女自身が上司からセクハラを受けていたことなども後に告白するのですが、フリーになったあとも2019年の香港のデモを中国港内で報じたりして、当局からにらまれていました。その黄さんは21年9月に労災支援の活動家と一緒にいたところ当局に拘束され、11月に「国家政権転覆」の容疑で起訴され、いまも獄中に囚われています。彼女はインタビューの中で、なぜそれほど前向きに取り組めるのか、と問われ「私が前向きなのではなく、社会があまりに後ろ向きすぎるのです」と答えていました。

この黄雪琴さんが2018年に報じた北京大学のセクハラ事件で、大学当局が加害者を処分しないことに憤って当局を突き上げたのが、当時、北京大学の学生だったこの岳昕さんでした。彼女もいま行方が分かりません。大学当局のセクハラ対策に抗議したからではありません。大学当局はさまざまな圧力を彼女にかけますが、彼女は自分の信念を曲げませんでした。そんな彼女が2018年の夏に、遠く離れた深圳で起こった労働争議、農民工らが自分たちで労働組合をつくろうとして解雇され、その解雇撤回争議を支援する大学生として彼女も現地に駆け付けましたが、8月末に他の学生支援者ら50名とともに一斉に弾圧されました。その後、当局によって監禁された場所で、自らの行いが間違っていたこと、罪を償ってこれからは党と国家の発展に自分も貢献したいなどと発言したいわゆる「自白ビデオ」を撮られていたことが分かりましたが、その後も彼女の行方は分かっていません。

岳昕さんらが支援した労働争議を一緒に支援したなかに、沈夢雨さんがいました。彼女も名門の広州大学の大学院を修了して、2015年に地元にある日本企業に就職し、賃上げなどの待遇改善に奔走するさなか、目立ち過ぎた彼女は、2018年に労資協調の官製労働組合からパージされ、会社からも解雇されてしまいました。労働仲裁委員会に解雇撤回を提訴しつつ、岳昕さんらの支援する農民工の解雇争議にも全力で支援するさなかの2015年8月初めに、親戚だと名乗る男性らに拉致され、そのまま行方が分からなくなり、岳昕さんと同じように「自白ビデオ」を撮られ、その後は行方が分かっていません。岳昕さんや弾圧された他の学生らと同じく、沈夢雨さんも労働者が虐げられる社会の変革を強く望んでいました(こちらの「後悔なき選択」を参照)。

沈夢雨さんと同じように労働運動に関わったことで、弾圧された朱小梅さんに対する弾圧も紹介しておきます。工場労働者だった彼女は2014年に組合を組織しようとして解雇されますが、解雇は不当だと訴えて23万元の賠償金をとって勝利和解します。その経験を他の仲間にも伝えるために広東省の労働NGOで活動をします。工場移転で解雇される労働者の支援に入り、団体交渉を通じて補償金を獲得するなど活躍しました。五輪招致が決まった2015年の暮れ、「社会秩序を乱した」として、ほかの仲間らと一斉に弾圧され、2016年9月の判決で執行猶予付2年の18カ月の禁固刑の判決を受けます。すでに執行猶予期間を終えていますが、その後、彼女がどこでどんな活動をしているのかは分かっていません。

朱小梅さんら広東省の労働NGOは、距離的にも近い香港の民主派ナショナルセンターなどとも交流をしていました。その香港では2019年の反乱に対する弾圧法として国家安全維持法が制定され、民主派組織や民主派メディアなどが解散を迫られる、きわめて厳しい状況にあります。呉敏兒さんは民主派ナショナルセンターの委員長として2019年のたたかいに参加し、8月5日の三罷スト(ゼネスト)などに奔走するなど活躍してきました(「8・5ストライキ集会に29万人が参加」を参照)。しかし、その彼女も2021年1月に国家安全維持法違反で逮捕され、いま多くの民主派の活動家とともに監獄のなかです。

香港では89年の北京の春という民主化運動に対する大弾圧である六四天安門事件の犠牲者を追悼し、名誉回復を求める追悼集会が、中国国内では唯一続けられてきました。しかし20年、21年と二年連続でコロナを理由に集会は禁止されました。この追悼集会の主催団体「支聯会」の副代表で、21年6月4日に禁じられた集会場に訪れたことが、「煽動」とみなされ、昨年8月に逮捕(今年1月に22ケ月の実刑判決)、その後、「国家政権転覆」の容疑でも起訴されているのが弁護士の鄒幸彤さんです。彼女は支聯会の他のメンバーが組織の解散を主張するなか、ほぼ唯一解散に反対を貫きました。北京では国家主義と金権主義の炎が灯され、香港では民主化を求める火が闇に包まれるなか、彼女は獄中で持てる全て権利を行使して裁判闘争をたたかっています。

今回の北京五輪は、東京五輪よりも完全な「バブル方式」で行われています。しかしバブル内のパラレルワールドの防疫は、その外側における市民の公共衛生の犠牲と一体であることは東京五輪でも証明されています。中国は人海戦術とより徹底した人身の移動の制限によって完璧なバブルを作り出したと言います。しかしそれがどのようにおこなわれたのか。最初に行われた2020年2月の武漢でのロックダウンの様子を撮影し、発信した張展さんは同年5月に逮捕され、虚偽情報を流したとして9月に起訴され、12月に社会秩序騒乱罪で懲役4年の実刑判決を受けて服役中です。

コロナ感染でロックダウンなどが行われた北京では、農民工らが従事する街頭の清掃員らにマスクを配る活動を行ったりしていた李翹楚さんが、2021年3月に「国家転覆扇動」の容疑で逮捕されています。彼女のパートナーで、同じく人権活動を理由に逮捕された許志永さんの獄中での待遇改善を訴えたことが弾圧の直接の理由ですが、彼女自身の活動の経歴も重要です。2017年11月に北京郊外の農民工らが集住する地区で火災が発生し、当局はそのような貧困地区を取り壊し、農民工ら貧しい人々(当局は「ローエンド人口」と呼んだ)を北京から追い出すことで問題を解決しようとしました。彼女は住むところを追われた住民らに住居を提供する活動などにも参加していました。これらの農民工の多くは2008年の北京五輪の関連工事やその後の都市開発のために農村からやってきた労働者たちでした。当局の追い出しに対して「08年の北京五輪のために身を粉にして働いたが、要らなくなったらポイ捨てか」という怨嗟の声が聞かれたと言います。

まだまだたくさんの「#WHERE IS SHE?/她在哪里?」があります。この写真は、中国のラディカルフェミニズムのポータルサイト的役割を果たしてきた「女権之声」が2018年に閉鎖されたことに抗議するパフォーマンスです。「女権」とはフェミニズムのことで、「女権之声」と書かれたお墓で埋葬している様子です。その傍らには「女権不死(フェミニズムは死なず)」と書かれた文字も見えます。
オリパラは国家主義と金権主義、そして家父長制の男主義に貫かれています。厳しい状況の中ふんばる「女権之声」につながるためにも「#WHERE IS SHE?/她在哪里?」の問いを発し、「女権不死!」の声とつながり続けていきたいと思います。

#女権不死!
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