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懲りない資本主義の救済策~日銀の社債購入

5月1日のFridays For Fair Financial(FFFF)~公正な金融のための金曜日@日銀前スタンディング(その5)の発言原稿です。時間がなくて端折って発言したのでわかりにくかったですね、反省。

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こんばんは。せっかく日銀前ですので、4月27日の金融政策決定会合についてお話します。金融政策決定会合は年8回開かれる日本銀行の金融政策に関する会合で、総裁、2名の副総裁、トヨタや三菱UFJ銀行、新生銀行などの出身者の7名の政策委員が政策を議論し、多数決で金融政策を決めます。オブザーバーとして財務省と内閣府も参加し、意見や動議を提出することもあります。

●「やれることはなんでもやる」は間違い

今回の会合で「国債を無制限に購入」という報道がされました。これはこれまで年間80兆円をめどに購入するという上限があったのですが、その年間80兆円という上限を撤廃したということです。実際には、昨年は14兆円程度の購入ということで、げんざい市場にでまわっている国債の40%以上を保有している日銀の国債保有率を下げていくようにしてきたのですが、3月からのパンデミック恐慌に際して、政府が新規国債の発行を大幅に拡大することから、それに対応したものだといえます。

黒田総裁は記者会見で「中央銀行がやれることはなんでもやる」と発言しています。しかし、禁じ手とされる政府の財政不足をまかなうために中央銀行が国債を引き受ける「財政ファイナンス」や金利をさらにマイナスにするなど、中央銀行はやれることはまだまだたくさんありますが、やれるからやる、ということは間違いです。やってはならないことはやってはならないのです。

●10年たっても2%物価目標は達成されない

2013年4月、アベノミクスの第一の矢として黒田日銀はマネーの量と質に働きかけ、マネタリーベース(日銀当座預金と市中の現金)や保有する長期国債やETFを2倍にすることで2%の物価上昇を2年程度で実現することで、民間の経済活性化を促すという、いわゆる「異次元緩和」を発表しました。

27日の会合では、「経済・物価情勢の展望」という2022年度までの経済見通しを公表しました。そこでは20年の成長率がマイナス3~マイナス5%と予想されています。1月時点ではプラス0.9%でしたので、大幅なマイナス成長になります。そして黒田総裁の任期が切れる22年度の予想は0.8~最大1.6%でした。つまり異次元緩和が始まってから10年がたっても、2%の物価上昇という目標は達成できないという見通しです。

そもそもこの2%の物価上昇ですが、将来物価が2%あがるので、今のうちに投資をしておいたほうが得だと考えるキャピタリストの投資意欲を誘導するための政策です。もちろんその想定として賃金も同じ程度上がるということが含まれているのでしょうが、物価もあがって消費税や社会保険料などの支出も増えていれば、労働者にとってはプラスどころかマイナスでしかありません。

黒田総裁は記者会見で任期中に2%目標は達成できないのでは、という質問にこう述べています。

「世界的な感染拡大と原油価格の大幅な下落という極めて大きな外的ショックで物価は当面弱含むが、影響が和らいでいけば経済は改善し、物価も徐々に上昇率を高めるとみている。2%の物価安定目標を目指していることに変わりなく、強力な金融緩和を粘り強く続けていく」

懲りもせず、といいたいところですが、コロナのおかげで2%目標が達成できなくても責任が問われないので内心ホっとしているのかもしれません。2%の物価目標など実現しません。それは本人らもよくご存じだったと思います。オリンピックの夢も潰え、パンデミック恐慌につづいてオリンピック恐慌の足音も聞こえています。ますます無理でしょう。

●日銀の社債の購入拡大

さて、2%物価目標や国債の無制限購入以外に、もうひとつ緩和策を発表しています。それは大企業が短期的な資金をあつめるために発行する社債やコマーシャルぺーパーという、いわば国債の企業版という金融資産の購入もさらに拡大することになりました。導入されたのはリーマン後の2010年10月の白川総裁の時の「包括的な金融緩和」ですが、このときは金利低下への「異例の対応」ということで、日銀のバランスシートとは別枠で「資産買入等の基金」を作っていたのですが、アベノミクスでは、基金を廃止して、本体のバランスシートの中に入れてしまいました。異例の対応が、異次元緩和ではニュー・ノーマルな業務になってしまったわけです。

27日の会合では、CPと社債の買い入れ枠を、それぞれ1兆円から7.5兆円、合計15兆円に拡大します。現在保有するCP2兆円、社債3兆円の合計5兆円と合わせた20兆円に拡大します。

日銀のCP社債購入の上限は、1社あたりの社債買い入れは、これまでは発行残高の25%または1000億円でしたが、それを30%または3000億円と拡大し、償還までの残存期間の上限も3年から5年に緩和しました。

これのなにが問題なのかです。

●社債購入は大企業のレバレッジ=借金救済

すでに以前、ANAやトヨタなどへの巨額の融資枠を日銀マネーが支えていることは発言しましたが、このCP社債というのは会社の借金なわけです。株式とは違います。株は発行したらそれを買った株主に毎年配当を還元する。CPや社債は期限が来たら元利をつけて返済しなければならい。じつはリーマン以降の事業会社はこの借金経営=レバレッジ経営の拡大を進めてきました。それが経済危機でいっきに危機に陥ったのです。日銀の社債やCP購入拡大は、社債やCPを発行することができる大企業の失敗した経営の救済にもなります。

28日から日経新聞では「コロナと資本主義」という連載記事を掲載しています。最初の回は、株主第一主義のアメリカ型資本主義がいまの企業危機を生みだしているという内容です。

リーマンやこれまでの金融恐慌とはことなり、今回のパンデミック恐慌では、金融機関の決済ができなくなってしまうという事態は起きていません。しかしたとえば「米デルタ航空は現預金28億ドルあるが毎日6000万ドルの現金が流出し、1か月半で干上がってしまうので54億ドルの政府支援を受け入れた」とか、アメリカン航空も58億ドル、ユナイデットは50億ドルの政府支援を受け入れたなど、巨大企業の狼狽ぶりが報じられています。

●自己資本利益率という株主ファーストの指標

巨額の現金はあるのですが、そのいっぽうで巨大な借金もあるのです。それはこの間の金融緩和によって世界中でマネーがあふれ低金利だったので資金を調達しやすくなっていました。また、リーマンショックで金融機関に強い規制がかかるようになったことから、マネーの多くは社債やCPなどに流れました。

日経の特集で言われているのが、株主第一の経営で投資家が重視したのが、自己資本1あたり、どれだけの純利益を生みだすのかという自己資本利益率(ROE)です。たとえば自己資本1000円で利益を100円生みだしたら、ROE自己資本利益率は10%です。一般的に日本の企業は10%弱、アメリカでは18%が平均ですが、アメリカン航空はなんと75%ものROEを誇っていました。単純な算数ですが、利益が伸びなくても自己資本を減らせばROEは増えます。どうやって自己資本を減らすのかですが、自社株買いです。出た利益を労働者に還元するのではなく、自社株を買って、買った株を消却、つまりなくしてしまうのです。そうすると株主一人当たりの配当も増えますので株主も喜びます。アメリカン航空は2019年までの5年間で118億ドルも自社株買いをしています。その資金は利子付きの負債です。5年前に比べて借金が8割増えてます。334億ドルとデルタやユナイデットも同じように負債が7割増えてます。航空機メーカーのボーイングも自社株買いのための借金が増えていました。その一方で研究費は自社株買いの半分もほどで、そのせいでボーイングの新型旅客機「737MAX」の事故で、2018年10月と19年3月にインドネシアとエチオピアでそれぞれ墜落事故が起き、合わせて346人が犠牲になった。

●リーマン以降に膨れ上がったレバレッジ経営


こういう借金経営はレバレッジ経営とよばれ、リーマン以降急増し、世界の上場7500社でも(総資産に占める有利子負債の比率は12年以降増加し19年には32%と18年ぶりの高水準など)増加しています。もちろん日本の大企業も同じでしょう。損失の緩衝材となる自己資本が株主ファーストの経営のためにどんどん脆弱になっています。まさに資本主義に繰り返される危機そのものです。

そして今回の日銀の緩和拡大ですが、FRBが「ジャンク債」、ジャンクフードのジャンクですね、と呼ばれる低い格付けの社債や投資不適格に転落した「フォーリン・エンジェル」といえばかわいいですが、「堕天使債券」の購入に踏み切ったことにあわせたものです。

報道でも言われていますが、これまでの緩和でリース会社や自動車系金融子会社などの社債は上限いっぱいまで日銀が買っていたので、さらに日銀が買ってくれるようになったのです。これに対して証券会社は「満額回答」と喜んでいます。報道でも「日産自動車やANAなど幅広い企業が恩恵を受けそうだ」と言われています。おそらくレバレッジ経営をやってきたのでしょう。

日本の社債とCPの発行残高は90兆円。今回の日銀枠20兆円は社債残高の15%、CP残高の4割にも上ります。まさに日本株式会社の財務部門となった感じのある日本銀行が発行する借用書=日本銀行券は、日本株式会社の社債となっています。

●危機を乗り越えてもまだ資本主義をめざすのか

民間の調査機関では100万人の失業者が出るという予測もあります。日経新聞の特集記事はこう締めくくられています。

「持続可能な経営という原点に企業が立ち返れば、資本主義がこの試練を乗り越える大きな力となる」

ここ連日のように、ステークホルダー資本主義、つまり株主資本主義ではなく、労働者もふくめた利害関係者すべての利益になるような資本主義こそが望ましい、というキャンペーンに必死です。

リーマン後にもこのような主張はたくさんでました。今回もまた同じです。しかし日本資本主義を救おうとしている日本銀行そのものが持続不可能な領域に完全に踏み込んでしまっています。

そして日銀の政策は、このパンデミック恐慌にいたってもいまだ、金融緩和というモルヒネ治療から抜け出すことができません。安倍政権を倒すこと、それも持続可能な資本主義という、幻想を持たずに倒すことが、日銀の金融政策を根本的に転換させる近道にほかなりません。

後記
企業のレバレッジ経営の問題については、5月1日の日経新聞でフィナンシャル・タイムズのマーティン・ウルフの論考が参考になります。また別途紹介します。

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