◎パンデミック債
つぎにパンデミック債についてです。世界銀行がパンデミックが起きた時に最貧国を支援するという目的で発行した金融商品のことです。
このパンデミック債ですが、2017年に世銀が発行したもので、今年の7月に償還を迎える総額3億2000万ドルの債権です。これを買った人は、普段は高い利息を受け取る代わりに、感染症が発生すると元本の一部または全額を感染症対策に使うので、一部あるいは満額を受け取れなくなるというリスクのある金融商品です。しかしあまりパンデミックが起きるとは予想されなかったのか、当初の予定額の2倍もの資金を集めた人気の高い金融商品でした。
普通より高い利息は日本やドイツ、オーストリアの政府が途上国の感染症対策という名目で資金を出しました。簡単に言えば税金で投資家にカネを流してきたということです。
そして今回のコロナ感染症でまさにパンデミック債の出番というところなのですが、じつはまったくその出番がない可能性があると言われているのです。つまり世銀が集めたこの資金が感染症対策にまわらない可能性があるということです。このままだと今年の7月に償還の期限を迎えて、そのまま額面額に利息をつけて投資家にお金を返すことになるからです。
パンデミックが実際に起きてるのに???という疑問がすぐに浮かびますね。
契約条件では、死亡者が最低2500人以上、死亡者の20人以上が外国人、WHOのパンデミック宣言から84日以上が経っていることなどが、資金を感染症に回す条件になっています。これらはクリアできているのですが、もうひとつの条件として「貧困度が高くパンデミック債に『適格』とされる場所で、感染が急速に高まること」というものがあり、7月までにそれをクリアできそうにないというのです。
具体的には、2020年の基準で、一人当たりの年間GNI(国民総収入)1175ドル(約13万円)以下の国76か国がパンデミック債の適格国とされています。これらの国で上記の条件をクリアすることで初めて、投資家から集めた資金の一部または全部を感染症対策に回せるのです。
アジアでは11か国、アフリカでは40か国がパンデミック債の発動対象地域なのですが、上記の複数の条件をすべてクリアする国がありません。
すでにアジアやアフリカでも感染の拡大が顕著になっています。フィリピン、マレーシア、インドネシアなどいずれも4000人以上の患者がでていますし、シンガポールやタイも3000人近くの患者が出ています。またアフリカでは南アフリカやアルジェリアで2000人以上の患者が出ていますが、これらの国々は、一人当たりの年間GNI(国民総収入)1175ドル(約13万円)を上回っている国なので、そもそもパンデミック債の発動対象にならないのです。
アメリカや日本の1人当たりのGNIは4万ドルを超えていますが、サハラ以南のアフリカでは1517ドルしかありません。医療費だけをみるとアメリカや日本が一人当たり4000ドル前後ですが、アフリカは80ドル程度であり、簡単にいえば50分の1しか命が守られない状態が世界の現状です。しかしそれもあくまで平均値なのでもっと苦しい人はたくさんいるのですが、残念ながら今回のパンデミック債は、その人々にお金を回すのではなく、投資家にカネを回すことになるのです。
パンデミック債の条件のひとつである、パンデミック宣言後84日経過というのは、宣言が3月11日に出されているのでクリアしてるのですが、死亡者が最低2500人以上、死亡者の20人以上が外国人という条件もいっしょにクリアしている最貧国がないのです。
よくよく考えたらそれはそのとおりで、最貧国で2500人もの感染者が発生していたら、パンデミック債などという悠長なことは言ってられませんし、外国人の感染者にしても、最貧国にはあまり外国人観光客はいないでしょう。いるのは世銀や商社などのスタッフでしょうが、部屋のなかで猫をなでたりダンスをしたりと、貴族のような生活をしているとおもわれるそれらの人々は、それなりに対策を取っているでしょうから、20人もの外国人が感染することはあまり考えられません。
今朝の日経新聞でもイギリスの国際公衆衛生の専門家の言葉を引用してパンデミック債の本質を報じています。
「パンデミック債は、感染症で困っている人を助けることよりも、投資家が損をしないことを重視してつくられた」
こういうわけなんです。
2014年のエボラ出血熱での遅れに遅れた対応の反省から作られたパンデミック債ですが、けっきょくは税金が投資家のハイリターンのために使われようとしているのです。
今日ここでこの話をしたのは、世界銀行や日本銀行などが参加するG20という会合が15日に開かれたからです。正式にはG20財務大臣・中央銀行総裁会合といいます。今回はテレビ会議でしたが。ふだんは20ヶ国持ち回りで行われています。
そのG20の会議の場で世界銀行やIMF(国際通貨基金)が先導する形で、パンデミックの危機にある途上国などの債務返済を支援しようという合意がなされました。
Attacの会員の方には釈迦に説法、馬の耳に念仏、豚に真珠なのでIMFや世銀の問題は詳しくは話しませんが、ようは世界規模で病院や学校など人々の生活にとって必要な公共サービスで、利益最優先の民営化をすすめてきた機関です。民営化で得たカネは先進国への借金返済にまわせ、ということです。
またこのIMFがG20に先立って4月13日に、アフリカやアジア、南米を中心とする貧困25か国に対して債務を救済する決定をしました。
イギリスの1.8億ドル、日本の1億ドルはじめ、5億ドルを贈与するというのです。しかしこのお金は何につかわれるのでしょうか。IMFのプレスリリースを読んでみます。
「最貧国が抱える対IMF債務の返済義務のうち、初回分として今後6か月分の返済をまかなう資金が贈与されます。」
何のことはない、日米欧、そして中国などが主導するIMFへの借金返済の当座のカネを渡す、というだけです。しかし貧しい国はそもそも借金を返済することはできないでしょう。そんなことは100も承知。それでも借金という鎖でがんじがらめにすることに、大国は利益を見出しているのです。
4月15日のG20でも同じような声明をだしています。もちろんIMFも正式メンバーです。日本からは麻生太郎財務大臣、黒田東彦日銀総裁が参加しています。声明を読んでみます。
「われわれは、猶予を求める最貧国のための債務返済の時限的な猶予を支持する。」
なんのことはありません。借金返済をすこし先延ばししてあげますよ、ということです。具体的には、2020年に返済期限を迎える債務の返済を1年先延ばしするというものです。報道では日米欧だけでなく中国からの借金も4割を占めており、中国の出方がカギだといわれています。
じつはその一日前の3月14日にG7という会合が開かれています。日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの7か国の財務大臣と中銀総裁の会合です。IMFも参加メンバーですが、ここで低所得国の債務を一定期間猶予することで足並みをそろえたという報道がありました。7か国で結束して中国にも同様の債務猶予を迫るための意志一致の会合です。もちろん貧困国のためを思ってではありません。自分たちだけが損をしないようにです。
ついに中国も債権者クラブの仲間入りかとも思いますが、とにも角にも、まずは日本政府や日本の金融機関が持っている公的債務を、繰り延べではなく、帳消しにすべきだという声を国内から上げていかなければならないと思います。
日本も大変なのに途上国支援?という声もあるようですが、経済大国は支援などしてません。援助交際の援助やサービス残業のサービスと同じように、債権国の支援は支援と称する搾取の継続にすぎないのです。こんな不公正な国際金融システムは根底から変えなければなりません。
IMFや世界銀行は80年代からは新自由主義政策を各国に押し付ける政策をとっており、社会運動からは厳しい非難の的にさらされてきました。くわしくはattacも出版に協力した『世界銀行』『世界の貧困をなくすための50の質問』などの書籍をぜひ手に取ってください。
「ストップ温暖化」につづく
スポンサーサイト