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ソーシャル・ディスタンシングとキャピタル・ディスタンシング

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飛沫感染や接触感染を防ぐために、2m以上離れる、仕事が終わったらまっすぐ家に帰ろう、外出は控えよう、などの呼びかけ、つまりソーシャル・ディスタンシングが提唱されています。日本では「距離」を意味する「ディスタンス」が使われていますが、「距離を取る」という意味の「ディスタンシング」が英語的には正しいと言われています。

このソーシャル・ディスタンシングですが、同志社大学の浜矩子さんによると、合理的な意義はわかるが、必要なことは物理的な距離を取ることであり、「フィジカル・ディスタンシング」が正しいのであり、こんな状況下では、ソーシャル、つまり社会的な距離はむしろ縮める努力をすべきではないか、と述べています。まったくその通りだとおもいます。Attacフランスの声明でも同じようなことが述べられています。

この「ソーシャル=社会」ですが、新自由主義の生みの親ともいえるイギリスのサッチャーは「社会などない」のであり民営化や新自由主義という選択肢しかないという意味で「There Is No Alternative」(=ほかに選択肢はない)、頭文字をとって「TINA」と呼ばれた言葉を使って、福祉や公共サービス、そして労働組合の連帯をつぶして新自由主義政策を進めていったことを思い出しました。

少し前になりますが、日本でも公開されたケン・ローチ監督の『家族を思うとき』という映画を見られた方も多いと思います。じつはサッチャーは「社会などない」のあとに「ただし、家族を除いて」と言ったといわれています。しかし原作のタイトルとは程遠い日本版タイトルの『家族を思うとき』を観れば、サッチャーがすすめた新自由主義は、ながく家父長制に支配され実体的にはとっくに崩壊していたといえる、その家族関係すらも押しつぶしてしまったことがよくわかります。

サッチャーの保守党の異端の後継者、ジョンソン首相はコロナ感染後に「社会は存在している」と発言したことをどこかで読みました。たしかに社会はあるのです。そして社会は多様な価値観を受け入れなければ存在しえません。難民受け入れ拒否の排外的世論に押し上げられたEU離脱論者のジョンソンは、自分やイギリス国民だけでなく、難民を含むすべての人に「社会が存在する」ことを実感させる必要があるのではないでしょうか。

話をTINAに戻しますと、じつはアベノマスクは2013年6月(11日)にスイス・ダボスで行われた世界経済フォーラムのjapan meetingでのスピーチでこのTINAを引用しています。その年の4月からはじまったアベノミクスを紹介するときに、こう述べているのです。

「今年は、世界から偉大な指導者が消えてしまいましたね。マーガレット・サッチャーのことです。There Is No Alternative。サッチャー首相の口癖でした。…私も、おなじです。これ以外の道はありません。やはり、成長しかありません。」

※6月19日には英・ロックアーンサミット参加の際に訪れたロンドン・シティで同様の演説をしている。 → attacこうとう「TINA(オルタナティブはない)VS. もうひとつの道はある」 2013/10/17掲載 http://attackoto.blog9.fc2.com/blog-entry-248.html

先日、4月7日に閣議決定された事業規模108兆円の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」では「日本経済を持続的な成長軌道へ戻すこと」が最終的な目標として語られています。2013年のアベノミクス開始から同じことを言い続けているようで、まったく成長のあとがみられません。

●過去最大の事業規模というが

過去最大規模といわれる今回の108兆円の緊急経済対策ですが、たしかに近年においても、1998年11月に、前年のアジア通貨危機をうけて小渕恵三内閣が実施した24兆円の対策、2008年9月のリーマンショック直後の10月に実施された麻生太郎内閣の26.9兆円と翌年4月の56.8兆円の対策。

ちなみに麻生は08年の2度の補正予算と09年予算あわせて75兆円規模の経済対策を「3段ロケット」として発表しましたが、09年8月末の総選挙で民主党に敗北し、ロケットのように飛んで行ってしまいました。

そして安倍政権になってから、2016年5月の伊勢志摩サミットでG7首脳を前に「リーマン級の危機が迫っています」と叫んだ安倍晋三による28.1兆円の経済対策などをみても、確かに今回の経済対策の規模の大きさは異例です。

ちなみに、2016年の経済対策は10%への消費増税を約束していたにもかかわらず、2014年の8%の消費増税で支持率が下がったので、「経済危機だ!」といって2度目の増税延期を演出するために実施された対策です。このとき安倍の「経済危機だ」という発言に対して各国首脳はややあきれ顔だったことを覚えています。

そして今回の108兆円の緊急経済対策です。規模はGDPの2割で欧米にあわせたものですが、実際の財政支出は39.5兆円です。しかも五輪後の景気悪化に備えた19年度補正予算のものもくわえているので、実際に新規の財政支出は29.2兆円にとどまっています。

この39.5兆円の内訳は5つに分類しています。ひとつは「感染拡大防止と医療提供体制の整備および治療薬の開発」に2.5兆円、ふたつめは「雇用の維持と事業の継続」に22兆円、みっつめは「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」に3.3兆円、よっつめは「強靭な経済構造の構築」10.2兆円、そして「今後の備え」に1.5兆円です。

●私企業のビジネスチャンスではなく公的医療体制の充実こそ!

感染症対策として、もっとも早急に取り組むべき「感染拡大防止と医療提供体制の整備および治療薬の開発」への財政支出は、最後の今後の備えを除いた4つのなかで一番少ない2.5兆円だけなのです。

このなかで、最初に挙げられているのがマスク・消毒液の確保です。既存のマスク・消毒製造企業への投資支援を通じて月7億枚のマスク生産を確保し、それを全戸配布するとのことですが、製造拠点や価格や医療・福祉機関への配布を確実にするために政府が直接的に関与することは必要ですが、それを全戸配布することは、かなりの経費や労力の無駄ではないでしょうか。しっかりとした生産体制と人員を政府の責任で構築し、買い占めや価格引き上げを禁止したうえで、市場ルートで必要な人に行きわたるようにすればいいのです。市場は民主的に統制することで、価格だけでなく需給にも柔軟に対応することができます。

緊急経済対策では、ポリメラーゼ連鎖反応検査いわゆるPCR検査、検査機器や簡易検査の実施、保険適用などについても述べられていますが、それに対応する医療機関や保健所の人員不足の解消については記載がありません。保健所については「体制強化に迅速に取り組む」と書かれていますが、これが拠点や人員の拡充につながるのか、そして安定した雇用が保証されるのか不明瞭です。むしろ設備や研究事業など、それ自身としては大変重要ですが、どうも民間企業にとってカネのにおいのする事業への予算配分ではないかという危惧は払しょくできません。

というのも、つぎに挙げられている「医療体制の強化」という項目で、病床の確保や専門医師や看護師の確保、医療資材の確保が述べられていますが、オンライン診療の規制緩和や軽症者をホテルで受け入れるための交付金の創設など、民間資本にカネが流れる仕組みがうまく組み込まれていることに不安を感じるからです。公衆衛生や公共医療機関の充実こそが優先されるべきではないでしょうか。

これら医療体制の充実については、来週発言を予定している都立病院のスタッフでつくる労働組合の方にさらに突っ込んで話を聞きたいと思いますが、ひとつ言えるのは、国も東京都も公立病院の縮小を進めてきたということです。東京都は3月31日に8つの都立病院と6つの公社病院の独立行政法人化、つまり民営化への次の一歩のための予算を可決しています。厚労省も昨年9月に全国420余りの公立病院の再編縮小リストを公表しています。これらの延長線上に、今回の緊急経済対策もあるとすると、とても恐ろしいことです。

●巨大企業の救済と延命のために

5つの項目のなかでの最大の支出項目は22兆円の「雇用の維持と事業の継続」です。ひとつめの医療体制の充実の10倍近くの金額です。もちろんこれは今一番ひとびとが関心を持っていることだとおもいます。中小零細企業やフリーランスの減収補償もこの中に含められています。しかし、大企業などに対しての「日本政策投資銀行による危機対応融資を活用した資金繰り支援」という政策も盛り込まれているのです。

「中堅・大企業向けに日本政策投資銀行(DBJ)及び商工組合中央金庫の危機対応融資等を活用し、資金繰り支援を行う。また、航空会社に対する着陸料等の支払い猶予を実施するとともに、日本政策投資銀行DBJの危機対応融資等の機能を活用する。」

この経済対策が発表される前から報道では、大企業による資金融資の要請が報じられていました。たとえばANAやJALなどでつくる定期航空協会は民間金融機関や政府系金融機関に2兆円もの支援を要請しています。現在ANAは海外便の9割の運行を見合わせており、業界全体で減便が1年続けば減収は2兆円にのぼるともいわれているからです。日本政策銀行による政府保証を付けてほしいとも言っています。これが危機対応融資と呼ばれるものだと思いますが、これは原発や火力発電などを海外に輸出する際に借りに取りっぱぐれたときに、政府が税金で肩代わりするというものです。日本企業の海外融資は問題もたくさんありますが、すくなくともこれまで国内事業に対して危機対応融資をつかったことはありませんでした。

またトヨタは、2020年3月に三井住友と三菱UFJに対して計1兆円の融資枠を要請しています。しかしトヨタは19年12月末時点で約6兆円の手元資金があるのです。今日の日経新聞によると日産自動車も5000億円の融資を要請したそうです。業界大手が横並びで支援を要請しています。報道では2020年1年間で1000万台の新車販売が減産になるかもしれないそうです。これはトヨタ1社の年間新車販売台数に相当します。

●かれらの危機と私たちの危機

しかしこの危機はどういった危機なのでしょうか?というのも、少し前までは世界的な危機といえば気候変動でした。未来のための金曜行動という学校ストライキをおこなってきたグレタ・トゥンベリさんは「わたしたちの家が燃えている」といって気候変動対策に取り組まない指導者や大企業を批判してきました。

しかしこのパンデミック恐慌を前にして、それらCO2排出の巨大企業は「私たちのビジネスが燃えている!」かのごとく、つぎつぎと資金支援要請をしています。海外便9割の運航停止? 新車1000万台の売り上げ減少? 2兆円の支援?1兆円の支援?

よくそんなことが言えたものですね。

新型コロナウイルスと同じように世界の、とりわけ貧困を余儀なくされている国や地域や社会や集団の人々の命と生活を奪う気候変動危機を考えれば、新車1000万台の減産や国際便9割の減便は、いわば気候変動危機における「社会的免疫」ともいえる、地球と人類の持続可能な生存における必要不可欠な措置です。この危機に乗じて、従来のビジネスモデルの延命やさらなる強化を目論もうとするなど言語道断です。

●日銀の追加緩和がさらなる危機を招く

大企業への金融支援はメガバンクを通じて行われますが、この空前の資金援助計画の源泉は言うまでもなく日銀の金融緩和です。緊急経済対策では日銀の活動についても触れています。

「日本銀行においては、企業金融の円滑確保に万全を期す等の観点から、新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの導入やCP・社債等の買入れの増額(追加買入枠2兆円)を含む金融緩和を強化する措置を実施している。」

日銀は今年1月から3月までに2兆5000億円のマネーを株式市場に投じて、日本株式会社を買い支えてきました。株価は一時的に暴落を免れていますが、マネーを積み上げれば積み上げるほど、奈落への距離は高くなり、その衝撃は空前のものになります。日銀は2013年からのアベノミクスで国債を買い続けており、その巨大化した体重によって奈落への衝撃はさらに大きなものになるでしょう。

アベノミクスがはじまった2013年初めには日銀の長期国債を90兆円程度を保有していました。発行残高に占める割合は10%程度でした。民間銀行が65.5%を保有していました。それが2019年の第4四半期には国債発行残高1037.4兆円のうち、日銀の保有額は485.2兆円、保有率46.8%となりました。民間銀行の保有は404.9兆円、39.0%であり、日銀が民間銀行の国債を引き受けてきたことがよくわかります。

●彼らの安定を私たちの不安定

このパンデミック恐慌では、「日銀は購入するリスク資産の対象を拡大すべきだ」といったさらなる金融緩和が必要だの大合唱を唱えています。たとえば3月24日の日経新聞ではアベノミクスの推進者であるコロンビア大学の伊藤隆敏氏はこんな風に述べています。

「資産買入を増額して資金を十分に購入することで、金融資本市場、外国為替市場を安定的に保つ必要がある。今回、日銀は上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)の買い入れ額を拡大したが、購入対象資産の(量だけでなく)種類も拡大して、例えば商品先物や未上場株から組成した債権があれば購入を検討すべきだろう。…今一度、異次元緩和を強化する必要があろう」

よくそんなことが言えたものですね。人々の必要とする価値を何ら生み出すこともなく、自然資源と人間労働からの搾取で成り立つシステムの、さらにその上前だけをはねるために、世界中をリスクと混乱に陥れている金融資本市場や外国為替市場の安定?人々の命や生活を不安定にさせることでビジネスチャンスにありつけることができる金融市場の安定? 損失が出たら最後は政府や日銀が救済してくれる安定? 

よくそんなことが言えたものですね。

かれらの安定は私たちの不安定でしかありません。大企業やメガバンクがため込んだ内部留保という安定は、労働人口の4割以上の不安定雇用や高齢になっても働かなければならない社会など、わたしたちの不安定によって保障されているのです。

いま非正規労働者や契約社員、そしてバイト学生らはつぎつぎに首になっています。民営化された郵便局では1万人リストラの話がすすんでいます。コロナだから仕方ない? 

よくそんなことがいえたものですね。

非正規や派遣などの不安定雇用を増やしてきたのはどこの誰でしょうか?日銀のすぐ近く新築されたPASONAの本社ビル。不安定労働者の血を吸い上げることで事業を大きくしてきたのではないですか。

このような不安定な社会でいいのでしょうか。ぼろぼろで穴だらけの社会でいいのでしょうか。穴あき社会でいいのでしょうか?

●コロナは過剰生産恐慌のきっかけにすぎない

有限の自然環境と人間労働から無限の利益をようとする資本主義システムそのものに内在する利益追求の経済サイクルこそがパンデミック恐慌をもたらしたのだともいえます。

パンデミック恐慌はコロナ拡大の前からすでに、恐慌の兆候を見せていました。東京商工リサーチによると、3月の企業倒産件数は前年同期比で12%増えてて740件でした。全体件数の増加は7カ月連続でした。すでに去年から兆候が表れていました。この件数は緊急事態宣言以降も増加するでしょう。

10業種のうち小売り・運輸を除く8業種で倒産件数増加。最多は宿泊業や飲食業を含む「サービス業」で219件(29.5%)。倒産の原因は「不況型」が613件(82.8%)、3月全体の負債総額は9%増の1059億円。2019年度の倒産件数は前年度比6%増加8631件。リーマンショックが起きた08年度以来、11年ぶりに増加に転じた。人手不足(479件)、後継者難などの人材確保難もあった。

実はそのことは、緊急経済対策のなかでも述べられています。

「プラス傾向で推移棄てきたGDP需給ギャップは、感染症拡大以前の前年10~12月期の時点で1.5%、年率換算の金額で約8兆円のマイナス(需要不足)に転じた。」

すでに昨年末で需要不足とよばれる過剰生産恐慌の足音が忍び寄っていたのです。コロナはきっかけに過ぎません。あるいは、この恐慌をこれまでになく長引かせる役割を果たすに過ぎません。

●反転攻勢の社会変革~かれらのキャピタル・ディスタンシングとわれらのソーシャルディスタンシング

今回の緊急経済対策、じつは極めて邪な考えが隠されています。いやむしろ、堂々と最終目的として冒頭に明記されているのです。すこし引用してみます。

「本経済対策は、基本的な考え方として、大きくは次の2つの段階を意識したものとする。第一は、感染症拡大の収束に目途がつくまでの間の「緊急支援フェーズ」であり、事態の早期収束に強力に取り組むとともに、その後の力強い回復の基盤を築くためにも、雇用と事業と生活を守り抜く段階である。第二は、収束後の反転攻勢に向けた需要喚起と社会変革の推進、いわば「V字回復フェーズ」であり、早期のV字回復を目指し、観光・運輸、飲食、イベント等大幅に落ち込んだ消費の喚起と、デジタル化・リモート化など未来を先取りした投資の喚起の両面から反転攻勢策を講ずる段階である。」

どうでしょうか、まったく成長することのない、2013年のアベノミクスそのままの目的が緊急経済対策の冒頭に、あけすけに語られているのです。これこそ、新型ウイルスの蔓延にも関わらず、休業補償もないまま、搾取労働を放置しながら、無責任な金融市場を放置したまま、自己責任で生き延びろ、いや、むしろ死ね!という緊急事態宣言による緊急経済対策の目的なのです。

これこそ、パンデミック恐慌におけるかれらの距離の取り方、つまりキャピタル・ディスタンディングなのです。キャピタル・ディスタンディングの意図は明白です。つまりキャピタルのための反転攻勢と社会変革です。

市場では緊急事態宣言によって2020年度の国内総生産(GDP)が失われる観測をしている、との報道もあります。名目GDPの半分を占める東京や大阪など7都府県で宿泊や外食、衣料品などの消費の急減が見込まれるからです。市場とは金融市場のことです。人々の生活の心配ではなく自分たちの売り買いする金融商品の心配をしているのです。

リーマンショックのとき、1%の富裕層と99%の庶民という対立軸がいわれました。いままたこの1%の人々は1%を心配しているのです。しかしわたしたち99%のパンデモスは、GDP消費ではなくPCR検査を心配しているのです。これもまたキャピタル・ディスタンスとソーシャル・ディスタンスの隔絶を示すものだとおもいます。

パンデミック恐慌のもと、わたしたちパンデモスも、ソーシャル・ディスタンシングをより緊密にするソーシャル・ソリダリティによる反転攻勢と社会変革を目指さなければならないでしょう。

(時間の関係上、貧困国の感染症対策への「支援」やG20の貧困国債務の1年繰り延べ批判など、わたしたちの反転攻勢の社会変革にとって欠かすことのできない国際連帯の視点を入れることができませんでした。グローバルサウスの皆さんゴメン。ぜひ次回に。)
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