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香港:西環が出張り、中環が分裂する 人民は決起し、北虎が周囲を窺う(區龍宇)

香港独立媒体に掲載された論稿(原文はこちら)。タイトルの「西環」は香港における中国の代表機関、中央政府駐香港連絡弁公室のある場所、「中環」は香港政府や議会が集中する官庁街、「北の虎」は中国政府のこと。7月30日付のアップルデイリーに掲載された論稿。同紙掲載時のタイトルは「社会運動活動家區龍宇:中聯弁の権力奪還が災いに、香港政府は傀儡に」。(訳者)

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西環が出張り、中環が分裂する 人民は決起し、北虎が周囲を窺う

區龍宇


今日行われた中国国務院の香港・マカオ事務弁公室の記者会見には特に新味はなく、7月21日の声明とそれほど差異はない(デモを非難し林鄭政府を支持する)。もし注目するとすれば、沈黙した個所にあるといえる。反送中運動はこの一週間でさらにヒートアップしているが、同弁公室の態度は依然として型にはまったものであった。人民解放軍はどうするのか。あるいはその他の厳しい措置については。いずれも語られることはなかった。

◎アメリカと結託する北京

官僚の理性的立場からすると、現状での人民解放軍投入は確かに不必要なことである。青年急進派による衝突の武装の程度は幼稚にも幼稚であり、高度に軍事化された香港警察によって完全に対処できるレベルである。だがより過酷な手段を用いない理由は、北京の中期目標という別の理由がある。それは人民解放軍の出動によって北京と西側諸国の決裂を早めてしまうことになるからである。

北京は香港の反対派が外国勢力と結託していると批判している。だが興味深いのは、北京が香港で実施している一国二制度は、中国国内の毛沢東主義者からずっと批判を受け続けているということである。それは右翼的で帝国主義に親和的な政策だというのである。最近中国国内のウェブサイト紅旗網に掲載された文章では、香港基本法が香港の最高裁判所の判事に外国人の裁判官の存在を許しており、それは売国的だと中国政府を批判しているのである。だが鄧小平が打ち出した一国二制度による懐柔の第一の対象は香港の庶民ではない。北京にとって庶民などは眼中にない。彼らがまず考えたのは英米勢力との結託なのである。ゆえに香港基本法では香港の最高裁は英国、オーストラリアなどの裁判官を就任させることができるとしているのだ。これは単に香港を「金の卵を産む牝鶏」(ビジネス都市)としてだけではなく、香港の制度を残すことが改革開放にとって有利であると判断したからである。中国共産党が英米に妥協したことは間違いないのである。英国は香港を150年ものあいだ運営してきたし、最後の50年はアメリカ勢力もそこに加わったことで、香港は西側にとって利害関係を有する場所になり、しかも英米両国はそこに深く根付いた。香港廉政公署[公務員の腐敗を調査する独立機関]がどれほど北京高官の腐敗材料をあつめているのか。欧米日の情報機関がどれほどの事実を掌握しているのか。それだけを考えても北京の「ネズミ退治の苦悩」(ネズミを退治したくてもそばにある磁器が壊れることを恐れて実行に移せない→北京高官のスキャンダルの漏洩を恐れて英米の諜報機関の摘発ができない:訳注)の充分な理由がある。だが残念なことに紅旗網は指導者たちの苦悩に思いを馳せることができないようだ。

北京とアメリカの結託の最近の実例は、ロイターが報じたように、人民解放軍の香港駐留部隊の司令官が自らアメリカ国防省の高官に対して人民解放軍が香港の運営に介入事はないという事実である。なぜ北京はアメリカ帝国主義に対してそのような軍事機密を漏洩したのか?その理由は北京はすでにアメリカとの覇権争いを始めようと考えているにも関わらず、現段階において有する手段がアメリカに敵わないからである。とくに米中貿易戦争の勃発以降は、当初自らの実力を過大に評価していた習近平が、実際にはいずれにおいても守勢に立たされていることが明らかになったからである。

◎権力のやみくもな奪還で陰謀が暴露される

北京が人民解放軍を出動させない理由は、他にさらに効果的な手段を有しているからでもある。中央政府駐香港連絡事務所(いわゆる西環)に、今後も引き続いて香港特区政府(いわゆる中環)から権限を奪い続けさせることである。同連絡事務所(あるいは党の香港マカオ工作委員会)の管轄下には数万人の共産党員が所属しており(8万ないし35万人ともいわれている)、別に数万もの特務機関員、中共の統一戦線に帰順した人々、経済人、裏社会等々がいるし、そのなかには香港政府の官僚も少なからずいる。北京の打算では香港政府の中身を入れ替えて傀儡にすることで、香港市民や海外の目をごまかすことができると考えていた。これら一切は秘密裡に行われてきたが、時には偶然その兆候が観測されることもある。たとえば2016年に廉政公署の告発によって、香港政府の高級官僚らが辞職することになった事件である[返還後二代目の行政長官の曾蔭権(任期2005-2012)が汚職で起訴され禁固20カ月の実刑判決を受けた]。

今回の反送中運動はさらに妖魔鏡[悪を写し出す鏡]の観を呈している。西環の魔の手がいかに警察部隊を指揮しているのかを写し出したからである。北京はこのような陰謀を通じて香港を締めつけることで、時間をかけて反対派を絞め殺すことができると考えていた。しかし計算外だったのは、西環が実権を享受しつつ何ら責任を負わず、逆に中環は一切の責任を押し付けられながら何ら実権を持っていないという局面こそ、混乱の根源なのである!この数カ月以来、行政長官の林鄭(キャリー・ラム)はあちこちの公式の場面で批判されてきたことがそれを証明しているし、それは最終的に多くの政府職員が公然と反対する事態に発展した。現在までに100名以上の政務官[行政職の最高職位]をふくむ44の政府部門の公務員が公然と林鄭を批判し辞職を求めている。これらの政務官は西環がどのようにして香港政府に浸透しているのかについてよく知っているはずである。

◎香港は小さいが梃子は多い

こうしてみると反送中運動が継続している理由もよくわかる。今回の運動の力は、最底辺層から中上層までを貫いている。また先週の土曜日[7月27日]の元朗での行動において、市民的不服従の抵抗運動はひとつの段階を越えて、運動が蜂起に一歩近づいた。20数万人が警察のデモ禁止令を無視してデモを敢行したのだ。翌日の香港島でも同じような状況が発生した。28日は香港島でも同じような状況が発生した。民主派の市民運動が急進化した青年たちの隊列に直接参加して、共同で警察の暴力に対抗するときこそ蜂起となる。だが、このハードルを越えることはそう容易ではない。というのも、北京には血に飢えた虎がいて虎視眈々とこちらを伺っていることを多くの市民が知っており、それが恐怖心をもたらしているからである。香港はあまりに小さすぎるのだ。

[訳注:7月21日に九龍半島の元朗地区で行われたデモ終了後に地元の裏組織の自警団がデモ隊を襲撃したことに対する対抗アクションとして27日のデモが呼びかけられたが警察はデモ禁止令を出した。28日には21日の暴力事件や警察の弾圧を非難する集会が政府機関や警察本部などが集中する香港島の中環付近で行われたが、警察のデモ禁止令にもかかわらず、集会終了後に市民が自発的にデモを始めて機動隊と衝突した]

だが事情は若干微妙な情勢にある。というのも北京にいる虎は一頭だけではなく、数多くいる。つまり飢えた虎の群れである。習近平がどれほどの大権を持っていようとも、依然として他の多くの虎との暗闘を要する。そして香港という「弾丸の地」(狭隘な地域:訳注)が興味深い巨大なゲームのステージとなり、英米同盟、香港政府、中国連絡弁公室、香港の反対派、香港の経済に寄せる中国系企業の期待、中国共産党のトップ派閥の矛盾など多数のプレーヤーがその巨大なゲームで力比べをしている。

鹿は射貫いたが誰の手に堕ちるかは未だわからない。香港は小さいとはいえ、非常に特殊な地位に置かれており、他の一般的な都市ではありえないような国内外のレバレッジ(梃子)につながっている。その梃子を動かす方法を知るものこそ、動かざる地球を動かすことができるのかもしれない。

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