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米中貿易戦争の時代における階級闘争が抱える歴史的矛盾――中華全国総工会の場合

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▲1978年10月に開催された中国工会第9回全国代表大会

 米中貿易戦争でファーウェイが苦戦を強いられつつあるかのような報道を尻目に、自動車の分野ではまだまだ「中国の台頭」が続くだろうという報道がありました。

 中国が2015年に発表した産業政策「中国製造2025」に掲げられる10大重点分野の一つに「省エネルギー・新エネルギー自動車」があります。2019年5月29日の日経新聞(朝刊)は、「中国、EV覇権へ部品網」という8段抜きの大きな記事を掲載し、電気自動車(EV)や自動運転車を支える技術(電池・3次元レーダー)における中国企業の発展ぶりを報じています。

 記事の冒頭、日産と中国企業の東風の合弁でEVを開発する東風日産の日本人社員のコメントが紹介されています。「中国製部品なしでは、EV車を造れない時代になった。」

 自動運転に欠かせない周囲360度の3次元データをレーザーで測定する「ライダー」システムは、いわば自動運転車の「眼」になりますが、最大手の米ペロダイン・ライダー社を猛追する中国企業ヘサイ・テクノロジー社のCEOのコメントはこうです。「大量生産するなら中国しかないと考えた。」

 EVの生産コストの3分の1近くを占める電池(バッテリー)ですが、東風日産のEV戦略車には、中国企業・寧徳時代(CALT)社製のバッテリー(電池)を採用しています。ここでも日本人社員のコメントが紹介されています。「EV用電池の生産規模とコストで中国勢にかなう企業はない。」

 2018年の中国の新車販売台数は2800万台で世界最大の市場規模を誇ります。ちなみに2017年は2912万台、2位のアメリカは1758万台、3位の日本は523万台、4位のインドは401万台、5位のイギリスは295万台です。 中国製造2025では、新車100キロで石油消費量4リットルにまで減らすことを目標に掲げており、その実現には新エネルギー車(EVとハイブリッド車など)の実用拡大が必要です。

 その目標を達成するため、政府はEVなどの新エネ車や自動運転技術の開発に莫大な補助金をだしており、それもこれらの領域における有力スタートアップ企業の発展を支えています。しかし2020年に新エネルギー車への補助金を廃止する方針が出されており、「官製需用で膨らんだ市場は自律成長へ脱皮する課題を抱える」(日経)とされています。

 ここまで読んで、思ったことは、なぜ「EV用電池の生産規模とコストで中国勢にかなう企業はない」のか、ということです。 生産規模は、まあわかりますよね。世界最大の人口を有しているからです。ではコストは?

 一般的に生産コストが安い理由は、土地や原材料、労賃が安いことが思い浮かびます。あるいは大量の失業者(産業予備軍)が多ければ、労働力という商品の供給が需要に比べて相対的に多いということで、賃金も安くなる傾向になるでしょう。

 賃金だけでいえば、中国よりもベトナムやビルマ、カンボジアなどは中国の数分の一です。しかし、以前もどこかで紹介したように、これまで中国が引き受けてきた巨大な商品の集積のための豊富な労働力を「安定的」に供給できる国はほとんどない、というのが現状です。

 しかし、それだけで、世界の資本からをしてこれほど「コストで中国勢にかなう企業はない」と言わしめることはできません。

 というのも、労働力という特殊な商品の価格=労賃は、他の商品と異なり需給の多寡だけで決まるわけではないからです。決定的なのは、労働力商品を売る側と買う側の力比べ=階級闘争いかんにかかわるのです。

 そして中国では、労働力商品を売る側の労働者たちが、より高く自らの商品を売りつけるために最も適した形態である労働組合(工会)が、かなり特殊な役割を果たすことによって、資本家をして「コストで中国勢にかなう企業はない」と言わしめる状況になっているのです。

 この「コスト」は賃金だけではありません。労働安全衛生にかかる費用であったり、老後の保障であったり、環境保全のための設備だったりしますが、どれも労働者にとって切実な問題であることから当然労働組合の要求として、経営の側にその改善=費用をかけることを求めます。しかし中国の特色ある官製労働運動においては、そうなっていない面があることは、よくご存じだと思います。

 しかし「官製労働組合」として批判のやり玉に挙がる中華全国総工会ですが、じつは1978年まで、活動停止を余儀なくされていたことをご存じだったでしょうか。そう、文化大革命の時期には、賃上げをはじめとする労働条件の改善が、「経済主義」として権力を握った文革派から批判され、活動の休止を余儀なくされてきたのです。

 その後、いろいろと曲折がありますが、文革派を追放して実施された改革開放政策を労働組合として擁護・推進することで存在意義をアピールしてきた、という中国の特色ある労働運動の歴史的遺産とも言えるのが、いまの総工会のスタンスにもつながっているのではないかと思います。

 ということで(?)、すこし古い文章なのですが、文革終了後の1978年にやっと公然と活動することが認められた総工会が21年ぶりに開いた第9回全国代表大会を論じた文章「中国工会運動の新しい情勢と古くからの問題」を訳してみました。

 2014年頃までの開放的な労働運動の時期に総工会の開明派といわれた幹部が出版した書籍の一文が、翻訳するきっかけになりました。その説明も含めて、こちらのリンク先(http://file.breizh.blog.shinobi.jp/197811xiangqing.pdf)からPDFファイルでダウンロードできます。

 中華全国総工会が抱える歴史的課題は、米中貿易戦争の時代における階級闘争が抱える矛盾のひとつともいえます。
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