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ストする中国のToy Story エピソード1――米中貿易交渉の延長(その2)

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2月19日の日経新聞朝刊には、半面ほどの大きなスペースに「中国玩具工場 貿易戦争が打撃」「米関税上げ、輸出にブレーキ」という記事が掲載されている。

世界の玩具の8割を生産する中国だが、その最大の輸出先は米国。中国から米国への輸出のうち玩具は消費関連では第4位。それに貿易戦争が襲いかかった。

深圳で30年間操業してきた大型玩具工場「深圳南嶺玩具制品」の突然の工場閉鎖から記事は始まっている。人件費の高騰に加えて米中貿易戦争が経営に致命的な打撃を与えて倒産に追い込まれたという。

昨年来の米の対中関税引き上げが影響し、18年の中国の玩具輸出額は対17年度比で4.5%増の250億ドル(約2兆7000億円)。それだけを聞くとすごいと思うが、実は伸び率が10%を割り込んだのは2013年以降初めてとのこと。3月1日期限の貿易交渉が決裂すれば、関税は10%→25%に引き上げられ、さらに困難な局面に陥ると報じている。

さらに興味深いのは、そのような事態を想定して、すでに中国企業の東南アジアへの移転が動き出しているという。たとえば今年1月に香港で開かれた国際見本市で、江蘇省の玩具メーカー「蘇州立華玩具」はベトナムとインドに工場を持っていることをしきりにバイヤーにアピールしていたという。

またベトナムで中国企業の誘致などを支援する地元経済団体「越南中国商会」には中国本土の企業からの問い合わせが相次いでいるという。米中貿易戦争が中国企業のグローバル化を推し進めている構図がみてとれる。

だが世界生産の8割を占めるメイド・イン・チャイナにとって代わることは事実上不可能だ。

記事は「ベトナムで人を雇うのはだんだん難しくなってきた」と語る香港の玩具業界団体の担当者の言葉を紹介する。ベトナムの人口は1億人で広東省よりも少なく、ベトナムの人件費も上がり続けているからだ。そして「生産能力と効率性において中国に近づける国はない」という米コンサル会社の発言。

ここでいう「生産能力」とは、世界生産の8割を担う豊富な労働力を指している。では「効率性」とは何を指しているのだろうか。

冒頭に紹介した「深圳南嶺玩具制品」の倒産について、日経の記事では、深圳市政府が向上に張り出した「社員の給料の支払いは遅れる。会社は倒産し、工場も閉鎖がきまった」という通達を紹介しているが、記事では紹介されていない通達の最後の部分はこう警告している。

「清算業務に従事する人員を除き、工員各位が工場敷地、倉庫、事務所に立ち入らないようにしてください。そして過激な行動を取らないよう、法律にのっとった、理性ある権利擁護に努めてください。  南湾街道事務所 2018年8月27日」

「法律にのっとった…」。深圳南嶺玩具制品の親会社の美思グループ(香港資本)は、英バージン諸島で登記されている。いわゆるタックスヘイブンだ。タックスヘイブンに本社を置く理由は、税金対策だけでなく、こういった事業清算における各種の責任逃れにもある。もちろん違法ではない。法律にのっとった(正確には法域の穴を利用した)合理的な投資行為である。

しかしそれは資本のための法律であり、労働者のための法律ではない。

通知はさらに「過激な行動を取らないよう」とも警告する。もし従わなければ、それこそ「法律にのっとった」警察による弾圧が労働者に襲いかかる。

実際、突然の工場閉鎖を聞かされた労働者たちは2か月分の未払い賃金を含む経済補償を求めて政府への陳情行動を展開しようとしたが、警察によって暴力的に解散させられ、十数名が拘束された。この会社には労働組合はなく、地元の官製労働組合もやっと組織化に着手しようとした矢先の倒産だった。官製労組はいうまでもなく倒産争議などには動くことはなく、「法律にのっとった」行政主導の後処理だけに終始。

以上、資本家新聞では報道されない、ストする中国のToy Story(エピソード1)でした。

『ストする中国』(彩流社、2018年)にも広東省の玩具工場でのストライキのエピソードが収録されています。ぜひ。

2019年3月3日記
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