
IMF専務理事のクリスティーヌ・ラガルトは、昨年11月末にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されたG20の直前に「包摂的な成長を促進するための取組み強化」というペーパーを発表している(こちら)。
そこでは「多面的な改革を実施すればG20諸国のGDPはさらに4%加速することが可能です」と述べる一方、その改革に対する世論の支持を阻害するかもしれないものとして「行き過ぎた格差によってたくさんの人が苦しんでいる国があまりにも多い」ことを挙げている。
【行き過ぎた】格差によって【たくさん】の人が苦しんでいる国が【あまりに】多い、というように、金融危機以降IMFやG20が主導する世界経済の現状は散々たるものだ。
アルゼンチンでは、不当債務の支払いを拒否しようとした政権に代えて、国際金融の言いなりになる大統領が選ばれてから新自由主義改革が進められてきたが、そのご褒美としてG20開催の半年前にIMFから500億ドルの融資が決定されたが、それは政府支出の削減などさらなる厳しい条件の履行が前提となっている。(こちら)
ラガルドのペーパーに話を戻すが、そこでは貿易障壁や債務問題などにも言及しているが、ここでは途上国や新興国と呼ばれる国々に対するIMF専務理事のありがたい説法を紹介する。
「G20に参加する新興市場諸国の大部分も、製品市場や労働市場の改革から恩恵を受けられるはずです。」
「そして、女性の労働参加を増やすことは、ほぼすべての国や地域で成長を促進させるだけでなく、社会の公平性や包摂性を向上させる一助にもなります。」
ではラガルドはどのような労働市場の改革を新興国の女性たちに提案しているのだろうか。
2018年のはじめに、ラガルドは、IMF欧州局シニアエコノミストとの連名で「無限のチャンス 新興市場国と開発途上国の若者の雇用を増やす」というペーパーを発表している。(こちら)
そこでラガルドはこう述べる。
「第一に、職業上の男女平等を促進することです。」
「第二に、労働市場の機能の改善が挙げられます。厳しすぎる労働規制を制限すること、解雇手当の額が負担となり過ぎないようにすること、平均賃金と比較して高すぎない最低賃金を設定することは全て、学生でない若者、特に若い女性の就業と労働参加を促進します。」
「インドネシアで最近おこなわれた最低賃金改革の経緯のケーススタディが有用です。インドネシアでは、平均賃金に対する公定最低賃金の上昇率を他の州よりも10%低く設定した州で若者の失業率が1~1.5%低下しました。」
「これらの政策から最も恩恵を受けたのは若い女性でした。」
しかしハッキリしているのは、ラガルド専務理事が勧める対策は、解雇しやすくして、解雇手当や最低賃金を引き下げることで若い女性は働きやすくなる、というものに他ならない。
これが一エコノミストの発言であれば笑って済ませられるが、スハルト独裁体制を支え、アジア通貨危機で構造調整プログラムをインドネシアの人々に押し付けてきたIMF/世銀のトップが言うのだから冗談にはならない。
インドネシアといえば、ユニクロの委託先工場での労働争議が記憶に新しい。ラガルドの勧める最賃改革で最も恩恵を受けたのは言うまでもなくユニクロをはじめとするグローバル資本だろう。まさに資本にとっての「無限のチャンス」であるが、インドネシアの女性たちは恩恵ではなく被害を受けたのである。
昨年10月にインドネシア・バリ島で開かれたIMF/世銀年次総会が開かれたが、ここ数年、毎年1億ドル以上の資金をインドネシアから回収しつづけている日本政府にとっても、中国による資金供与が資金回収に影響を与えないかと他人事ではないだろう。
雇用を増やすために解雇しやすくせよ、賃上げのために最賃を下げよ、すべて下へ倣え、といった新自由主義のロジックは、労働だけでなく他の分野でも蔓延している。環境のための原子力エネルギー、平和のための戦争法、県民の声に真摯に耳を傾けるといいながらの辺野古土砂投入の継続、復興五輪といいながら復興を邪魔する・・・・・・。
ラガルド専務理事は事あるごとに、女性の社会参加を強調する。
100年前の今日、朝鮮半島では女性たちが先頭に立った。あと数日すれば世界中で女性たちが「もうたくさんだ」と叫んで立ち上がる世界女性の日がやってくる。ならば、新自由主義グローバリゼーションに対抗するために、IMF専務理事のありがたいお言葉を拝借するしかない。
女性の労働運動への参加を増やすこと。
スポンサーサイト