
12月の連休、attac首都圏の泊まり合宿に参加しました。ひとえに宿泊環境が良かったにつきますが、石巻の会員から届いた旬の牡蠣や三里塚の有機野菜、追い出しに抗する堅川ファームからの葉大根をはじめ、参加者のみなさんの創意と工夫と協力のたまもの。遠方からの参加もおつかれさまん。またやりましょう。取り組むべき課題は山積していますが、できることを少しずつですが、皆さんと協力していければとおもいますので、今後ともよろしくお願いします。
個人的には、フローラ・トリスタンがスペインの社会運動に与えた影響を聞けたのがうれしかったです。いくつかの切り口でフローラ・トリスタンのことを扱うカフェなどもやりたいと思いました。また、スペイン内戦期における民衆の取り組みなど興味深い映像なども。改めてスペインの革命と反革命について学ぼうと思いました。あわや見逃しそうになりましたが、ファンタスティックなお宝映画も発見できてよかったです。
さて、本題。
昨日12/25の東京新聞の社説は「メルケル流を忘れずに ドイツの政治潮流」というタイトルでした。平日の社説は、だいたい二つのテーマを扱っていますが、昨日は「メルケル流を忘れずに」のひとつだけ。当然分量も普段の倍です。
・ドイツ政治の潮流 メルケル流を忘れずに(東京新聞2018年12月25日社説)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018122502000146.html
attac合宿では映像を観て、みんなで議論することがメインでした。ぼくはギリシャ危機の話を少ししました。ギリシャ債務の歴史と民衆の戦いを描いたドキュメンタリー「DEBTOCRACY」(2011年)を観て、その後のギリシャの経過を『ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義』(尾上修吾、明石書店、2017)を参考にして報告しました。
ドキュメンタリー「DEBTOCRACY」は、トロイカを構成するEUの大国であるドイツの「メルケル流」のひどさに抵抗するギリシャ民衆のたたかいをあつかっていたこともあり、東京新聞社説のタイトルを見た時は「おっ」と思ったのですが、難民問題に焦点を当てた内容は予想通りメルケル賛美の内容でした。
もちろん果てしなくひどい日本の難民対応やトランプの主張に比べるとメルケルのとった対応は立派です。しかし2015年8月にトロイカの「支援」という名のツケの押し付けに合意したギリシャは、シリア等からの難民受け入れに多大な費用を賭けなければならず、さらにEUはろくな財政支援もないままにギリシャに難民施設の改善を要求しました。もちろん改善は必要です。しかし、過酷な借金返済の契約を結ばなければ、公務員の給与を支払うこともままならないギリシャに果たしてそのような能力があるのか。当然ギリシャは反発します。そしてその反発はギリシャの領土愛国主義に火をつけ、排外主義的風潮を生みだすことになりはしなかったか。
債務問題だけをとっても、ドイツやフランスなどEU大国の金融機関からギリシャの民間銀行に貸し付けられたマネーは、バブルを生みだし、それがリーマンで破たん。メルケルやサルコジ、そしてECBの支配者たちは、独仏などの民間銀行の不良債権を、「支援」と称した債務再編によって民間債務から公的債務に付け替えました。これによって独仏銀行はリスクから解放され、借金のツケはギリシャの労働者農民に押し付けられことになりました。民間銀行の投資の失敗をギリシャ国民が負担するということです。この「救済」プログラムを押し進めたのが独メルケルや仏サルコジの、いわゆる「メルコジ」体制でした。救済の対象はギリシャではなく自国のグローバル金融機関でした。
2015年1月の総選挙で政権に着いた急進左派連合政府のもとで、国会に設けられた債務の真実委員会のレポートでは、トロイカの救済プログラムがギリシャの労働権や社会保障、教育や住居権などの「人権」に悪影響を与えたことが報告されています。
「トロイカの救済プログラムが生活状況に直接的に影響を及ぼす政府の施策を強制したことから、(こうした施策が)国内、欧州、国際的なレベルで法的に護られた人権を侵害している 。ギリシャのオンブズマンによると“ギリシャの経済と社会全体に課された徹底的な調整政策は市民に劇的な効果を与え、社会的弱者が増大している” 。同様に、国家人権委員会は“福祉国家の解体、そして社会の結束と民主主義を損なって社会的正義とは相容れない 措置の採用と結びついた急速な生活水準の悪化”を目にした 。調整政策の負担は不公平に分配されており 、その影響はとりわけ、貧困層、年金受給者、女性、子ども、障碍者、移民といった社会的に最も弱い層にとって堪え難いものになっている。」―――第6章「人権に対する救済プログラムの影響」より。(ギリシャ債務監査報告書の案内はこちら http://attaction.seesaa.net/article/456157272.html)
上映後の議論の中では、当時の欧州をリアルに体験していた海老原さんからは、ギリシャ債務に対するドイツのひどさに恐ろしさを感じた、シリザに対するドイツなどEU大国や国内からの逆風はかなりのもので、シリザは最後はトロイカの「支援案」を受け入れたが、それでもかなり善戦したといったことが、説得力を持って話されました。そうだと思います。そしてシリザのなかからトロイカ案受け入れ反対の潮流が割って出て奮闘したことは、国会議席に結びつきはしませんでしたが、海老原さんの提起を裏付けていると思いました。
資本主義システムが生み出すカネ持ちどもの放蕩のツケを労働者農民に押し付けようとする動きは、「復興五輪」と名づけられた商業主義と国家主義のメガ・スポーツイベントがすすむ日本でも着々と進んでいます。
人民に力を 権力にノーを。
(以下は合宿で配布したメモを加筆修正したものです)
■ギリシャ債務危機メモ(2018/12/22)
総人口1100万人、GDPはフォルクスワーゲンの売上高で欧州全体の2%程度のギリシャが世界を震撼させた――ギリシャ危機。それは2008年リーマンショックと呼ばれた世界金融恐慌の、資本主義システムの周縁における最も弱い環のひとつにおける爆発であった。それは「アラブの春」と呼ばれたもう一つの革命情勢とともに、世界を揺さぶった。急進左派連合(シリザ)が2015年1月末に政権を獲得。トロイカ体制との対決姿勢は、同年7月5日の国民投票の翌日に、トロイカ改革を受け入れると表明したチプラス首相の裏切り的妥協によって立ち消えた。結局、政権交代を成し遂げただけにおわり、システムそのものを突破するには至らず、逆にトロイカへの完全屈服を経て、転換的情勢はほぼ収束した。
2009年10月 全ギリシャ社会主義党(パソック)が政権交代し、パパンドレウ首相が財政赤字の粉飾を公表。
2010年 5月 トロイカ(EU委員会、ECB、IMF)の第一次支援プログラム(覚書)調印(~13年6月)
最大800億ユーロ(実施額529億ユーロ)、IMFも300億ユーロ規模の支援を決定。
労働市場改革や年金改革、緊縮財政が強制される。
2011年11月 パソックのパパンドレウ首相辞任→新民主党(ND)サマラス+右派政党の連立政権
2012年 3月 I M F支援、280億ユーロ規模
5月 第二次支援プログラム調印(~15年6月):最大1447億ユーロ(実施額1418億ユーロ)
2012年 6月 5月の総選挙で二大政党を足しても過半数に達せず、再総選挙。シリザは第一党のNDに迫る第二党に。NDとPASOKの大連立
政党名/得票率/議席数(全300議席)
(得票率3%以上の政党に250議席が割り振られ、第一党には50議席ボーナス)
新民主党(ND)/29.66%/129議席
急進左派連合(シリザ)/26.89%/71議席/
全ギリシャ社会運動(PASOK)/12.28%/33議席
独立ギリシャ人(ANEL)/7.51%/20議席
黄金の夜明け/6.92%/18議席
民主左翼党/6.26%/17議席
ギリシャ共産党/4.50%/12議席
2013年 9月 反ファシスト・ヒップホップMCのパブロス・フィサス(キラーP)が黄金の夜明け党員によって殺害される
2014年12月 大統領選挙で与党敗北、学生ロマノス君のハンストはじまる
2015年 1月 総選挙でシリザ政権誕生。独立ギリシャ人党(右翼)と連立。
政党名/得票率/議席数(全300議席)
(得票率3%以上の政党に250議席が割り振られ、第一党には50議席ボーナス)
シリザ/36.34%/149議席
ND/27.81%/76議席
黄金の夜明け/6.28%/17議席
To Potami/6.05%/17議席(リベラル新党)
ギリシャ共産党/5.47%/15議席
独立ギリシャ人/4.75%/13議席
PASOK/4.68%/13議席
4月 ギリシャ債務の真実委員会が予備報告書を発表
6月 債権団との交渉決裂。
7月 国民投票でトロイカ案にOXI(ノー)が多数→翌日、チプラスはトロイカ案受け入れ表明、
公務員24時間スト、シリザ内左派の抵抗続く
8月 第三次支援プログラム調印(~18年8月)、860億ユーロ規模(実施額6月末までで469億ユーロ)
チプラス辞任→総選挙へ
9月 総選挙でシリザ勝利。シリザ内左派が民衆連合()を結成するも3%枠を越えられず(2.86%)。
政党名/得票率/議席数(全300議席)
(得票率3%以上の政党に250議席が割り振られ、第一党には50議席ボーナス)
シリザ/35.46%/145議席
ND/28.09%/75議席
黄金の夜明け/6.99%/18議席
民主連合/6.29%/17議席(PASOK+民主左翼)
ギリシャ共産党/5.55%/15議席
ToPotami/4.09%/11議席
独立ギリシャ人/3.69%/10議席
中道連合/3.44%/9議席
ギリシャ支援マネーの使途 2010-2014年
満期の債務返済 813億(32.0%)
利子支払 406億(16.0%)
IMFへの返済 91億(3.6%)
EMSへの支払い 23億(0.9%)
銀行の資本再編 482億(19%)
債務削減 459億(18.0%)
財政補てん 270億(10.6%)
→支援マネーの4分の3近くが銀行支援に使われた
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