
9月24日、米国の対中貿易制裁の第三弾が発動されました。以下は、香港の區龍宇さんの論考です。米LeftVoiceには一か月以上前に原稿を上げていたのですが、発表が今になったのでやや状況についていけていないところもありますが、大筋の分析はかわっていません。
米中貿易戦争における中国経済
區龍宇
米LeftVoiceインタビュー
2018年9月13日掲載
英語全文
http://www.leftvoice.org/Strength-and-Contradictions-of-the-Chinese-Economy-An-Interview-With-Au-Loong-Yu
以下は、中国語抄訳から日訳した。
質問1.貿易戦争の脅威とアメリカ政府による関税引き上げの発動は、中国経済に影響を与えていますか。今後どのような状況になることが予想されますか。
區龍宇:関連する業種は明らかに被害を受けていますが、貿易戦争は始まったばかりであり、全面的な影響を評価することは難しいでしょう。報道によると、関税の引き上げによって、一部の中国の輸入商社はアメリカの大豆の購入をやめてしまったことで、すでに出港した輸送船が公海上をさまよっているそうです[少しでも利益がでる港に水揚げしようとするため]。ロサンゼルスの市長は、貿易戦争は貿易量を20%減少させるかもしれないと警告しています。いっぽう香港人はアメリカからの安いさくらんぼを買うことができました。トランプによる貿易戦争の宣戦布告以降、これらの商品は安値で香港で水揚げするしかなかったからです。
トランプの主な対象は中国の工業製品とハイテク製品です。中国の主な対象はアメリカの農産物です。双方ともにさらなる対抗措置をとりつつあり、従来は影響を受けていなかった製品も突如として報復リストに記載されるようになっています。たとえばiPoneはトランプの課税リストの影響を受けていませんでしたが、新たなリストには中国の半導体製品が含まれていることから、iPone自体は影響は受けませんが、その他のアップル製品は影響を受けるかもしれません。
貿易戦争の規模を考慮すると、トランプが今後も計画を実施しつづければ、その結果は大変恐ろしいものになります。1930年代にアメリカが関税を引き上げたことに端を発する関税戦争は、世界貿易を60%も縮小させたことを忘れてはなりません。そしてその後に続いたのが第二次世界大戦であることは周知の事実です。私たちはいわゆる自由貿易に対しては懐疑的な態度をとっていますが、しかし貿易戦争がそれにとって代わってしまうと、問題はさらに深刻にならざるを得ません。
しかしトランプのような極右ポピュリストの行動は予測不能です。今後は方向転換するかもしれないし、しないかもしれない。また彼の多くの意図と目標の一体どれが彼にとって最優先であるかはまだはっきりしていません。
トランプ政府には二つの目標があるようです。貿易赤字の大幅削減と「中国製造2025」戦略を阻止することです。アメリカが貯蓄率が低いままであれば、第一の目標を実現することは難しいでしょう。もしトランプが対中貿易赤字の削減に成功したとしても、他の国との貿易赤字が増えるだけであり、全体の赤字が減るわけではありません。米国の雇用維持という目標を実現することはさらに難しいでしょう。というのも貿易が縮小すれば、最初に減るのは雇用機会だからです。あるいはこれはトランプにとって最重要の目標ではないかもしれません。トランプは中国の技術発展の計画を阻止しなければならないと明言しています。しかし、貿易戦争という手段でそのような目標を実現することは、あまりに無駄が多いと言えるでしょう。トランプが少し前に中興通訊(ZTE)に対して実施した直接的な打撃[ZTEからの輸入禁止]のほうが、効率の上ではより効果的でした。
トランプは人目を惹く大規模な攻撃が好みかもしれません。しかしそのような貿易戦争はどちらにとっても損失です。少し前にハンデル・ジョーンズが《Chinamerica》(チャイメリカ)という著書を書き、米中両国の密接な経済関係を描きました。米中貿易戦争は、まるで双頭の蛇が噛みつき合っているなもので、どちらの攻撃も双方にダメージを及ぼすのです。たとえば、GM自動車の中国での販売台数はアメリカでの販売台数を上回っています。モルガン・チェースの2015年の報告によると、S&P500[米国株式市場の動向を表す代表的な株価指数]のハイテク企業、特に部品メーカーの利益は中国市場に深く依存しています。
トランプが惹起したナショナリズムと排外主義的心理はさらに危険です。かれは対中貿易赤字を持ち出してたくさんの発言をしています。現代においては、一定の条件をつけずに「国民経済」を語ることは滑稽です。実際、中国の対外輸出の半分は外資企業によるものです。ですから現在のような規模の貿易戦争は西側企業にも損害を与えるでしょう。21世紀のグローバル資本主義はグローバル市場だけでなく、グローバルサプライチェーンを有する製品がかなりあります。かつて電話機は一国内で製造が完成しましたが、今日のiPhoneは実際には中国製というよりも中国で組み立てられただけに過ぎません。ある報告によると、あるモデルのiPhoneの中国での製造価格は179ドルですが、そのうち輸入部品のコストが172ドルだというのです。
今後どのような事態になるのかは、トランプが何を最大の目標にしているのかにかかっていると言えるでしょう。ある報道によると、ホワイトハウス内部でも意見の相違があるようです。スティーブン・ムニューシン財務長官は対中貿易赤字の削減に努力しているようですが、対中強硬派のロバート・ライトハザーは中国に構造改革を迫りたいと考えています。このような混乱は両国および世界を巨大な不確実性に直面させています。もし中国の台頭を阻止することがトランプの主要な目標ならば、アメリカの対中政策は歴史的な転換となるでしょう。想定される一つの結果は、中国における巨大な経済危機です。もしこれがアメリカの目的であるなら、貿易戦争の発動にも頷けるというものです。
質問2.これまで長年にわたって中国は、輸出への依存度を引き下げるために、国内市場の育成に力を注いできました。現在までにこれについては成果を上げてきたのでしょうか。このような内外貿易均衡の努力と債務の増加にはどのような関係があるのでしょうか。
區龍宇:2015年の中国株式市場の暴落は、政府が救済しなければ、経済危機に発展していたかもしれませんでした。2008年から2009年の危機ではすでに政府による大規模な救済が実施されていました。しかし、この危機を招いた根本問題はまったく解決されていません。中国の長期的な経済バランスのゆがみは特定の成長戦略によるものです。つまり、消費を抑制すると同時に、国民周竜のかなりの割合を固定資本投資に振り向けたことです。最終消費が中国国内の総生産額に占める割合は、政府の内需刺激策によって若干は高まりましたが、それでも2016年には依然として39%にしか達していません。これは世界の水準にはるかに及ばず(低所得の国家に比べるとさらに低い)、中国の1960年の48%という記録に比べてもかなり低い水準です。それゆえ、中国経済の不均衡は典型的な過重蓄積と過重生産といえます。政府はすでに十数年前に、そういった事情から海外に投資することで、この種の不均衡を解決すると率直に認めていました。
輸出にかんしては、世界銀行2018年の報告によると、2015年と2015年の純輸出が中国のGDP成長にマイナスの貢献をしました。2017年はプラスの貢献に戻りましたが、それもわずか0.6%です。この年の実際のGDP成長率は6.7%でした[つまり輸出が経済成長に及ぼす影響はわずかだった]。今年と来年の純輸出の予想成長率はどちらも0.1%で、2020年の予測は0%です。貿易戦争の進展に伴い、この予測はさらに下方修正されるかもしれません。純輸出の減少によって貿易黒字も減少するからです。
しかし中国は純輸出の減少を補う効果的な増収エンジンがありません。GDP成長率は十数年前の半分程度です。しかもその成長自体も欺瞞的な可能性があります。なぜならすべての投資をその中に計上していますが、全体として過度な資本蓄積の状況において、明らかにすべての投資が収益を上げているわけではないからです。[建設されたはいいが]誰も住んでいないゴーストタウンは非効率的な投資の典型であり、最終的にはさらに多額の債務が残るだけです。もし政府が介入しなければ、償還できないでしょう。中国の債務総額は増加し続けており、情況はますます危険なものになっています。
2017年12月にIMFが公表した報告書では、中国の金融システムには経済を破壊する可能性のある三つの問題があるとされ、そのひとつがこの債務問題です。
国際決済銀行が今年3月に公表した報告書は次のように警告しています。中国の債務はすでにシステム的な崩壊をもたらす規模に達している、と。報告では中国の債務総額がGDPの256%に達していると指摘しています。これは先進国の水準に相当しますが、中国のような発展途上の国にとってはきわめて高い水準です。その他に、中国の債務構造は他の先進国と異なり、主には国有企業と地方政府によるものです。よい点は中国は対外債務がまだ少ない点です。しかし言っておかなければならいことは、隠された対外債務が存在するということです。それらは危機で爆発しない限り、どのくらいの規模なのかがわからないのです。
中国の債務総額はGDPの342%という別の情報もあります。これはおそらく銀行間債務を含んだものであり、前者の方はそれを含んでいません。このほか、社会保険基金の赤字を計上すると、債務総額はさらに大きくなります。強大な国家統制は中共をしてバラマキによる危機の急激な発生に対する抑制を可能にしましたが、これによって債務はさらに増えました。借りたカネは最終的には返さなければなりません。償還を迎えるとき、党と政府はふたたび人民からの収奪によってそれを支払うでしょう。しかしそれは、いまだ多くの人々が政治化していない中国において、より多くの人々が政府の政策に抵抗するという結果をもたらすでしょう。
質問3.中国のラテンアメリカとアフリカ、その他の国々における投資増加のスピードはさらに増しています。このことから中国が新しい帝国主義国家だということはできるでしょうか。もしそうであれば、どのような特徴があるでしょうか。「一帯一路」はどのような役割を演じているでしょうか。
區龍宇:2016年、中国は世界第二の対外投資(FDI)出資国になった。これは中国に多くの海外利益を守る必要があることを意味します。投資の重点がインフラにおかれていることから、投資分を回収するには長い時間がかかり、利潤の生産はさらにそれ以降になります。とすれば、中国がその日を迎えるためには、投資先国の政治に介入せざるを得ないのです。ゆえに、中国政府がこれまで堅持してきた外国の国内政治に干渉しないという原則も紙の上だけにならざるを得ません。中国は、これまでの原則とは逆の方法で、世界市場における自らの取り分を確保せざるを得ず、同時にグローバルバリューチェーンにおける自らの地位を引き上げようとするでしょう。中国のグローバルな大国化にともない、米中関係はますます緊張するでしょう。このような緊張した局面は中国をして他の諸国、特に近隣諸国との連携をさらに強めさせることになり、そうして「一帯一路」が生まれました。もちろん国内市場の縮小と遊休資本の過多も、官僚階級をして「一帯一路」の各種プロジェクトを通じて資本を輸出させることになります。
中国の官僚資本主義はグローバルな拡張という論理をもっています。まず経済面で、そして政治と軍事面です。もし独占の度合い、金融と工業資本の融合の度合い(官僚資本主義はこれらを現実のものとします)、資本輸出の程度から測ると、中国は非常に強力な帝国主義的要素を有していることは事実です。つまり軍事力と余剰資本による弱小国に対する支配です。それがかつてのように直接的な政治支配をめざすかどうかはわかりませんが。
これは外交政策の転換――鄧小平の「韜光養晦」(実力がつくまでおとなしくする)から習近平の「奮発有為」(才能を発揮する)――を意味しており、中国の米日関係においてもより強硬になっているのもそのためです。
しかし重要なことは、中国がいま経験している歴史段階は何かをはっきりとさせることです。もし我々が、この悠久の歴史を持ち、複雑な状況にある、そして驚愕のスピードで変革する国家に対してあわててレッテルをはり、他の帝国主義と完全に同じであるとみなし、そこから同じ戦略と戦術を導き出そうとすれば、おそらく過ちを犯すことになるでしょう。
まず、中国はかつて長期にわたって植民地化された経験があり、それが生み出した結果が今日も一定程度、中国共産党を縛っています。国土の一部はアメリカの保護下にあり(台湾)、香港は「回帰」しましたが、多くの住民が中国の統治に抵抗しています。
もし中国が帝国主義だとすれば、それは列強からの侵略を受けて半植民地となった国から帝国主義へと変身した初めての国になります。これはその強靭さと脆弱さを規定します。他の帝国主義はこのような植民地の歴史的影響はなく、逆に自身の植民地主義の歴史から恩恵を受け続けています(ハードパワーもソフトパワーもこの歴史によって強化されています)。このような非対称性は中国の台頭において容易に障害となることを規定づけていますし、われわれが米中対立の際にそのスタンスを決める際に慎重さが求められることにもなります。
中国の拡張はますます帝国主義的性質をもってきていますが、われわれは次の事実を考慮する必要があります。つまり中国は非常に矛盾した国家であり、それは拡張を求めていますが、しかしまた西側の市場と技術にも依存していることから、グローバルバリューチェーンにおける低付加価値の地位を甘んじて受け入れなければらないということです。中国は帝国主義国家がグローバルバリューチェーンを管理するための悪い協力者ですが、相対的にはその脇役的参加者なのです。われわれ左翼が知恵のある戦術を持とうとすれば、この種の非対称性を考慮しなければなりません。
質問4.あなたは現在の中国を「官僚資本主義」であると述べていますが、その意味するところは、中共官僚が政府における地位に依拠して、資本主義的手段を通じて経済利潤を獲得するとしています。あなたは、習近平政権下においてこの種のモデルがさらに深化すると考えていますか。
區龍宇:私の言う「官僚資本主義」とは、「官僚機構がその地位に依拠し、資本主義の手段を通じて利潤を獲得する」ことを指すだけではありません。さらに適切に述べれば、中国は、官僚が国家の強制力と資本の力を融合した一種の国家資本主義制度だということです。政府官僚の腐敗は世界各地でもよく見られる現象です。パキスタンやエジプトでは軍が国家を統制するかたちで中国官僚と同じ役割を果たしています。しかし私は、これほどまでに国家と資本が高度に融合しているのは中国だけではないかと思うのです。上から下まで、経済、医療、教育から他の部門まで。この種の独特の特徴は1949年の中国革命とその後の反動が作り出したものです。習近平の支配下において、官僚資本主義はより強化されていますが、経済と政治的危機のリスクは増大しているようです。これもリベラル派が「国進民退」(国有経済の拡張と民間経済の縮小)に警告を発している理由でもあります。リベラル派の主張はそう正確ではありませんが、経済の分水嶺を反映していることも確かです。かつては、市場が十分に大きく、国有経済の民営化も進み、この段階においては私的資本のブルジョアジーにとって最もいい時代でした。しかし市場が飽和状態になり、民営化が完成した後には、私的資本のブルジョアジーは、利潤獲得の空間が小さくなり、国有部門によるプレッシャーを受けていることを理解しました。それが今の彼らの不満の理由です。今日、中小規模の民間企業の経営は厳しくなっています。国有銀行が民間資本への融資を渋り、融資を国有部門に向けたいと思っているからです。

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