あまりにも破廉恥な金融取引税:G20ブエノスアイレス外相会合

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4月にアルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれたG20財務相・中銀総裁会合に参加した破廉恥財務大臣については批判しましたが、5月20日、21日の日程で同じくブエノスアイレスで開かれたG20外相会合で言及された金融取引税の破廉恥さにも触れておく必要があります。

外務省のサイトによると、G20外相会合のセッションの一つ「公正で持続可能な開発のための行動」という集まりで、河野太郎外相は、金融取引税の導入にも言及したそうです。

◎G20ブエノスアイレス外相会合(外務省:2018年5月21日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_004052.html

曰く、

「河野大臣からは,会議の締めくくりに,G20では,持続可能な未来の創出に向けた方策につき議論すべきである旨強調した上で,高齢化問題解決のための鍵となる要素は革新及び開放性である,公平な社会のためには民主主義を伴った開発が必要,SDGs達成のためには金融取引税を含む国際連帯税の活用も一案である,インフラについては開放性や平和利用を含む質が極めて重要である等の点についても指摘した。」

アルゼンチンは外国からの投資・投機の引き上げによってIMFに支援要請する金融危機に見舞われています。金融取引税のアイデアのもとになった通貨取引税は、まさにこのような投機マネーを規制ことを目的の一つとして提案されたものでしたが、いつのまにか規制という目的がなくなり、開発資金調達のためだけに取り上げられることが、主流となってしまっています。

しかし、投機マネーによる攻撃にさらされたアルゼンチンにおいて、まったくの骨抜き金融取引税に言及するということは、ひとつには来年日本で行われるG20の目玉の一つにしたいだけであり、世界の貧困をカネ儲けの手段とするSDGビジネスを後押しすることになることをみても、破廉恥極まりないと思います。

破廉恥ついでつけ加えると、河野大臣は金融取引税に言及したあと、「北朝鮮の核・ミサイル開発問題は,国連を通じたマルチラテラリズムの重要性を実証するもの,NPT体制に対する重大な挑戦である北朝鮮の核・ミサイル開発については,CVIDが不可欠,IAEAも活用する必要がある,北朝鮮のCTBT署名・批准も必要である旨述べた」そうです。

核廃止条約に対する敵対政策を棚に上げたこの発言や、直後に出されたG7首脳声明によるベネズエラ大統領選挙に対する声明の「我々,カナダ,フランス,ドイツ,イタリア,日本,英国,米国及び欧州連合の首脳は,ベネズエラにおける2018年5月20日の大統領選挙に至る選挙プロセスを一致団結して拒絶する」という主張といい、破廉恥以外の何物でもないでしょう。

◎ベネズエラに関するG7首脳声明(外務省:2018年5月23日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/sa/ve/page4_004050.html

話をアルゼンチンに戻します。

アルゼンチンは2001年に金融危機にみまわれ、IMFの介入に抗議するナベカマをもった市民らの街頭デモなどを受けて、03年に左派ポピュリスト・ペロニスタのキルチネス政権が誕生、債務返済の拒否(デフォルト)を選択したことで、IMFやアメリカなどの「国際社会」から非難されつつも、キルチネスを引き継いだフェルナンデス政権という中道左派・ペロニスタ政権によって経済が回復していきました。08年のリーマンショックをうけて経済が危機に陥りますが(それは世界中同じ)、フェルナンデス政権は、外貨流出を規制する外貨規制を導入します。フェルナンデスはG20サミットにも参加してきましたが、やや異彩を放つ存在として一目置かれていました。世界経済フォーラムには03年のキルチネス政権の時代からは一度も参加していません。

不当債務帳消委員会(CADTM)の共同代表のエリック・トゥーサンは、キルチネス→フェルナンデス政権による債務返済停止の意義をこう述べています。

「アルゼンチンは象徴的な事例だ。新自由主義政策の24年(1976~2001年)、そしてIMFによって指揮された緊縮計画の継続を経て、2001年12月に民衆的反乱が勃発した。そして政権崩壊に行き着いた。新政権は金融市場で取引されていた総額900億ドルの国債償還の凍結を一方的に実施した。それは今日まで、史上最高額の返済凍結として記録されている。  返済凍結から3年後、政府は経済回復政策を実施し、IMF勧告に従うことを拒否し、(ハゲタカ・ファンドを含む)債権者に65%の債務削減を押しつけた。2001年12月末アルゼンチンは、二国間債務(総額65億ドル)の返済も凍結した。スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、英国……など、パリクラブに結集する国々に対してである。この返済凍結は10年間続き、いまアルゼンチンは極めて良好な状態にある。2003年から2012年にかけて、その年成長率は平均8%だった。アルゼンチンが債務返済を凍結せず、IMFや債権者への返済を拒否しなければ、アルゼンチンは、この国が世界市場に輸出している産品価格の上昇を、2004~05年から利用することができなかっただろう。これらの歳入すべては債務返済によって呑み込まれていただろう。民衆の圧力の下で、アルゼンチンの当局は、外国の多国籍企業とIMFが押しつけようと思っていた、電力、水、通信その他の料金値上げを拒否した。」

キルチネス→フェルナンデス政権の結末は、ブラジルのルラ政権など南米の左派政権がたどった軌跡と同じであり、社会運動はそれについて厳しく振り返る必要があるとは思います。それにしても、です。

デフォルトから債務再編を実施し、債権者に割り引いた債務支払いを主張したフェルナンデス政権に対して、いわゆるハゲタカファンドは債務再編案を受け入れず、元利と損失の支払いを求めてアメリカの裁判所に提訴して、フェルナンデス政権と対立を深める経過などは小説『国家とハゲタカ』の最終章「アルゼンチンよ、泣かないで」に詳しく描かれています。

そしてこの争いは、投資額の12倍ものリターンを得たハゲタカに軍配があがるという結末で2016年に終結します。なぜでしょうか?

それはその前年2015年11月に行われた大統領選挙の決選投票で、外貨規制の撤廃や民営化、国際金融市場への復活、そしてポピュリズムのばらまき手法のキルチネス→フェルナンデス政権の腐敗など唱えて当選した親米のマウリシオ・マクリ現大統領とJPモルガン出身の経済大臣、シェル現地法人元社長の石油大臣、テレコム社元社長の外務大臣、自動車販売会社の元社長の運輸大臣などの新政権が、債務再編を受け入れないハゲタカファンドへの元利+損失の支払いを認めたからです。

マクリ大統領は当選直後の2016年1月の世界経済フォーラムにもアルゼンチン大統領として13年ぶりに参加しています。親米のマクリ政権は、それまでのフェルナンデス政権の政策をつぎつぎに変更して、新自由主義経済改革を進めることで、投資を呼び込み、経済発展を演出してきました。

日米欧の金融緩和によるマネーがアルゼンチンの過熱経済を加速させました。今回のアルゼンチンの危機は、新自由主義政策によるものです。マクリ政権の経済成長は、これまでと同じような新自由主義システムによるバブルに過ぎなかったのです。

しかし日本資本家新聞の社説では「左派政権の経済運営が行き詰まった後を受けたマクリ政権は自由主義的な改革を進めてきた。その成果が十分に出ないうちに副作用が表面化したといえる」などと、お決まりのセリフ(「その成果が十分に出ないうちに」)と嘆いています。日銀の2%の物価目標とおなじように「いずれ成果がでる」ということです。

◎アルゼンチン揺らす資金流出 (日経新聞社説2018/5/13)
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO30433370S8A510C1EA1000/

しかし今回の危機は「副作用」などではなく、資本主義の「本作用」なのです。

G20外相サミットの翌日にマクリ大統領を表敬訪問した河野大臣は、アルゼンチンの(新自由主義)経済改革を支持することを伝えています。

◎河野外務大臣によるマウリシオ・マクリ・アルゼンチン大統領表敬(外務省:2018年5月21)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/la_c/sa/ar/page1_000546.html

新自由主義グローバリゼーションと金融危機の持続可能な社会ではなく、限りある人間と自然の資源からの無限の搾取と度重なる金融危機を繰り返す現在のシステムを変革することを目指す社会運動は、今回の河野大臣の発言の破廉恥さを認識すべきでしょう。

とはいえ、それがどれだけ骨抜きであっても、金融取引税が話題となり、実際に実施された場合には、通貨取引を含む金融取引システムへの課税が可能であることが証明される、ということは、10年以上前から言われていたことでした。

ふたたび金融危機の暗雲が世界に垂れ込める10年後のいま、河野大臣のいうような金融取引税が実施された場合に、証明されることがもう一つ付け加えられるとおもいます。

それは、10年前にもまして、資本家政府のいう金融取引税があまりにも破廉恥である、ということが証明された、ということです。
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