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続・映画「マルクス・エンゲルス」 ~スローガン問題&消えた自由貿易論争

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▲『マルクス[取扱説明書]』(文:ダニエル・ベンサイド/絵:シャルブCharb/訳:湯川順夫、中村富美子、星野秀明/柘植書房新社)より。この挿絵を描いたシャルブCharbのペンネームをもつステファン・シャルボニエSutefan Charubonieは週刊誌『シャルリー・エブド』の編集責任者で2015年1月7日に他の執筆/編集者ら11名とともにジハーディストによって射殺された。


前回の映画紹介で、義人同盟の総会のシーンについて、同盟の名称やスローガンを変更したのは第一回目総会だが、マルクスはその総会には参加していない、ということで「フィクションもある」と書いたのですが、気になったので、映画を観る人にお願いして確認してもらいました。

すこしまえに読んだ『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』(トリストラム・ハント、筑摩書房)では次のように書かれていました。

「1847年6月に、正義者同盟の大会がロンドンで開かれ、マルクスとエンゲルスも新会員として招かれた。……マルクスは家計がまたもや悪化していたため、ブリュッセルの代表団はドイツの教師で共産主義者のヴィルヘルム・ヴォルフが代表を務めることになり、かたやエンゲルスはパリ支部の会合で苦闘したあげくに、その代表として選出された。……代表団は名称を正義者同盟から共産主義者同盟に変えることで合意し、標語は『人類みな兄弟だ』から、もっとずっと大げさな『万国の労働者、団結せよ!』に変更された。エンゲルスはこの大会で同盟のために、彼らの政治哲学的立場を示す『革命用教理問答』を作成する任務を負った。」「1847年10月にエンゲルスが作成した次の草稿は、11月にまたロンドンで予定されていた第二回共産主義者同盟の大会に備えて『共産主義の原理』と名づけられた。……グレート・ウィンドミル通りのレッド・ライオン・パブの上階にあったドイツ人労働者教育協会の本部内で1847年11月に密かに開かれた第二回大会は、10日間におよぶ疲労困憊の日程のなかで『原理』をさんざんにこきおろすものになった。」(『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』、190~194頁)

『マルクス[取扱説明書]』(ダニエル・ベンサイド、柘植書房新社)でも、こう書かれていました。

「1847年春、マルクスとエンゲルスは、ドイツ人亡命者たちによって結成された『正義者同盟』に加盟した。この第一回大会が6月1日、ロンドンで開かれ、組織の名称を変更して『共産主義者同盟』とすることを決定した。そのスローガン『万人は兄弟だ』は、『万国の労働者、団結せよ』に置き換えられた。第二回大会はやはりロンドンで同じ年の11月に開催された。この大会でマルクスは、エンゲルスとともに共産主義者同盟の宣言を起草する任務をまかされた。」(『マルクス[取扱説明書]』、28頁)

また映画の予習として読んだ『カール・マルクス伝記』(ドイツ社会主義統一党・マルクス=レーニン研究所、大月書店)でもこう書かれていました。

「マルクスは、きわめて残念なことには1847年6月ロンドンでひらかれた第一回同盟大会に参加できなかった。……しかしマルクスはロンドンで十分に自分の立場を表明してもらうことができた。エンゲルスが義人同盟パリ支部の代議員として、ヴィルヘルム・ヴォルフがブリュッセル支部を代表したからである。ヴォルフがブリュッセルに帰ってきて、よい知らせをもたらした。規約草案はマルクスとエンゲルスの構想のとおりに承認されて同盟支部の討議におろされ、同盟の新しい名前とスローガンは採択された。」(『カール・マルクス伝記』、96~97頁)

なので、映画の総会のシーンを第一回総会だと勘違いし、「フィクションもある」と書いたのですが、あとで映画を観た人に確認してもらったところ、映画では総会のシーンで「1847年11月」というキャプションが表示されていたことから、第二回総会のシーンだったことがわかりました。

マルクスは第一回総会には資金を工面できなくて参加できませんでしたが、第二回総会にはエンゲルスともに参加して演説もしていますので、映画のシーンは完全なフィクションというわけではありません。ただ、名称を「共産主義者同盟」に変更したのは、どうかんがえてもマルクスの参加していない第一回目の総会だとおもいます。上記の2冊の書籍だけでなく、後年、エンゲルス自身も「共産主義者同盟の歴史によせて」のなかでも、第一回目の総会で「共産主義者同盟と名のった」と記していますので。

「1847年の夏[6月]に、同盟の第一回大会がロンドンでひらかれ、そこへはW・ヴォルフがブリュッセルの班を、私がパリの諸班を代表して出席した。この大会では、まず同盟の改組がおこなわれ、……「共産主義者同盟」と名のった。……第二回大会は、同じ年の11月末から12月のはじめにかけておこなわれた。この大会にはマルクスも出席し、かなりに長い討論で――大会はすくなくとも10日間はつづいた――新しい理論を主張した。」(共産主義者同盟の歴史によせて、フリードリヒ・エンゲルス、1885年10月8日、『マルクス=エンゲルス全集21巻』大月書店、220頁)

「人類はみな兄弟だ」というスローガンから「万国の労働者、団結せよ」のスローガンに変更されたのが、第一回目の大会なのか第二回目の大会なのかがわかる一次資料(翻訳もの)は、ちょっといまのところ探せていませんが、1846年5月から48年3月までのマルクスとエンゲルスの文書を掲載しているマルクス=エンゲルス全集第4巻の巻末年表には、次のような記載があります。

「6月はじめ エンゲルス、ロンドンの共産主義者第一回大会に出席し、積極的に仕事に携わる。大会は新しい規約を審議す。義人同盟の共産主義者同盟への変更が決議され、『あらゆる人間は兄弟である』という同盟のスローガンは『万国のプロレタリア、団結せよ!』というスローガンにおきかえられた。」

第一回目の大会で討論され、第二回大会で最終的に確定した同盟の規約の冒頭には「万国のプロレタリア団結せよ!」と記されていますので(全集4巻に全文が収録されています)、いまのところ原典において、確認がとれているのはこの時点(第二回大会)です。

ということで、映画で描かれた総会のシーンにおける「フィクション」は、マルクスの参加がフィクションなのではなく、そこで名称とスローガンが変更されたことが「フィクション」であった、ということがとりあえずは正確な表現かな、と。しかし、もしかしたら第二回大会の際にも論争があった可能性はあるので何とも言えませんが。このスローガンの生成に関する研究はたくさんありそうなので、またひまーなときにでも調べてみたいと思います。

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さて、attac的にこの時期のマルクスやエンゲルスの主張で重要かなとおもわれるものに「自由貿易論」があります。

1847年9月中旬にブリュッセルで自由貿易に関する会議が行われ、マルクスは参加。発言を希望するも時間がないという理由で却下され(実際には意図的に発言を封じられた)、会議は最後に「自由貿易は労働者にとってきわめて有益であり、彼らを一切の窮乏と困窮から解放するであろう」という決議を多数で採択。マルクスらは投票しませんでした。このときマルクスが用意していた演説原稿や、エンゲルスの自由貿易に関する一連の論評などがこの時期に書かれています。自由貿易に関する主張は、ブリュッセル時代のマルクスとエンゲルスにとって、映画では描かれていないが重要な事項のひとつです。

ちょっと前になりますが、こちらのブログでもブリュッセル時代のマルクスとエンゲルスの自由貿易に関する論考などを紹介したことがあります。
・トランプ当選で「反グローバル化は間違いだ」と叫ぶ主流メディアこそ間違いだ(2016/11/11)
 http://attackoto.blog9.fc2.com/blog-entry-343.html

またイギリス・チャーチスト運動とのかかわりも、かなり重要な事項だとおともいます。この点も映画では描かれていませんが、自由貿易とチャーチストのかかわりでいえば、保護主義の地主階級に対して、自由貿易を主張するブルジョアジーが議会で穀物関税廃止法を通過させて勝利しましたが(1846年6月)、その直後のノッティンガムの選挙(同年7月)において、チャーチスト指導者はのファーガス・オコナー(アイルランド人です)が自由貿易派のホブハウス大臣を選挙で破ったことに、マルクスとエンゲルスらが連名で祝辞を送っています。

「拝啓 ノッティンガム選挙におけるあなたのすばらしい成功にあたって、ここにわれわれは、あなたにたいし、またあなたをつうじてイギリスのチャーチスト諸氏にたいし、このめざましい勝利をお祝い申し上げる。自由貿易派の大臣がやぶれさったこと、しかも自由貿易の原理が議会で勝利を占めているときにあたって、多数のチャーチスト大衆の挙手投票[当時はまだ秘密投票ではなかった:引用者]でやぶれさったこと――このことをわれわれは、イギリスの労働者階級が自由貿易の勝利後とるべき自分たちの立場を熟知していることのしるしだと考える。この事実からわれわれは、労働者階級が次のことをよく知っていると結論するものである。……土地貴族がたたかいから退却したことによって、いまや戦場は整理されている。闘争が起こりうるのは、中間階級[ブルジョア]と労働者階級のあいだだけである。たたかいの当事者は、それぞれその利害と相互の地位におうじて、次のような鬨の声をあげる―――中間階級「ありとあらゆる手段による通商の拡大と、これを遂行すべきランカシア綿業王たちの内閣」―――労働者階級「人民憲章にもとづく憲法の民主的改造」。そしてこうなれば、労働者階級はイギリスの支配階級になれるだろう。……彼らがこの任務をよく承知していることは、次期総選挙にはみずから立候補しようと考えていることによって、証明される。」

普通選挙(チャーチストの要求は成人男子のみの普通選挙という重大な欠陥がありました)、秘密投票、選挙区の平等など、現在はそのおおくが実現されたものの、小選挙区、金権選挙の蔓延、解散権の濫用など、いぜんとして「中間階級」に有利な制度になっています。

映画の話に戻ると、2時間という尺ですべてを詰め込むのは無理難題だとおもいますが、トランプの「保護主義」と習近平の「自由貿易」と安倍の「世界一、企業が活躍する国」が火花を散らし、混然一体と融合する現在、マルクスとエンゲルスの語った自由貿易論がすこしでも触れられていれば、おもしろかったのになぁ、とおもった次第です。

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