日経電子の版の労働生産性と公共サービス

先日開かれたattac首都圏総会の後に行われたattacカフェの白川真澄さん講演「アベノミクスの5年とこれから」は勉強になった。

白川さんの提起の中で雇用状況の資料が示されたが、定年延長や年金受給年齢引き上げなど、「先進国」の住民の老後がこれほど貧しい社会のあり方はおかしいのではないか、GDPや賃金が上がっても、本当にそれが豊かであることの指標なのか、という疑問を出した。

あわせて日経新聞の新年度購読者拡大キャンペーン「日経電子の版」のこんなシーンを紹介した。定年延長や働き方改革全般に対する皮肉が込められた秀作だ。



新社長・曹操「人生百年の時代か まずは定年延長 そして退職金はカットだ」
張飛「なんて新社長だ(汗)」
関羽「なんて時代だ(汗)」
劉備「どうしよ(汗)」
孔明「日経 電子の版!」

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白川さんの講演では、アベノミクスの5年で失業率は大きく改善し、ほぼ「完全雇用」が実現しているが、その内実を見ると、「女性と高齢者の労働参加率のめざましい上昇」は「労働者の可処分所得の低下によって、賃金収入を増やすために就労せざるを得なくなっている」し、この5年間で正規雇用は104万人増えたが、非正規雇用は292万人の増加(3倍)だという。

議論は雇用状況だけでなく様々な方向に飛び、やや議論不足の感があったが、刺激的な内容だった。

で、翌4月8日の日経新聞朝刊には、「生産性高まらぬ雇用増」という資本家新聞丸出しの癪に障る見出しがおどっていた。雇用は増えているが低賃金のサービス業に集中しているという記事で、前日のattacカフェで白川さんが提起していることを裏付ける内容だった。

驚いたのはこんな記述。

「日本の就業者は現政権が発足した12年から16年までの間に168万人増えた。この期間に増えた労働者の94%は65歳以上で、82%は女性だった。」

人口全体が増えているときには、雇用増≒失業者減とは限らないが、人口減少のなかでの雇用増≒失業者減とみていいだろう。だが増加した労働者の94%が65歳以上というのは、かなり特異な数字ではないだろうか。

資本主義のなかで雇用されるということは搾取されることに他ならないのだが、定年延長や再雇用などの権利要求はわかるが、労働界全体は1日でも早く賃奴隷の鎖から労働者を解き放つための努力をすべきではないか。

しかし賃奴隷の鎖から解き放たれたとしても、バラ色の老後が待っているわけではないのだろう。日経新聞の記事はつづけてこう記している。

「増えた就業者の6割は介護事業などの保健衛生・社会事業が占めた。高齢化による介護ニーズ拡大も背景に年間20万人以上のペースで急増した」。つまりこの5年で100万人増えたということだ。

保健衛生・社会事業の次に就業者数を増やしたのは事務代行などの業務支援サービスで76万人増えたそうだ。いうまでもなく派遣や請負などの蔓延がその背景にある。

だが日経新聞の悩みは、そんなところにはないようだ。

「就業者全体でみると、いま起こっているのは製造業、建設業からサービス業への労働力のシフトだ。ただ労働移動先の業種のほうが生産性が低く、しかも下がり続けている点が高度成長期の労働力移動とは異なる。」

「労働者1人当たりが生む付加価値(生産性)をみると、介護などの分野は12年~16年に3.8%低下した。業務支援サービス業も9.5%…下がった。」

つまり、就業者数が減った製造業や建設業などは生産性が高まったが、就業者数が増えた介護や派遣などでは生産性が下がった、というのが資本家新聞のお悩みである。

労働生産性とは一人当たりの生み出す付加価値であり、それを高めるには、簡単に言えば、労働時間を延ばすか、作業のスピードを高めるか、人を減らしても仕事は減らさないか、くらいしかない。生産性向上にイノベーションやAIなどといわれるが、資本主義では、結局はこの3つのいずれか、あるいはいくつかを達成し、さらに搾取の割合を強めるための手段でしかない。

記事が紹介する「製造業の生産性が向上した」というのは、つまるところ、製造業は人を減らしたから生産性が上がったのであり、介護などサービス業は人手がかかるから生産性が低いということでしかない。(そして、結論を先回りしていえば、介護や飲食などサービス業に対してさらに搾取の度合いを強めるような圧力をかけるというのが狙いである。)

本来、介護などは公共サービスであるにもかかわらず、そこで働く労働者=労働力は完全に市場ベースで流動していることが問題であり、まずそのベースを根本的に転換する必要があるし、それまでにもさらに人手をかけることこそが必要であり、それを前提とした労働生産性比較こそが、本当の意味で必要なのではないか。

しかし資本家新聞も「働く人全体の『雇用の質』を底上げするには何が必要か」と自問自答するが、その答えが奮っている。

「第一に、労働移動先になっているサービス業の生産性を引き上げる必要がある。」

つまり雇用の質を上げるために、さらに人手を減らせ、減らせなければ賃金を下げろ、それもできなければサービス利用者から搾り取れ、というのである。

「介護業界は公定価格の介護保険からの収入に依存しているため、事業者が努力してサービスの質を高めても、値上げという形では収入に反映しにくい。このため生産性を高める強いインセンティブが働かない。」

ひどい言い方だ。

介護の現場に聞くのではなく、人材派遣という口入れピンハネ事業である人材派遣会社の事業部長のこんなコメントを紹介しているのだから、途方もなく犯罪的だ。

「経営余力がない事業者が多く、合理化投資も進まない。地場の社会福祉法人は介護ロボットやセンサーの導入にコストをかけられず、人手でカバーしている。」

さらにこんな放言も。

「悪循環から脱するには、介護保険外と保険適用のサービスを一体的に提供する『混合介護』を広げるなど、介護事業者が自助努力によって収入を増やしやすくする制度改革が求められる。施設や事業所を再編して経営規模を拡大すれば、間接コストを減らす余地も生まれるとみられる。」

介護などの公共サービスから「資本家」という直接コストを一掃することこそ、必要である。アタック・ジャ・バーン的に言えば、公共サービスを市場から、労働者と利用者の側に取り戻そう、ということである。
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