
米中貿易戦争という文字が報道紙面を踊っています。
トランプが2017年の対中赤字3752億ドルを問題視して、1000億ドルの削減を求めるために中国からの輸入する約1300品目(500億ドル)に対して25%の課税すると発表し、中国の商務部が4月4日にアメリカから輸入する106品目(同額500億ドル)に対して25%を課税することを発表しました。
中華人民共和国商務部 公告2018年第34号(品目リスト付き)
http://www.mofcom.gov.cn/article/ae/ai/201804/20180402728484.shtml
商務部のサイトでは品目番号入りのリストだけですが、下記サイトでは、それぞれの品目の2017年の輸入額もあわせて表示されています。
http://www.xindemarinenews.com/china/3359.html
対象品目(106品目500億ドル)の中で額が一番多いのは大豆で約140億ドルです(番号1)。それとアメ車関係の品目もすべてあわせると(番号34~61)けっこうな額です。
とはいえ、トランプも「中国とは貿易戦争しているわけではない(ので交渉する)」とか、中国政府も「対話の扉はいつでも開かれている」とかいうもので、これが今後どうなるかわ分かりません。
しかし少なくとも「アメリカ・ファースト」と「チャイナ・ドリーム」がグローバル市場において戦争とまではいかないまでも、つねに摩擦をふくみ、その利害を巡って対立と調整が必要になっているということには違いないようです。
しかし、さらにはっきりさせておくべきことは、誰の「ファースト」なのか、誰の「ドリーム」なのか、ということです。いうまでもなくアメリカで貿易の主導権を握っているのは資本家ですから「アメリカ・ファースト」とは「アメリカ・ブルジョア・ファースト」のことです。
では中国はどうでしょうか。
時間がないのであれこれ解説はすっ飛ばしますが、現在、中国の貿易にしめる企業別の割合は2016年で、民間企業45.8%、外資企業36.2%で、国有企業はわずか15.6%です。しかも民間企業は貿易で4970億ドルの利益をあげ、外資企業も1460億ドルの利益を上げていますが、国有企業は1450億ドルの赤字となっています。
http://interactive.ceicdata.com/2017CNForeignTrade-CHN-H5
つまり外国貿易に関する「チャイナ・ドリーム」とは、「チャイナ・ブルジョア・ドリーム」のことだったのです。中国のブルジョアのおおくが官僚出身だったり、官僚の家族であることはよく知られています。
米中貿易戦争が、米中ブルジョア戦争であることが分かったのですが、では、米中の労働者はどうすべきか、ということです。自国のブルジョアの味方について、相手側と戦うのか、ということです。
しかし先ほど示した貿易による利益の源泉である新たな価値(剰余価値)は、流通部面では生み出されず、生産部面で生み出されるものです。貿易や販売などの流通における利益も、商品の生産の際に生み出された価値からの分け前です。
生産過程で生み出される価値というのは、その商品を作るために費やされた労働力という商品の価格によって決まります。そして労働力の価格というのは、労働力を再生産するために必要となる金額です。それは労働者が必要とする衣食住、文化、育児、教育、インフラ、社会保険その他その他です。
今回のような場合は、関税引き上げによる物価高騰で、労働者の生活費があがる=労働力商品の価格が上がることになり、それは一義的には労働力商品を購入する資本家の儲けを減らすことになります。
それでも関税など貿易障壁を引き上げることがあるのは、たとえば国内産業の育成(かつての日本)や既得権の保護(トランプ)、そして対抗措置(いまの中国)などがあげられるでしょう。
そしてアメリカ・ファーストのトランプも、チャイナ・ドリームの中国政府も、どちらも自国の労働者に向かって、「忘れられた人々(労働者)をまもる!」とか「民族の偉大な復興!」などと叫んで労働者の支持を得るために、貿易障壁を高く築き上げようとしているかのようです。
だが、騙されるな!といいたい。
米中両国のブルジョアが自分の汗水を流して「貿易障壁」という煉瓦を積み上げるわけではありません。その過酷な労働は労働者におしつけられます。そして、その煉瓦をよく見ると、それは労働者の肉と農民の骨を固めて造られているのです。
「自由貿易の守護者」であることをダボス会議で宣言した中国政府は、40年にわたる「改革開放」という不夜城を無数の労働者・農民の血と肉と骨で築き上げてきました。それは今や万里の長城をこえてシルクロードや大海原をこえて世界に広がりつつあります。
「貿易戦争」を振りかざそうとしている米中のエスタブリッシュメントは、何十年にもわたって、別の戦争――――「階級戦争」を続けてきました。もちろんアメリカは中国にくらべてもはるかに長く、そしてグローバルな「階級戦争」の経験を積んできました。後発資本主義としての中国は、当初は低姿勢に、そして近年ではあまり遠慮することなく、これらの戦訓を学んできました。
昨日記者会見した中国商務部の副部長兼貿易交渉副代表の王受文氏は「貿易戦争に勝者はいない。だがそれを恐れはしない。やられたらやり返すのみ。もちろん交渉したいものには、対話の扉は開かれています」と述べて、振り上げた矛を収めようと相手側に呼びかけています。
http://finance.people.com.cn/n1/2018/0405/c1004-29908727.html
最後に、忘れるな!と言いたい。資本の世界で労働者は築城工ではなく、墓堀人なのだと。
高く積み上げられた貿易障壁を攻略するためには、将軍の矛という強制に駆り立てられた無数の兵士の強固な隊列による犠牲が必要となります。そして終わりのない貿易戦争で共倒れになることを恐れたエスタブリッシュメントによる「対話」によって、振り上げられた将軍の矛は、自国の兵士らに振り下ろされます。
当初は内戦として、そして対外戦争において、「貿易戦争」に駆り出されてきた中国の農民・労働者たちは、徴兵され(農民工・国有企業民営化)、多大な犠牲を払いつつ(無数の労災・職業病)、巨大な成果を上げ(巨額の貿易黒字)、小規模な反乱なども経験しつつ(山猫スト)、巨大な部隊を形成し(数億にのぼる労働者階級)、反乱兵には弾圧もありつつ(労働NGO)、さまざまな経験を蓄積かさねてきました。
今後も、武装を解除することなく、そして、これまで相対峙することを余儀なくされていた城壁の向こう側の歴戦部隊とともに、これまでも打ち下ろされてきた、そして今後も打ち下ろされようとする「自由貿易」という名の矛を退けて、システムを守るための城壁を高く築くのではなく、その葬送のための穴を深く深く掘り続けるでしょう。
と、新しい時代の階級戦争をたたかう国際義勇軍のヘッポコ三等兵は注目するところです。
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