中国は帝国主義か否かをめぐって~一帯一路ピープルズ・フォーラム(番外編)

昨年9月に香港で行われた「一帯一路とBRICSに関するピープルズ・フォーラム」について思わぬところからの言及がありました。ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)の盧荻教授が、同シンポで議論となったとされる「中国帝国主義」論を批判する文章を3/2付けの香港紙「明報」に寄稿し、フォーラム主催のひとりである區龍宇氏がそれに応えています。以下は、區龍宇氏の反論の翻訳です。原文はこちら https://goo.gl/xY3Spf 時間を見て盧荻教授の論考も紹介したいと思います。なお同フォーラムの関連文章はattac首都圏のブログに掲載しています(こちら)。

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一帯一路とBRICSに関する市民シンポジウムの様子

中国の国家規定について盧荻教授と議論する
區龍宇

香港紙「明報」2018/3/27に掲載

盧荻教授が3月2日付の「明報」オピニオン版の文章で(原注1)、昨年9月に行われた「一帯一路とBRICSに関するピープルズ・フォーラム」(原注2)について言及している。私もそのシンポジウムの主催者の一人だったので、彼の意見に回答したいと思う。

●まず中国が資本主義か否かを問いたい

盧教授は中国は新帝国主義国家ではないと考えている。しかし、中国が帝国主義かどうかを議論する前に、まず中国が資本主義なのかどうかを議論すべきである。帝国主義とは一種の特殊な資本主義である。ある国家が帝国主義となるには、まず資本主義でなければならない。中国共産党は中国が資本主義ではなく、「中国の特色ある社会主義だ」と主張しているので、とくにそのことは議論されなければならない。もし中共の主張が正しいのなら「中国は帝国主義か否か」という問題はそもそも存在せず、議論の必要もない。逆に中国が資本主義であると断定することでしか、「資本主義中国は帝国主義か否か」という討論を展開することはできない。

「中国は資本主義か否か」という問題は、まさに盧教授の致命的弱点である。彼は中国が資本主義であるという断定に躊躇している。中国がすでに世界資本主義に融合していることは認めるが、融合することは「必然的に資本主義的性質に限ったことなのか?」と疑問を呈する。「中国はグローバル資本主義の体系的蓄積様式に直面しているが、それは同時に従順と抵抗を兼ね備えている」がゆえに、中国は資本主義ではない、というのである(原注3)。彼はさらに中国は資本主義であると主張する人々を、デーヴィット・ハーヴェイとアレックス・カリニコスからの引用だけで済ませており、それは「西側中心主義左翼」であると批判している。

まず指摘しておかなければならないが、「中国資本主義」論者は「西側中心主義左翼」だけに限ったことではない。中国土着の勢力も存在している。その一人が、他でもない毛沢東主席だ。毛主席の基準によると、現在の中国はいうまでもなく資本主義である。1962年8月、毛沢東は北戴河会議[最高指導部の非公式会議]で、劉少奇が農村で「包産到戸」(農家請負制)とは「単幹」(単独経営)であり、「単幹は必ず二極分化をもたらし、二年と言わず、一年で二極化がもたらされる」と批判し、その後に修正主義と資本主義復活の危険について直接的に語ったのである(原注4)。もし「包産到戸」がすでに資本主義の開始であれば、中国の国民経済の主要な部分がすべて利潤のための生産をおこなっている今日において、どうして中国が非資本主義的性質だといえるのだろうか。

●資本主義とは何か

「包産到戸」を資本主義復活の始まりと定義づけたのは毛沢東の大きな間違いだ。とまれ彼は「西側中心主義左翼」ではないだろう。もちろん彼はとっくに死んでしまっているので、現在の状況をどう考えたのかについては誰にもわからない。幸いにも彼には後継者がいた。つまり、中国土着の毛沢東左派たちだ。2008年前後、インターネット上で広まった「中国毛沢東主義共産党から全国人民に告げる書」はその一例だろう。この文書は「30年来の資本主義復活によって、中国共産党指導部の修正主義支配集団が進めてきたいわゆる『改革開放』路線は、徹頭徹尾の資本主義復活路線であることが証明された」(原注5)と考えている。

盧教授の「中国資本主義」論への反論は、「中国はグローバル資本主義の体系的蓄積様式に直面しているが、それは同時に従順と抵抗を兼ね備えている」ということを根拠にしている。しかし「抵抗」とは何を指しているのか。そして何に「抵抗」しているのか。たとえば毛沢東時代のように、反資本主義を以て資本主義に抵抗しているのか、それとも、毒を以て毒を制すというような、中国資本主義を以て外国資本主義に抵抗しているのか。もし前者であるなら、抵抗は敗北したのか、勝利したのか。もし勝利したのであれば、なぜ毛沢東左派や他の左翼が指摘するような種々の資本主義現象――極めて深刻な二極分化、民営化、役人から資本家への転身――が出現しているのか。盧教授はそれらを説明しないだけでなく、「二極分化」という「部屋の中の象」(タブー)にさえも言及しない。

毛沢東左派の理論が粗雑であるというのであれば、トム・ボットモア編纂の《A Dictionary of Marxist Thought》(マルクス主義思想辞典)から資本主義とは何かに関する箇所を引用してもいいだろう。(1)生産者本人の使用のためではなく販売のために生産されている、(2)労働力市場の出現、(3)貨幣が交換媒介の主要な役割を果たし、貨幣資本が銀行と金融仲介の全面的作用を促進している、(4)資本家あるいはその代理人が生産過程を支配している、(5)貨幣と信用貸付が普及し、他人資本を利用することで蓄積が可能になっている、(6)資本間に競争が存在している。

この6つの条件をあてはめれば、中国が資本主義の論理への抵抗に勝利した、とは言い難いだろう。もちろん「抵抗」していないわけではない。しかしそれは「反資本主義を以て資本主義に抵抗する」ものではなく、後発の資本主義大国である中国が、欧米日とのあいだでグローバル市場の分け前を争っているというものである。

●盧教授の間違った設問

これに続けて議論すべきは、中国が帝国主義か否かである。盧教授は多くの「そうではない」という証拠をあげている。たとえば中国の対外投資は後進国を搾取して工業化を阻害している、中国の安い労働力が他国の労働者の販売力を削減していることはない等々である。

しかし問題は、リベラル派のジョン・ホブソンであれ左翼のヒルファーディング、レーニン、ブハーリンであれ、代表的な帝国主義理論は、この二つを帝国主義の条件としては見なしていないと言うことである。彼らが重視した要素とは、1)国内の主要経済部門の独占の度合い、2)工業資本と金融資本の融合、3)大量の資本輸出、4)植民地主義、である。

これらの条件は先行する帝国主義とドイツや日本など後発国家との間での覇権争いを促し、二度の世界大戦を引き起こした。戦後、大部分の植民地は形式的に独立を果たしたが、エルネスト・マンデルなどその時代の左翼学者らは、これら後進国は依然として欧米日による政治・経済的な支配――直接的な植民地支配から間接的な支配――を受けていると考えた。とはいえ経済的植民地主義であっても、多くの行進国家がいくらかでも工業化を果たした。帝国主義は必然的に後進国の非工業化を引き起こすというわけではない。盧教授は誤った設問をしたのである。

では1)~3)の要素から今日の中国をみてみると、どれもかなりの程度適応可能なことが分かる。4)にいたっては、今日の帝国主義による後進国の支配は直接的なものから間接的なものになっており、必要条件ではなくなっている。

●帝国主義でなくても弱い者いじめはできる

しかし、中国が帝国主義であるか否かは決定的ではない。というのも資本主義の国家の規模が大きければ、それが帝国主義でなくても、ラテンアメリカのブラジルやアフリカ大陸の南アフリカ、南アジアのインドなど、「サブ帝国主義」「覇権主義」として弱小国を抑圧することは可能である。中国は超大国であり、歴史的にも長い期間、帝国として君臨してきた。そして今日では資本主義、しかも強い略奪性を持った国家資本主義となった。もしこのまますすめば、帝国主義とならずとも、覇権主義に進むことになるだろう。

中国の台頭や「一帯一路」という大きなテーマについては、百家争鳴が必要である。しかし残念なことに、北京は「鶴の一声」があまりに好きなようで、国内外の民衆の声を謙虚に聞こうとはしない。盧教授は北京に諫言することもなく、逆に「一帯一路とBRICSピープル・フォーラム」といったレアな集まりに対して、発言者の一人であるパトリック・ボンドを「中国を貶めることで有名」だと根拠もなく批判しているが、そのような姿勢はいささか児戯と言わざるを得ない。というのも、この市民フォーラムでは、一方的な意見だけでなく、たとえばスリランカからの参加者は中国による投資に対して、批判もあれば評価する所もあると述べていたからである。盧教授、今後はこれに鑑みて、その筆に手加減を加えていただければと思う。

原注1:〈「新帝國主義中國」論,請慢用〉(bit.ly/2pGwW3p)
原注2:China's Overseas Expansion: An Introduction to its One Belt, One Road and BRICS Strategies
原注3:〈中國面對「新帝國主義」〉(bit.ly/2DRq0FK)
原注4:《毛澤東思想萬歲》(1969年),頁423
原注5:bit.ly/2ISNtdw
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