真夜中に羽田をたって早朝4時に香港国際空港に到着予定の便に搭乗。出発が一時間ほど遅れたこともあって5時過ぎに香港に到着。市内へ向かう始発のバスが6時だったのでちょうどよかった。

この日は午後から、中国と一帯一路の問題や労働者と環境問題などを扱う小規模な会議があるので、午前中はフリーに。昨年来日したベンさんと午前中に会う約束をしていたので、それまでのあいだ、時間を潰さないといけなかったのだが、主催団体のグローバリゼーションモニター(GM)のスタッフ、NANAさんが、早朝から事務所に出勤するので、そこでちょっと休んでいけば?ということで、お目当ての香港粥の朝食を一緒にとりがてら、事務所にお邪魔する。

香港は60年代から70年代にかけては労働集約型の工場が市内のあちこちに集中していた。ビルまるまる工場という工業ビルがあちこちにある。中国で改革開放がはじまってからこれらの工場は中国へ移転。GMの事務所も太子にある内装用品の問屋街が集まった工業ビルのなかにある。家賃が安いという。とはいえ地下鉄で2-3駅いけば香港の繁華街のチムサチュイだし、ちょっと歩けば旺角までもすぐの場所。
GMの事務所のソファーで一寝入りしてから、ベンさんとの待ち合わせ場所、金鐘(アドミラリティ)へ。ベンさんは立法議員の秘書をしながら、2019年の区議会選挙に立候補するために「社区前進」というコミュニティ政党を立ち上げて活動をしている。もちろん民主派だ。

(写真は今年の7月1日の香港返還20周年記念日に行われた民主派デモで)
金鐘は香港政府ビル、行政長官官邸、香港議会、人民解放軍駐屯司令部が集中する香港政治の中心だが、2014年秋にはそのメインストリートを2カ月余りにわたってオキュパイした雨傘運動の中心地のひとつでもあった。もちろん現在はまったくその面影もない。ジョン・レノンの壁と言われたメッセージをたくさん張り付けていたところも「張り紙禁止」の警告。


2014年11月に訪れた際の写真(こちら)と比べてみるとその違いがよくわかるだろう。
ベンさんは香港議会議員の秘書をしているということで、香港議会を見学させてもらうことに。いまは議会は開かれておらず、がらんとしており、改修などをしていた。

一階のホールは、記念撮影をとる場所(議員席や議長席)や学生の見学用セミナールームなどがあった。議長席にすわってみました。

手書きで自由に香港議会にメッセージを送ることのできるパネルもあったので、もちろんメッセージを書いて送ってみた。

本会議場はガラス張りでけっこう自由に傍聴はできるらしい。そのへんは日本よりは開かれているみたいだけど、そもそも植民地議会の延長なので、議員法案は提出できず、政府の法案や予算案を審議するだけの権限しかない。この日、本会議場は木製テーブルの補修が行われていた。

このかん民主派や独立派の議員資格をはく奪されているが、それも三権分立が確立していない行政主導の政治システムだという。まあ議員資格のはく奪は、行政が裁判所に提訴して、裁判所がその主張を認めた、というなんとも悪辣な三権分立の方式をとっているのだけど、三権のうしろには中国の国権がある、というのが香港市民の不満と不安。一階のホールには現職議員のリストが掲示されていたが、議員資格をはく奪された6人の箇所は空欄になっていた。

議会の通路には、香港議会の歴史の展示などがされており、「最終目標は全議席の普通選挙」とも。だが普通選挙の実現は最終ではなく最初のものでなければならないはずなのだが・・・。

議会の中庭からすぐ向かい側にある人民解放軍駐留総司令部を眺める。手前左は香港政府ビル、奥の右側にある白いビルが解放軍司令部。すぐ目と鼻の先だ。

ふと振り返ると民主派議員の部屋の窓には解放軍司令部に見えるように「平反六四 結束専政」(天安門事件を名誉回復し独裁政治をおわらせよう)のメッセージ。

雨傘運動の面影は全くないと書いたが、ひとりコツコツと道路に雨傘運動のメッセージを張り付けていた女性がいた。毎日来てるんですか?との質問に、このかん学生が捕まったりしているのでその支援に行ったりと忙しく毎日はこられないの、と。ご苦労様!

香港議会は香港島側にあり、対岸は九龍半島の繁華街チムサチュイ。議会と行政長官官邸のあいだには添馬公園がある。雨傘運動のまえに学生ストの突入集会が行われた場所だ。平日だったのであまり人影はなかったが、休日ともなれば海外からの出稼ぎ労働者らの憩いの場所になるという。

この公園の少し影になった場所がある。雨傘運動が盛り上がっていた時、7人の私服警察が一人の活動家に対してこの物陰で殴るけるのリンチをおこなった場所だ。たまたまメディアが望遠カメラでその様子を撮影していたことから発覚したのだが、その後、警官らは告訴されたが、いまだにその裁判は続いている。リンチを受けた活動家はペットボトルを投げたということで同じく公務執行妨害で裁判中だという。まったくひどい話だ。壁には「クソ警察死ね」などという落書きが後を絶たないという。

お昼は庶民の食べ物をリクエスト。旺角と太子のあいだの工場街にある「肥公車仔麺」という地元のラーメン屋でお昼を食べた。さすが地元の人気店。老若男女たくさんのひとが並んでいる。

ベンさんの彼女のキキさんもわざわざ遠くから来てくれた。日本語が堪能で日本のアイドルの嵐や女優が大好きだという。

お昼を食べた後は近所にある運動系の書店「序言書室」へ。旺角の裏の雑居ビルに入っている。この付近も雨傘運動のときには旺角オキュパイの一帯となっていたが、いまはその影もなく、車と観光客だけが目立つ。こちらも当時の様子(こちら)と比べてもらうと違いがよくわかるとおもう。

ひとつ裏通りにはいると序言書室が入っているビルがある。付近には書店や塾なども多い。序言書室のはそれほど広くはないが、ソファーなどがありよく運動系のイベントも行われている。


序言書室には香港にくると必ず立ち寄っているが、今回のお目当てはやっぱり雨傘運動関連の本。運動がおわって弾圧が厳しくなる中で、運動に批判的な世論が大きくなったと聞いていたが、書店にはいくつもの関連書籍が並ぶ。フォトブック『被時代選中的我們』など香港でも品薄な書籍を買うことができた。キキさんは少し前まで出版社で編集に携わっていたということで、彼女が編集した本も何冊かあった。文学や哲学関係の本だがこれも何かの縁。購入して勉強することにした。

さていよいよ本番の会議。書店からほど近い旺角から油麻地のネイザンロードに面した雑居ビルにある香港職工会聯盟(HKCTU)の会議室が会場だ。午後は「中国と一帯一路」についてHKCTU中国チームの活動家が提起。夜は「労働運動と環境運動」について台湾緑色公民行動聯盟の洪申翰さんの提起。洪申翰さんのは、一帯一路市民フォーラムの二日目の報告者の一人にもなっている。


じつはどちらも中国で労働運動にかかわる人たちが参加しているということで、録音や撮影は禁止。なかなか活発に議論がおこなわれたが、一帯一路については、中国政府は大々的に「一帯一路」を宣伝しているが庶民はあまり関係ないと思っているとか、「経済はさらに発展する」という政府の宣伝は誰も信じていないことなどが報告されたりした。
環境問題では台湾のシンボル的企業である台湾プラスチックの台中(だったか?)の工場による石炭火力発電所による環境汚染にたいして、地域住民が操業停止を訴え、会社側の主張を代弁した台湾プラスチック労組と地域環境運動との対立を事例に、労働運動と環境運動との関係のあり方を提起する素晴らしい内容だった。
中国国内でも環境問題に敏感な住民らの不満が爆発することもあるが、そこに立場の良し悪しは別としても、労働組合運動の存在はみられない。
参加していた香港の清掃関連の労組の活動家からは、香港の郊外にある島での清掃労働者の解雇を巡って地域住民らとの協力で解雇撤回を勝ち取ったケースなどが紹介された。
この日は夜10時近くまで白熱した議論がおこなわれた。

つづく
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