
ブログでは紹介していませんでしたね。会員MLへの投稿ですが掲載しておきます。
出版社のサイトはこちらです。
http://www.akashi.co.jp/book/b282978.html
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[attac_ml:6976] Re:『ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義』(尾上修悟著、明石書店)
2017/9/5
こんにちは、いながきです。
こんな論評がfacebookで流れてきました。
Varoufakis’s questionable account of the origins of the Greek crisis and his surprising relations with the political class
http://www.cadtm.org/Varoufakis-s-questionable-account
ギリシャ・シリザ政権でまだ「トロイカOXI!」の勢いが政権内外でも強かった時期に、異色の財務大臣(でしたっけ?)として注目されたバロファキスさんは、シリザのチプラス首相がトロイカの要求に屈服(というかそもそも屈服してたか?)したのちに、つよく反対を唱えていたバロファキスが解任され、よりトロイカ路線に柔軟な財務大臣に代わったことをよく覚えています。
しかしこのCADTMの論評は、バロファキスが書いた当時の回想録について、疑問を呈しています。
興味ある内容ですが、自動翻訳や辞書などで調べながらゆっくり読んでる時間がないので、紹介のみ。希望の星に見えた?バロファキスさんもじつはどうだったのか、というところが気になります。
既報の『ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義 緊縮政策がもたらすEUの亀裂』もまだ最初だけしか読めていませんが、ぜひみなさんと共有したい内容です。
この本、表紙がなんと極左組織の連合政治団体、Antarsyaの諸君が、ユーロ国旗を燃やして気勢を上げている写真がつかわれています。
本の内容を読んでないとたんに「ユーロからの離脱を要求して、ユーロ旗を燃やして喜んでいるアホで無知なギリシャ人」ととらえられかねませんが、内容を読めば、むしろそれはギリシャ人の正当な要求であることがわかるかと思います。
本書は、トロイカに対してはかなり批判的で、またギリシャの人々(とくに若者の)の怒りついてはかなり同情的だという印象がありますが、シリザに対してはどうか(とくに屈服後のシリザにたいしてはどうか)は、まだ未読なので何とも言えませんが。ちなみに索引ではAntarsyaは2か所ほどしかでておらず、ほとんど紹介されていませんが。
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> こんにちは、いながきです。
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> 昨日の「Re:7/24運営委員会の報告」メールで、
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> > ◎『ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義 緊縮政策がもたらすEUの亀裂』
> > 尾上修悟著、2800円(税別)明石書店
> >
> > http://www.akashi.co.jp/book/b282978.html
> >
> > こちらも今年4月に出たばかり。リンク先の目次を見てもらえば分かりますが、ギリシャ危機と債務、ギリシャ政治の問題をかなり詳しく書いています。ただざっと見た限り、債務監査委員会の話が出てこないような・・・。
> >
>
>
> と、すこしネガティブ的な紹介をしてしまいましたが、本書の最後の「おわりに」を読んで、びっくりしました。著者の尾上さんのスタンス、たいへんすばらしい。
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> ギリシャ危機の際には、やれギリシャ民衆を怠け者だとか、国民投票で「ノー」が勝利したときには「ポピュリズムにながされている」とか、EUの意義をことさら持ち上げるだけの本や報道がありましたが、シリザ政権が債務返済に応じたとたん、手のひらを返したように、現実路線を評価する、という報道だけになりました。
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> しかし本書「おわりに」のスタンスは、ギリシャ民衆(とくに若者)の「ノー」にこそ希望がある、というものです。ほんとうにすばらしい内容です。まだ本文はざーっと眺めた程度ですが、atacフランスの経済学者のD・プリオンさんの「ユーロ離脱反対論」も正しいものとして正当に紹介しています。
>
> 昨日の海老原さんの話とも通じるような内容です。
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> ユーロ離脱の経済的分析はおそらくプリオンさんの分析が正しいのでしょうか、政治的効果(決意)の要素を考えると、離脱論を単純に退けることはできないかと思いますが、それも含めてこの本でちょっと勉強してみます。
>
> 以下、「おわりに」の箇所です。ぜひ読んでください。あと目次も張り付けておきます。
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>
> ◎『ギリシャ危機と揺らぐ欧州民主主義 緊縮政策がもたらすEUの亀裂』
> 尾上修悟著、2800円(税別)、明石書店
>
> http://www.akashi.co.jp/book/b282978.html
>
>
>
> 四 おわりに
>
> 悲劇のどん底にあるギリシャにおいても、一筋の光が差していることを我々はまず認める必要がある。それは、ギリシャにおける若者世代の新たな運動として現れている。欧州の政治学者や社会学者は、かれらを「ノー・ジェネレーション」と名づける。というのも先にみたように、かれらの圧倒的割合がギリシャのレファレンダムで「ノー」に投票し、反緊縮のために怒りと抗議の意志を表したからである。実際にアテネに集まった若者は、ギリシャと欧州のエリートに対して激しく対決する姿勢を露わにした。それはまた、欧州が若者に課した致死に至るワナへの反逆であり、継続する覚書の拒否を意味した。
>
> しかも留意すべきことは、そうした虐げられた若者達が、極右派ではなくむしろ急進左派(シリザ)の支持に回ったという点である。そこには、極右派(とくに黄金の夜明け)による若者の反ファシスト運動に対する度重なる暴力行為(殺人を含めた)への反発がもちろん見られた。しかし、そればかりではない。かれらは、欧州人としての連帯的な集団意識を強く持っている。それゆえ、反欧州をスローガンとする極右派の支持は考えられなかった。これらの観点から、若者の大量の「ノー」票が正当に評価されねばならない。この「ノー」の動きは、パリ大学政治学教授のV・ゲオルギアドゥが指摘するように、ギリシャの若者のラディカル化のプロセスとして理解されねばならない。同時にかれらが、反緊縮という欧州内改革を唱えたことも重視されねばならない。こうした動きは必ずや、今後のギリシャ社会を新たな民主主義的ヴェクトルに向かわせる契機になる。それは他方で、エリート対一般大衆という欧州のアンヴィヴァレンスを解消する動力にもなる。そしてこのことは、様々な社会運動を展開する中で発揮される。
>
> ギリシャの歴史を振り返ってみると、それは弾圧とそれに対する抵抗の歴史であった。今日の若者を中心とする大衆の叛乱も、ギリシャひいては欧州の民主主義を復権するための抵抗運動としてとらえることができる。かれらは勇気をもって民衆の運動を盛んに進めたのである。
>
> パリ第八大学で行われた国際シンポジウムの参加者の一人であるC・ドゥジナスは、現代を抵抗の時代とみなす。この点は今日、ギリシャの人々によって鮮明に表されている。そこでは、人々の抵抗による願いが、緊縮という触媒を通して膨らんだのである。唯一、新自由主義的な緊縮と闘う市民・社会運動が、ギリシャの失業者、貧困者、並びに移民を守ることができる。そうだとすれば、欧州の将来は、この抵抗するギリシャの経験からいかにレッスンを受けるかにかかっている。こう言っても過言ではない。そもそも欧州建設の運動がナチスに対する汎欧州的レジスタンスから出発していた点を思い起こせば、そうしたギリシャの反緊縮に基づく抵抗運動がオールタナティヴな欧州をつくり出す機会を与えるのではないか。筆者はそう願ってやまない。
>
>
> 目次
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> 序章 ギリシャ危機で問われているもの
> 一 問題の所在と分析の視点
> 二 本書の目的と構成
>
> 第一部 緊縮政策が経済・社会・政治に与えた影響
>
> 第一章 ギリシャの経済システムの破綻
> 一 はじめに
> 二 景気後退の進行
> (一)金融支援後のマクロ経済の後退
> (二)緊縮政策とリセッション
> 三 財政危機の存続
> (一)財政赤字の構造
> (二)財政緊縮と債務の持続可能性
> 四 「対内切下げ」戦略の失敗
> (一)「対内切下げ」戦略の基本的問題
> (二)「対内切下げ」戦略の実施
> (三)「対内切下げ」戦略の誤り
> 五 対外不均衡の拡大
> (一)経常収支の不均衡の存続
> (二)基礎的な対外不均衡の拡大
> 六 おわりに
>
> 第二章 ギリシャの社会的保護体制の崩壊
> 一 はじめに
> 二 労働市場改革と失業の増大
> (一)「覚書」と労働市場改革
> (二)失業者の増大
> 三 社会的排除と貧困化
> (一)貧困問題の悪化
> (二)緊縮政策と貧困化
> 四 医療システムの亙解
> (一)新自由主義と医療
> (二)緊縮政策と医療
> 五 社会福祉の悪化
> (一)社会的支出の低下
> (二)社会保障の改革
> 六 労働・社会運動の展開
> (一)労働組合運動の弱体化
> (二)社会運動の展開
> 七 おわりに
>
> 第三章 ギリシャの政治的混乱の進行
> 一 はじめに
> 二 緊縮プロジェクトと政変
> 三 極右派政党「黄金の夜明け」の登場
> (一)緊縮政策と極右派政党
> (二)黄金の夜明けの発展とギリシャ政府
> 四 急進左派政党シリザの躍進
> (一)シリザの選挙での勝利
> (二)左翼政治運動の歴史とシリザ
> (三)ツィプラスのプロフィール
> (四)シリザの基本方針
> 五 おわりに
>
> 第二部 新たな金融支援と超緊縮政策
>
> 第四章 ギリシャの債務危機とツィプラス政権の成立
> 一 はじめに
> 二 サマラス政権に対する不信感
> 三 シリザの基本戦略
> 四 シリザの変革のターゲット
> (一)公的債務の削減
> (二)寡頭支配体制の打破
> 五 ツィプラス政権成立の意義
> (一)シリザの勝利の意味
> (二)新政権の経済政策
> (三)連立政権の課題
> 六 ツィプラス政権の成立に対するユーロ圏の反応
> (一)ギリシャ離脱論の出現
> (二)債務削減案の批判
> (三)ユーロ圏諸国の反応
> 七 おわりに
>
> 第五章 ギリシャと債権団の金融支援交渉
> 一 はじめに
> 二 救済プログラムの延長
> (一)ツィプラス政権の基本的姿勢
> (二)トロイカの対応
> (三)救済延長の合意
> 三 金融支援交渉をめぐる諸問題
> (一)ツィプラス政権をめぐる諸問題
> (二)債権団=トロイカをめぐる諸問題
> (三)IMFとユーロ圏の対立
> (四)ディフォールトとGrexitをめぐる諸問題
> 四 金融支援交渉の決裂
> (一)ギリシャのディフォールト危機
> (二)債権団=トロイカの脅迫
> (三)IMFの対応
> (四)ツィプラス政権の抵抗
> 五 おわりに
>
> 第六章 ギリシャにおけるレファレンダムと第三次金融支援
> 一 はじめに
> 二 レファレンダムの決定
> (一)レファレンダムの告知
> (二)レファレンダム告知をめぐる諸問題
> 三 レファレンダムのキャンペーン
> (一)「ノー」のキャンペーンの展開
> (二)社会問題の悪化
> (三)ツィプラスの言動をめぐる諸問題
> 四 レファレンダムでの「ノー(反緊縮)」の勝利
> (一)レファレンダムの結果
> (二)「ノー」の勝利の意味
> 五 金融支援再交渉とギリシャの屈服
> (一)レファレンダム後の行方
> (二)ツィプラスの交渉準備
> (三)ツィプラスの降伏
> (四)シリザ内の反乱
> (五)ギリシャ屈服の意味
> 六 第三次金融支援と総選挙
> (一)第三次金融支援の決定
> (二)総選挙の決定とシリザの分裂
> (三)シリザの再勝利
> 七 第三次金融支援の課題と行方
> (一)債務削減問題
> (二)緊縮政策問題
> (三)難民・移民問題
> 八 おわりに
>
> 終章 欧州建設の課題と展望
> 一 はじめに
> 二 ギリシャ危機と欧州建設の課題
> (一)緊縮と社会問題
> (二)支配体制問題
> (三)制度設計問題
> 三 ギリシャ危機と欧州建設の展望
> (一)「マクロン・ガブリエル共同声明」の意義
> (二)「もう一つの通貨」論と財政統合論
> (三)欧州の再連帯に向けて
> 四 おわりに
>
> あとがき
>
> 参考文献
> 索引
>
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