自由貿易か保護貿易か公正な貿易か ~ WTO事務局長来日の記事

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昨日(2017年5月23日)の日経朝刊に、訪日したロベルト・アゼベドWTO事務局長のインタビュー記事と、フィナンシャルタイムスの社説「NAFTA トランプ氏の誤解 雇用に悪影響といえず」の要約記事が掲載されていました。

アゼベドWTO事務局長のインタビュー記事ではこう述べています。

「米トランプ政権発足や英国のEU離脱決定を機に世界で台頭する保護主義をけん制した。……先進国で雇用が失われた主因として自由貿易が挙げられることが増えている点に『事実は違う』と反論した。雇用減の8割は技術革新や生産性向上が原因だとしたうえで、『雇用減を貿易のせいにする誘惑に負ければ(結果的に)経済を悪化させたり雇用を奪ったりすることになる』と警鐘を鳴らした。」

技術革新や生産性向上によって雇用(総労働日)が減ったにもかかわらず、必要以上の剰余価値(搾取)労働を含むGDPを今後も増大させることは、エコ社会主義的には大いに問題です。日本政府も「600兆円を目指す」とか吹いていますが、気候変動対策のバッドランナーの面目躍如です。

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FT紙の社説では、NAFTAがアメリカの雇用を奪った、というトランプの主張を「不当だ」としてこう述べています。

「当初からNAFTAの恩恵は誇張され過ぎていた。たとえば、同協定でメキシコからの移民が減るという考えは誤りだった。米国産トウモロコシがメキシコに流れ込み、多くの小規模農家が廃業し、新たな職を求めて国境を越えるのを促した。」

「NAFTAは実際には米雇用を守ってきたかもしれない。米国とカナダではより高い技術が必要な分野に、メキシコでは組み立てなど人件費の安い分野に特化するサプライチェーンを企業は築いてきた。」

TPPでも同じように恩恵が誇張され過ぎてましたよね。「勝てる農業」とか、ほんどアホです。「勝てる」人がいれば「負ける」人もいるのです。農民同士でどうして競争しないといけないんですか。この考えは、上記の記事でもちあげる「サプライチェーン」に対しても言えることです。

サプライチェーンという国境を越えた資本の鎖(チェーン)が各国の労働者を縛り続けていますが、失うものはその鎖のみ、というだけでなく、その鎖をつかって逆に資本を縛り付ける共謀を世界規模で考える必要があるのではないか、と思います。

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日経の記事はこうも述べています。

「アゼベド氏は米通商政策への言及は避けたほか、『公正な貿易』をもとめる米の主張に一定の理解さえ示した。米政権を刺激しても自由貿易の追い風にはならないとみているためであろう」

WTOはじめて「新興国」出身の事務局長ということで、一定程度、途上国やNGOが主張する「公正な貿易」のことを知っているのかもしれませんが、トランプの言う「公正な貿易」や、自由貿易や保護貿易も、それは私たちではなく資本家にとってどうなのか、ということです。

つまり、資本家の自由のための自由貿易、資本家を保護するための保護貿易、そして資本家のあいだでの公正な貿易を目的としているのだと思います。もちろんだからどれもダメだ、ということではなく、そのなかで生産者の自由な連合という協同社会につながるような施策を実行させ、それに逆行するものには反対するということだとおもいます。

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外務省のホームページでは、「アゼベド世界貿易機関事務局長による安倍総理大臣表敬」の写真報告が掲載されており(こちら)、日本政府とWTOとの共同声明「自由貿易の推進のため3つの礎」もダウンロードできます。

共同声明のなかで「自由貿易の推進のため3つの礎」としてあげられている、「成長の原動力としての自由貿易」「包摂的な経済の実現」「多角的貿易体制の更なる強化」は従来通りの主張ですが、日本政府としての具体的な今後の取り組みを次のように述べています。

「世界で保護主義や内向き志の台頭が懸念される中、WTO貿易円滑化協定(TFA)や情報技術協定(TFA)や情報技術協定(ITA)といった最近の成功に続き……日EU・EPAの早期妥結、包括的でバランスのとれた質の高いRCEPの早期妥結やTPP早期発効並びに環境物品協定(EGA)及びサービスの貿易に関する新たな協定(TiSA)の早期妥結の重要性を強調した。」

日本でも自由貿易の推進に抵抗するための3つ、4つ、そしてもっとたくさんの礎をつくらないといけませんね。ふんばりどころです。

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貿易円滑化協定や情報技術協定の締結など、まったくの関心外でしたが、アゼベド事務局長は5月14~15日に中国で行われた「一帯一路」国際会合にも参加して、今後の世界のインフラ需要にとって中国政府主導の一帯一路は非常に重要だと持ち上げていたな、と思いながら、中国商務部のWTO担当部(中国商務部世界貿易組織司)のウェブサイトをみるとトップページに最新の情報として情報技術協定などの関連情報がでていました

1986年のウルグアイラウンドからガット復帰交渉に参加した中国は、95年のWTO結成をへて2001年にWTOに正式に加盟しましたが、そのかんもずっと保護貿易から自由貿易への転換を進めており、あるいみ「自由貿易の優等生」だったのではないか、と思います。

先日の「一帯一路」国際会合で中国政府は、自由貿易推進の旗幟を鮮明にすることをあらためて強調していました。この「一帯一路」という国策に迎合するかのように「マルクスは一帯一路やAIIBを早くから構想していた」などと理論化する研究者もいるようですが、地獄のマルクスが聞いたら上からも下からもぷっと噴き出すに違いない。

◎160年前、マルクスは「一帯一路」と「AIIB」を構想していた(中国語)
http://history.m4.cn/2016-03/1305025.shtml
◎マルクス=エンゲルスの国際交易理論と「一帯一路」(中国語)
http://www.faobserver.com/NewsInfo.aspx?id=12020

まあこの辺が「中国の特色ある資本主義」の特色なんでしょうが、どちらの論文も「墓堀人」に言及し忘れています…。


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