
○スノー米財務長官が辞任 金融市場から起用 後任はポールソン氏(東京新聞5月31日朝刊)
途上国債務とグローバリゼーションのカラクリをわかり易く説明した好著、『世界の貧困をなくすための50の質問』のなかに、「実は米国財務長官が(IMF)理事会のボスなのです」(74頁)とあったので、ちょっと気になって少し調べてみました。
スノー財務長官の後任として指名を受けたヘンリー・ポールソン氏は99年からゴールドマン・サックスの会長兼最高経営責任者。このポールソン氏は、日本郵政株式会社の社長の西川善文氏がまだ三井住友銀行の頭取だった2002年12月、西川氏とともに竹中平蔵金融担当相を表敬訪問しています。このころは、2002年秋に金融担当相に就任した竹中氏が不良債権処理を加速させる「金融再生プログラム」を策定して、05年三月末までに不良債権比率の半減をもとめていた時期でした。ですから大手銀行と竹中氏の関係は決して友好的な関係ではなかった時期なのですが、西川氏とは特別な関係であったのでしょう。
三井住友の前身である住友銀行は86年にゴールドマン・サックスに対して五億ドル(約700億円)の出資を行いました。証券業務のノウハウを吸収することがその目的でした。銀行と証券の分離という規制のなかったヨーロッパで共同ビジネスなどがすすめられました。住友銀行は86年の提携の際に取得したゴールドマン・サックス社の株式を、さくら銀行と合併し三井住友銀行となった後の02年1月にすべて売却して3000億円の売却益をあげます。
ゴールドマン・サックス社も03年に資本増強のために三井住友が発行した優先株(5000億円規模)のうち1500億円を引き受けています。ゴールドマンにとっては、年利4.5%で二年目から普通株に転換できるという「おいしい」案件でした。
三井住友とゴールドマン・サックスはお互いに持ちつ持たれつの「共同体」でした。西川氏は「ポールソンCEOとは何でも話し合える」と語っていますし、ポールソン氏も2004年9月に来日した際に西川氏を「世界最高のバンカーの一人」として絶賛しています。
今年1月20日、西川氏は来年2007年10月の郵政民営化の準備企画会社である日本郵政株式会社の初代社長に就任しました。西川人事を進めたのが竹中大臣であったことは有名です。米国財務長官となるポールソン氏、彼とは「何でも話し合える」西川氏、その西川氏を日本郵政株式会社の初代社長に推薦した竹中大臣のトライアングルは、金融のいっそうの規制緩和を懸念させるものです。西川氏の経営手法に対する疑問は、郵政民営化を懸念する市民グループからもあがっています。
○リスキー(危険)な新社長 危ない郵貯銀行(Ubin Watch news No.272006/5/16)
最初に紹介した東京新聞の記事の中でポールソン氏が「クリントン政権時代に名財務長官と評価が高いルービン元財務長官の出身母体であるゴールドマン・サックスのCEOとして金融市場での豊富な経験をもつ」と紹介されていたことから、竹中氏、西川氏、ポールソン氏の親密さが杞憂であるとは思えないのです。
ポールソン氏の「先輩」にあたるルービン氏は、クリントン政権で95年1月から99年7月まで財務長官をつとめ、金融や証券の規制緩和をすすめました。80年代からこの時期にかけてアメリカの金融・証券市場が破綻していく経過を書いた『なぜ資本主義は暴走するのか 株主価値の恐るべき罠』(日経新聞社2005年8月発行)の中では次のように書かれています。「ルービンは、発展途上国に資本の自由な流れを阻害しないよう一貫して強く求め、そうした国々の経済が悪化したときには救済措置をとるよう同じく一貫して要請した。ルービンには見方がいた。FRBの保守的な議長、アラン・グリーンスパンである。」(同書43頁)
ルービン氏とグリーンスパン氏のコンビは金融面でさまざまな規制緩和を進めました。その中でも有名なのが、99年のグラス・スティーガル法の廃止です。同法によって、ゴールドマン・サックス社のような投資銀行は、普通の銀行のような預金の受け入れや化し付けなどの預貸業務を禁止されていましたが、同法の廃止によって、いっそうの業務拡大が可能になりました。そしてルービン氏は財務長官の退任後、同法の廃止によって世界最大級の金融グループとなったシティグループの経営執行委員会会長に就任しています。
まるでどこかの国の金融担当大臣の将来をみているような気がします。
同書では、またこの時期のアメリカ経済当局者の政策を次のように紹介しています。
「国内市場へのうぬぼれをいちだんと強めたアメリカの当局者は、発展途上国にしつこく圧力をかけ、資本の自由な流れに門戸を開かせようとした。・・・・・・アメリカ政府はアルゼンチンの小麦畑やタイの水田を目にして、『あなた方に本当に必要なのは、小麦の先物取引やコメの先物市場です』と言い放ったのである。要するに、アメリカ政府は途上国の経済を海外の金融取引所と同じようなものにしたかったのだ――証券市場がいかに流動的で不安定だとしても。・・・・・・クリントン政権の多くの高官たちが、ジョージ・ソロスのような人びとが大金を投入して地域市場をぶち壊すのではないかと懸念していた。だが、優勢になったのはルービン流のアプローチだった。それはまた国際通貨基金(IMF)や、当然ながらアメリカの銀行のアプローチでもあった。」(同書136頁)」
資本の自由な流れの門戸を開かれた東アジアやラテンアメリカでその後何が起こったのか、改めて言うまでもないでしょう。
ライブドアや村上ファンドによる「錬金術」を可能にしたのは、このような世界的な金融の規制緩和でした。しかし彼らの「マネー」はどこから来たものなのでしょうか。外資ファンドの暗躍が見え隠れするといわれていますが、その国の経済慣行を大きくゆがめる投機マネーのおおくが実はその国の金融機関や富裕層からのものであることも事実です。浮遊する投機マネーに課税を。途上国債務の帳消しを。そしてもうひとつの世界を。
参考
『世界の貧困をなくすための50の質問 途上国債務と私たち』(D・ミレー/E・トゥーサン 著/大倉純子 訳/柘植書房新社)
『銀行にだまされるな! 三大メガバンクの内幕』(須田慎一郎 著/新潮社)
『なぜ資本主義は暴走するのか 「株主価値」の恐るべき罠』(ロジャー・ローウェンスタイン著/鬼澤忍 訳/日本経済新聞社)
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