
先日、新宿2丁目のカフェ・ラバンデリアでおこなわれた「偽赤旗まつり」で、播州スラッジフォークの雄、カニコーセンによる「人間になれた」という歌を聞いた。銀行ローンを痛烈に皮肉った秀作で毎日聞いてる。(偽赤旗まつりの様子はラバンデリアFBで観られます)
おりしも、設立から50年を迎えるアジア開発銀行(ADB)に対して、国際的な批判が高まっている。
・アジア民衆の訴え:アジア開発銀行(ADB)の免責に異議あり
ADBをはじめとする国際開発金融機関の免責の廃止を求める主張は、たとえば『世界銀行 その隠されたアジェンダ』(エリック・トゥーサン著、大倉純子訳、つげ書房新社、2013)の「23章 世界銀行の無罪放免に終止符を打つとき」などでも詳細に検討されている(世銀の場合は国連機関ということなので、厳密には違うかもしれないが)。
また、2015年6月にギリシャ国会に設置された「公的債務の真実委員会」の予備レポートでも、危機以降に「支援」と称してトロイカからギリシャに貸し付けられた融資契約においても「免責」特権が問題になっていたことを告発している。
「2010年以来、ギリシャとその公的債権者間の融資契約は、英国法に依拠してきた。2012年のPSI(民間セクター関与)の条件の下で、民間債権者が受け取った新規国債の準拠法もそうである。この(交渉において格段に大きな力を持つ)債権者による準拠法選択には、ギリシャ憲法とギリシャが国際的に果たすべき人権擁護義務を避けて通ろうという彼らの意図が透けて見える。」
「融資の大部分が多政府間の組織によって行われることから、これらの組織[トロイカ]は国際条約上の人権擁護義務を有せず、広範な免責特権を享受することでも知られていた。契約のいくつかの条項は明らかに過酷で虐待的であり、ギリシャが実質上、主権の多くの部分を放棄させられていたことを示している。」
「ここでは明らかに、ヨーロッパ人権条約の根本規定への違反が見られる。……国家は自らの憲法に違反し、また国家の三権に制限をかける契約や条項に従う義務はない。これは実質的に国家主権の終焉を意味するからだ。」
(以上、ギリシャ公的債務の真実委員会予備レポートより)
人権や環境を無視する契約に正統性はなく、返済の義務はない、ということだ。この国際法などで定められている人道に反する契約は無効だ、という債務帳消し運動の訴えの背景にあるのは、人権天賦の思想だろうか。人権をないがしろにする契約によって人間らしさを奪われているので、そのような契約は無効だ、というこれまでの歴史のなかで実際につかわれてきた概念を、国際開発金融機関との契約においても適用するということ。
日本的に分かりやすくいえば、日本ではサラ金ローンのグレーゾーン金利(過払い金)は払わなくてもいい、というケースを拡大した考えか。借金から解放されてやっと人間らしい生活が送れるようになったという人も多いだろう。
毎年この季節にラバンデリアでおこなわれる「偽赤旗まつり」。今回のメインは、播州スラッジフォークの雄、カニコーセン。兵庫県加古川のスラッジシーンを席巻する知る人ぞ知るフォークシンガー。
エロでグロで皮肉の聞いた自虐の歌詞を既存フォークのアレンジに乗せて歌うが、この「人間になれた」は、The虎舞龍の「ロード」の一部を曲中に組み込んだシュールな秀作。エロやグロのないことも好印象。
もちろん、借金がなくなって人間になれた、とストレートにうたっているのではない。逆だ。海も河も、この世のすべては銀行のものであり、その銀行に住宅ローンが認められて、借金だらけになって、やっと人間になれた、と歌うのだ。
2014年11月に制作されたアルバム「抜髪」に収録されている。ウェブなどでは探せなかったので、ぜひ購入して聞いてほしい。
以下、歌詞を掲載する
【抜髪】1時間20分29曲入CDR(¥ 500)の案内と購入はこちらから
http://kanikoosen.thebase.in/items/1361751
人間になれた
(カニコーセン アルバム「抜髪」より)
あの山も あの河も 銀行のもの
あの橋も あの信号も 銀行のもの
眼下に広がるこの町すべてと
せわしく行き交う我らのくらし
あまねく及ぼす世界のすべては
銀行のもの
遠い国から落ちて来る
あの思い出も この思い出も
あなたの優しいささやき声も
銀行のもの
今日 住宅ローンが組めた
銀行に認められた
めでたく多額の負債を抱えて
人間になれた
ちょうど一年前に この道を通った夜
売り屋の看板揺れていた
今 はっきりと思い出す
何でもないような額やと
なめてかかってた思う
とんでもない利子のこと
二度とは戻れない夜
今日 住宅ローンが組めた
銀行に認められた
めでたく多額の負債を抱えて
人間になれた
あの山も あの河も 銀行のもの
あの橋も あの信号も 銀行のもの
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