【香港】 民主化運動はどこへ行く?(林兆彬)

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一昨年の6・4天安門事件26周年追悼集会で発言する林兆彬さん

【香港】 民主化運動はどこへ行く?

林兆彬


香港紙「明報」2017年4月21日 掲載

原文(中国語)はこちら
https://news.mingpao.com/pns/dailynews/web_tc/article/20170421/s00012/1492712100033

(訳注は[ ]および文末。文末に林兆彬氏のトークインベントの案内)


現時点での香港の民主化運動はすでに低潮の時期に入っており、これまでにない困難な局面であることは否定できない。最近起こった二つの事件は、「穏健民主派」と「武闘本土派」の二つの路線の限界を反映しており、われわれの再考にとっても有意義だろう。

ひとつ目の事件は、北京の「欽定」を獲得した林鄭月娥は民衆からの低い支持率というイメージで行政長官に当選し、就任する前から支持率は2ポイントも下落しており[訳注1]、これは民衆の不満の高まりを示し、抵抗を示す絶好のチャンスだともいえるにもかかわらず、選挙がおわってすでに一か月が経過しようとしているが、[次点で落選した]曽俊華の支持者、民主派、「本土派」そして市民社会全体が、いまにいたるもこの情勢に対する抵抗的見解を何ら示すことができないでいることである。逆にある汎民主派[既成民主派]は「武装解除して投降する」として、「和解論」さえ提起した。

ふたつ目の事件は、「本土派」の指導的人物であった黄毓民は、政治の世界から引退することを発表するとともに、青年は冷静沈着になり、見境のない挙動を控え、無用な犠牲を払うべきではないと呼びかけたことである。

武闘派の主張の破産と穏健派による反撃の敗北

過去30年あまり、汎民主派は「対話と批判」式のやり方で民主と民生を実現してきた。選挙を通じて非民主的な議会に入り、制度圏内で声を上げてきた。また制度圏外では、デモや集会などの大衆運動を通じて、世論の圧力をつくって、政府からの回答を引き出そうとしてきた。しかし、政府がますます厚顔無恥になり、民意を浮雲のようにしか考えなくなるに従い、伝統的な運動の方法の効果は薄れ始めた。

およそ10年前から、街頭運動と議会闘争における急進化は勢いを増した。黄毓民をはじめとする社民連は2008年に立法会で3議席を獲得し[訳注2]、さらにその後に起こった反高速鉄道運動と五区住民投票運動は[訳注3]、政治運動の急進化の趨勢を示していた。近年ではさらに「本土派」の台頭があり、急進路線と穏健路線は運動を二分してきた。

これまでの10年のなかで、急進派は質と量の両方についてその行動をグレードアップさせてきた。同時期、伝統的な汎民主派も急進化にむかった。合法的なデモと集会の人数が拡大し続けただけでなく、2014年には79日間にわたるオキュパイ運動(市民的不服従)、2016年には「本土派」イチオシの旺角騒乱(暴動的なもの[訳注4])が発生した。これはどちらも社会運動の質的変化であるが、しかし両者ともに最終的には敗北をもって終了した。

昨年、青年新政の二名の立法議員が議員資格をはく奪されたが、不思議なことに「本土派」は大規模な抗議行動を発動しなかったが、これは「武闘本土派」の退潮の予兆であった。最近になって暴動に参加した人間に判決がでたが、「本土派」の支援は勢いを欠いていた。また黄毓民が最近になって政界から引退することを表明し、若者に自制を呼びかけた。これらの事件はいずれも「無制限の抵抗」というかれらの主張がすでに袋小路に陥ったことを反映している。つまりこの種の抵抗による代償は極めて高く、ほとんどの香港人にとっては受け入れがたく、持続した運動を形成することは難しいからだ。

「武闘派」がその市場を失ったときに、「穏健民主派」勢力は中間派と「穏健体制派」勢力と連合して最後の反撃を試みた―――行政長官選挙において曽俊華を支持したのである。だが残念なことに、曽俊華に対する世論の支持は極めて高く、彼のfacebookは29万の「いいね」を獲得し、クラウドファンディングでは2万6千人もの支持者からの寒波が集まり、数千人が支持集会に参加したにも関わらず、北京がその決定を覆すまでの「感動」を与えることはできず、「大王擁立論」は失敗に終わった[訳注5]。

曽俊華を支持した広範な民意はまるで泡のように、選挙が終わった瞬間にはじけてしまい、なんら政治運動を形成することもできず、曽俊華を支持した民主派のなかには転向する者もおり、「とりあえず信じてみる」という角度から[当選した]林鄭月娥を観察するという理由からだった。詳しく見てみると結局は曽俊華支持者とは、穏健民主派、ひいては比較的開明的な体制派のことであり、かれらの「抵抗せず」という本質が今日の状況を決めたのである。

穏健派と「武闘本土派」の路線がどちらも失敗した現時点は、香港民主化運動にとって最も困難な時期であることには疑いない。なぜなら香港人は、はっきりとした目標と方向性を持ちえていないからである。結局のところ民主化運動は何処へ向かうべきなのであろうか?

雨傘運動が敗北した理由は、非暴力であったことにあるのではなく、民主派が中国政府の強硬姿勢を突き動かすことができなかったことにある。イギリスやアメリカなどの大国すべてが「漸進民主化路線」を支持する時代状況において、民主化を実現することは言うほどに容易ではない。それゆえ、政権を変革する以前に、その努力の大部分を人々の認識の変革に注いでもよいのではないだろうか。

民主化実現は持久戦

適切な抵抗のチャンスが出現するまでの間、次の民主化運動を準備するために、民主派は組織活動を積極的にすすめるべきだろう。それぞれのコミュニティ(地域および各業種)からはじめて、それを深く、そして丁寧に掘り起こし、民主主義の理念を継続して宣伝し、さらに強固な市民社会をつくる努力を続けよう。グ他的には、区議会、香港議会、選挙委員会などの選挙への積極的参加を通じて、民主派の基盤の拡大を図り、さらに多くのリソースを獲得し、いま以上の政治的影響力の拡大を図るべきだろう。

とくに区議会選挙[訳注6]が重要である。というのも区議会は、現時点における唯一民主主義原則に合致した選挙制度が実施されているからだ。もし民主派が区議会選挙で過半数の議席を獲得することができれば、現在の立法会でさらに一議席多く獲得することができるし、さらに多くの選挙委員を獲得することができるだろう。

民主主義の実現は持久戦であり、初心を忘れず、原則を堅持することによってのみ、成功する可能性があるというものだ。それゆえ「寸土必争」(わずかの土地でも譲らない=小さな争いにも全力でとりかかる)と「長期作戦」こそが、今後の民主化運動の大きな方向となるだろう。後先を顧みない武闘主義や過度な理想主義は、どちらも採用することはできない。

筆者はフリーライター

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[訳注1] 行政長官選挙の投票権は立法委員および区議などの民選議員および各種業界団体などから構成される1200人の選挙委員だけがもつ。林鄭月娥は777票で当選し7月1日就任予定。次点の曽俊華は365票。

[訳注2] 香港議会は立法会と呼ばれ定数70。現在、民主派は26議席を占める。

[訳注3] 2010年5月に、普通選挙実施を求めて、社民連など一部の民主派の立法議員が全5選挙区で議員辞職して再当選することで事実上の普通選挙の実現を問う住民投票に替えるというカンパニア運動。体制派が事実上のボイコットをしたこと等により、辞職した民主派議員5人は再当選した。

[訳注4] 旺角の露天商への取り締まりに反対する「本土派」市民が旧暦大晦日の2016年2月8日の夜から翌朝にかけて起こした実力行動。30余名の活動家が拘束された。

[訳注5] 中国政府の事実上の指名候補者(林鄭月娥)を王位継承の後継者指名に模して、香港市民社会でも指名することができるという選挙キャンペーン。

[訳注6] 18区議会の定数は458、うち民主派は124議席。立法会には区議互選の1議席の定数がある。選挙委員会にも100余りの定数をもつ。

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雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ~香港雨傘運動のいま
林兆彬さんトークイベント


2014年秋に香港の街頭を3カ月にわたって占拠した「雨傘運動」。あれから2年余りがたった今、みんなが求めた普通選挙の実施はいまだ道半ばどころか、ますます強権的な政府の対応が目に余る。民主化運動も四分五裂ぎみだ。そんな「土砂降り」状況でも、昨年9月の議会選挙では雨傘運動出身の若い民主自決派の議員が誕生し、今年3月の行政長官選挙では中国政府の意向だけが忖度される偽物選挙をボイコットしようと呼びかけたりもしている。雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズの香港雨傘運動はどうなっているのか。香港在住の若手フリーライターのベンさんが語る不夜城カフェを雨傘太郎と仲間たちが企画した。熱烈歓迎!

おはなし:林兆彬(ベン)さん  香港・フリーライター

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