
2.AIIBとADB
まず両行の比較をしてみましょう。
設立年
ADB 1966年
AIIB 2015年
総裁
ADB中尾武彦(日本財務相財務官)
AIIB金立群(中国財務省副長官)
資本金
ADB 1550億ドル
AIIB 1000億ドル
加盟国・地域
ADB 67
AIIB 57
次にAIIB
出資比率(上位3国)
ADB 日本15.67%、米国15.56%、中国6.47%
AIIB 中国29.78%、インド8.367%、ロシア6.536%
理事会構成
ADB 域内0名、域外4名
AIIB 域内9名、域外3名
融資対象
ADB アジア太平洋地域の貧困削減、インフラ整備
AIIB アジア地域のインフラ整備
融資承認額
ADB 260億ドル(2015年、承認ベース)
AIIB 17億3000万ドル(2016年、承認ベース)
調達
ADB 加盟国メンバー限定
AIIB 非加盟国メンバーの参加可
環境社会配慮
ADB 制定済み
AIIB 制定済み(2016年2月、こちら)
ADB(アジア開発銀行)の関係ですが、日本では中国主導のAIIBと日本主導のADBの対立関係をことさら煽り立てるような風潮がありますが、先ほどジュビリー九州の方からお話があったように、ADBの最大の融資先が中国であることを考えると、ちょっとおかしなことです。
昨年は中国がADBに加盟して30年です。この30年は改革開放の時期とほとんど重なっており、中国政府にとってもADBをはじめ国際開発金融機関とのパートナーシップは極めて重要でしょう。
また先ほども紹介したように、AIIBの初代総裁の金氏は、黒田東彦氏がADB総裁の時代に中国人として初めて副総裁に就任した人です。金氏のあとも続けて中国の財務官僚がADBの副総裁を出し続けています。
AIIBの主席財務官は、2016年6月までADBの副総裁(財務・リスク管理)を務めていたThierry de Longuemar氏です。
このようにADBとAIIBの上級管理職は密接なつながりがあります。国際開発金融はそれぞれの地域の実情に合わせた不均等的要素を持ちつつ、人的資源や経験など複合的発展を通じて、急速なグローバル化に対応していると言えます。
ADB総裁の中尾武彦氏も、AIIB創設前からも協力することを表明していましたし、2015年6月に創設に向けた調印が行われた際にも次のような声明をだしています。
AIIBの設立協定調印に関する ADB中尾武彦総裁の声明
ニュースリリース | 2015年6月29日
【マニラ、2015年6月29日】アジア開発銀行(ADB)は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設国、及び、多国間臨時事務局に対し、同行の創設に向けた重要な節目の日を迎えられたことに祝意を表します。ADBはアジアにおける長い経験と専門性を活用し、同地域が直面する膨大なインフラ需要に応えるべく、AIIBと緊密に連携し、協調融資を行っていくことにコミットしています。ADBは、今後も必要な情報を共有し、協調融資によってメリットが見込まれる個別プロジェクトを探求していきます。
また2016年5月2日にドイツのフランクフルトで行われたADB第49回総会の際に、ADBの中尾総裁とAIIBの金立群総裁は、協調融資の協力覚書を締結しています。
その一か月後にADBは、AIIBと協調融資でパキスタンの道路建設プロジェクトにそれぞれ1億ドルを融資することを決めています。このプロジェクトには英国の国際開発省(DFID)も3400万ドルのグラント(無償支援)を決めており、ADBが融資とグラント双方を監理することになっています。
AIIBは職員が100人弱ということもあり、融資案件のさまざまな業務をカヴァーしきれないことから、ADBスタッフが支援しています。ADBの中尾総裁は『国際開発ジャーナル』2016年9月号への寄稿のなかでこう述べています。「AIIB側が今年1月に発足したばかりで体制が整っておらず、プロジェクトの準備や実施は、ADBのスタッフが進めることになるため、そのコストを適切に分担するために、AIIBから一定のフィーを受け取る」。
11月にはADBとAIIBの二件目の協調融資案件として、バングラディッシュ天然化ガス生産・輸送プロジェクトへの協調融資がADBで承認されています。ADBが1億6700万ドル、AIIBが6000万ドル(その後1億6000万ドルに?報道によって異なる)、バングラディッシュ政府が2億2600万ドルを拠出します。
ADBなどの公的開発金融による民間との協調融資は「呼び水」「信用を付与する」と先ほどのジュビリー九州の方の話でもありましたが、AIIBとの協調融資においても同じことが言えるでしょう。
もちろん今後の「中国の台頭」や一帯一路政策によって、ADBとAIIBの協調・補完関係がどうなっていくのかを予測することは難しいですが、すくなくとも現状においては、あるいはAIIBが一定の経験や実績を蓄積するまでは、この関係がベースにあることは間違いないでしょう。とりわけ自由貿易やグローバル化の護民官としての「中国の台頭」が、中国共産党の党是であるあいだは、そう言えるでしょう。
(つづく)
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