
ベローさん企画がひと段落して、新聞を読む時間ができた。2月5日の東京新聞は一面トップで沖縄・辺野古の運動のルポ。大したもんだと思い、沖縄の知人にさっそく伝えた。
そしてページをつらつらめくると4面に安倍首相とドゥテルテ大統領の写真。ちょうど前日にベローさんのドゥテルテ批判の講演を聞いていたのでタイムリーだなと思い、記事のタイトルに目をやると「巨額のODA 日本の借金返済に回しては?」「支援の大半は貸し付け」。
記事のリードはこう始まっている。
「安倍晋三首相は外遊で途上国などを訪れた際、よく高額の経済支援を表明します。これについて東京都の70代の男性から『お金のばらまきに思える。日本の借金に少しは回せないのか』との質問が寄せられました。対外援助の仕組みについて整理しました。」
どうやら読者からの質問に答える「ニュース 読者発」という記事らしい。
70年も生きてきてそんなこともわからないのか、と言ってはいけない感想を率直に感じた。
もう少し冷静に問題を整理しよう。
第一に、仮に、ODA(政府開発援助)が途上国と呼ばれる地域の貧困のために使われているとして、仮に(しつこいが)そのように使われている金を、日本の借金返済に回すということは、銀行の儲けのために使えということを意味する。そんなこともわからないのだろうか。
第二に、ODAは「支援」でも「援助」でもない。記事は男性の質問に次のように答えている。
「民進党の野田佳彦幹事長は最近の国会論戦で、首相が就任以来表明した経済支援の総額は、官民合わせておよそ54兆円という数字を示し『どれほど国益にかなったのか』とただしました。首相は『ODA予算の範囲内で無理なく、最大限の外交的効果が得られるよう工夫している』と答弁。『支援の大部分を占める円借款は、期限が来れば返済される』とも説明しました。」
腐った質問には腐った答弁しか期待できない。しかし安倍の答弁のほとんどは正しいことを述べているにすぎない。
より正確に言うとすれば「期限が来れば利子をつけて返済される」である。
事実、記事ではつづけて、ODAには有償支援と無償支援があり、2017年度には有償支援1兆2720億円、無償支援1631億円と、約8倍近い資金が貸し付けであることを明らかにしている。
そしてこうも言っている。
「ただ、有償支援は焦げ付いて返済されない可能性もあります。13年度は2147億円の債権放棄が発生(14~15年度は発生せず)しました。」
だからどうした? それくらいは安倍政権による「外交効果が得られる」ための手数料にすぎないのだ。
(追記:2147億円の大半は対ミャンマーの1886億円の債権放棄であり、外交効果のための手数料。その他はコートジボワール205億円、ギニア55億円で拡大HPICイニチアチブというまやかしの債務帳消にすぎない→日本政府の公的債務免除一覧)
たとえば財務省のウェブサイトに公開されている「2014年(暦年)における日本の開発途上国に対する資金の流れ」をみてみると、ODAのなかの「政府貸付」つまり有償支援は、2014年は73億7300万ドルだが、その年の回収額は64億4100万ドル。つまりその年のODAに関する収支が9億3200万ドルのマイナスだという計算になるのだが、これは9億3200万ドルが焦げ付いた(回収できなかった)、ということではない。
有償支援の返済(償還)は一般的に15~40年であり、長年のあいだの日本政府の支援ビジネスへの投資は、当然ながら毎年のように利子がついて返済(償還)されてくる。2014年は、たんにその年のODAの有償支援にくらべて、長年の貸し付けによるその年の返済(償還)額が少なかっただけ、ということである。
その前年の2013年には、有償支援97億2100万ドルだが、回収額109億4500万ドルと、12億2400万ドルもの返済がなされている。つまりその年に貸し付けたカネよりも12億2400万ドルも多くカネが戻ってきたのである。
債務帳消し運動の世界では、「支援」した額よりも多くのカネが途上国から先進国へと流れていることが指摘されているが、低利とはいえ利子をつけて返済されるのだから。
もちろん問題はそれだけではない。腐った質問に対する腐った答弁のなかで述べられている「最大限の外交的効果」が、ODAの最大の目的である。
「支配のための巧妙な装置、植民地支配のための新たな手法として債務が使われてきた」とは、名著『世界の貧困をなくすための50の質問』(ダミアン・ミレー/エリック・トゥーサン著、大倉純子訳)の冒頭に語られる真実である。
記事には安倍首相が1月の外遊で表明した主な経済支援の表がついている。フィリピンには「民間投資を含め、今後5年間で1兆円規模の支援」とある。
この間の傾向から、おそらく「民間投資」の割合が多くを占めることになるだろうし、それはODA以上に利潤の獲得を目指したものになる。支援ではなくビジネスにすぎない。あるいは「支援ビジネス」とでも言えばいいだろうか。
フィリピンへのODAでは、西フィリピン海(南中国海)での中国との領土紛争を想定してフィリピン沿岸警備隊に対して巡視船が供与され始めている。
2013年のアキノ前政権のときには、10隻の巡視艇(40m級)の供与がきまり、昨年から2隻(ドゥバタハ、マラブリゴ)が供与されはじめている。(概要pdf)
そして昨年12月に来日したドゥテルテ大統領との間ではあらたに90m級の巡視船2隻の供与の取り決めを行っている。(概要pdf )
東京新聞の記事によると「2011年12月に武器輸出三原則が緩和され、安倍政権は14年4月に防衛装備移転三原則を決定、『武器』である巡視船の国際貢献目的での提供が可能となった。巡視船は、引き渡し時に機関砲などは装備されていない。しかし、防弾のために装甲を強化しているため『武器』として扱われる。」
巡視艇10隻の製造を受注しているのは、海保巡視艇の建造で実績のあるジャパンマリンユナイテッド(JMU)。フィリピン向けの巡視艇は横浜事業所磯子工場で建造している(JMUプレスリリース)。フィリピンへの「支援」というよりも日本企業への支援ということになるだろう。武器輸出解禁の最大の目的の一つはここにある。
この案件に関連しては有償支援だけでなく、フィリピン沿岸警備隊に対しては、技術協力として「フィリピン海上法執行実務能力強化プロジェクト」(2013~2016年)が実施されており、海上保安庁による訓練プログラムが実施されており、それに必要な機材は無償資金協力として「海上保安通信システム強化計画」が供与されており、必要5億5700万円の機材は豊田通商と日本無線が調達している。
有償支援だけでなく、技術協力も無償支援もこのようなものなのである。
これがODA「支援」の実態である。
東京新聞はこう答えるべきであった。
「支援の大半は国益ビジネス」
国益にとらわれた運動に展望がない所以である。
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