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中国全人代常委による香港基本法の解釈に対する民主自決派の回答

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11月8日の東京新聞と日経新聞の国際面で、「香港2議員 資格はく奪確実」(東京)、「「中国、香港独立志向を排除」(日経)いう記事が、かなり大きく掲載されました。

9月の立法会選挙で当選した本土派(独立派)の議員2人の就任宣誓を巡って、中国政府(全人代常務委員会)は、2人の議員資格を即時はく奪すべきだという立場を公式に示したことを報じたものです。

東京新聞の記事で民主自決派と排外主義独立派を一緒くたにして「反中派」としていること以外は、かなり正確な記事だと思います。日経新聞は、民主自決派の議員、朱凱廸さんのコメントを掲載しています。

中国政府は、香港基本法では言及されていないことについての解釈権は中国全人代常務委員会にあるという立場。それに対して一国二制度を重視する民主派は、香港の自治権の侵害だとして、中国全人代による基本法解釈を問題視しています。

1997年の香港返還からこれまでに、全人代は五回の基本法解釈を行っており、香港の最高裁(最終法院)はそれに従った判決をだしています。

1999年6月(香港籍の親をもつ中国国内の子どもの香港永住権について)、
2004年4月(香港行政長官と立法議員の選出について)
2005年4月(任期中に辞任した行政長官に代わりについて)
2011年8月(ハゲタカファンドが抵当権実行を求めたコンゴ債務について)
2016年11月(議員宣誓について)

Attac的には2011年8月のケースがおもしろいかな?こんなケースです。→コンゴ民主共和国に投資していた中国鉄道公司の債権を巡り、ハゲタカファンドのFG Hemisphere Associatesとコンゴ民主共和国が香港の最高裁まで争い(中国鉄道が香港証券取引所に上場してたから)、コンゴが敗訴したのですが、コンゴは香港で外交免除権を行使して債務を支払わないと主張と香港に外交権はないと主張するハゲタカファンドの主張が対立し、香港最高裁が中国全人代に基本法解釈を求め、コンゴとの外交を重視する中国政府は香港でも外交免除権は行使できるという基本法解釈を行いました。

さて、話を今回の就任宣誓に戻しますと、事のあらましは東京、日経に書かれてあるので繰り返しません。

11月5日に中国全人代常務委員会が示した基本法解釈では、香港の公職者の宣誓について、宣誓は厳粛に、ハッキリと「中華人民共和国香港特別行政区基本法を擁護し、中華人民共和国香港特別行政区に忠誠を尽くす」と宣言しなければならない、再宣誓は認めない、宣誓が認められないものは公職資格を直ちに失うなど、かなり厳しい解釈を提示しました。これによって、独立派の政党「青年新政」の新人議員2人が失職する可能性がかなり大きくなったという報道です。

この宣誓式、東京新聞の記事にある時系列表では10月12日に行われ、18日に民主自決派の議員の劉小麗さんや、民主派議員の姚松炎さん、独立派2人、親中派1人の5人が議長から宣誓無効を通告され、翌日19日にもう一度宣誓をやり直すよう指示されました。同じ日に梁振英・行政長官(香港政府)が、再宣誓の権限は議長になく、独立派議員の資格をすぐにはく奪するよう高裁に提訴しました。

19日に親中派の黄定光、民主派の姚松炎の二人が再宣誓を終えたところで、議場にいた親中派議員は、前日の梁行政長官の動きに呼応するように退席し、議会が流会になったことは、前回書きました。

その後、25日には立法会議長は、香港政府が高裁に提訴している2名の議員資格はく奪の判決が出るまでは2名の議員への再宣誓は見送ることを決定しました。

そして11月7日の全人代による基本法解釈が出て、独立派議員2人の資格はく奪が妥当であるという解釈でした。この情報は、新聞報道にあります。

さて、では民主自決派の劉小麗さんはどうなったのでしょうか。

彼女の再宣誓は10月26日に予定されていました。この日、民主派議員らは議会への出席を拒否されていた2名の独立派議員を守りながら入場をさせました。議長が独立派議員の退席を指示したのですが、それに従わなかったということで本会議は休会になり、劉小麗さんはまたも宣誓ができませんでした。

そして、11月2日にもう一度、立法会で劉小麗さんの宣誓式が行われました。この際、親中派議員から議長に対して異議が申し立てられましたが、議長は宣誓式を続けさせました。議場にいた親中派議員らは抗議の意思を示すために、全員が後ろ向きになって劉小麗さんの宣言を聞きました。

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ということで、香港議会的には劉小麗さんを含む民主自決派は正式に議員資格を得たことになりますが、11月7日に示された全人代の解釈では、再宣誓はみとめない、立法会議長にも再宣誓させる権限がない、宣言していない議員はすぐに失職する、ということになることから、まだまだ不安は払しょくされていない状況です。

劉小麗さん、朱凱廸さん、羅冠聰さんら3人の民主自決派の議員は、今回の基本法解釈は、ひとり独立派に対する攻撃ではなく、香港民主主義全体に対する攻撃だという共同の声明を出しました(もちろん、だからと言って、自称「民族自決派」の排外主義独立派の主張には与していません)。

11月5日には、衆志(デモシスト)、社会民主連線、工党、大専政改関注組が呼びかけた抗議デモがあり1万人近くが集まりました。11月8日には、法曹界が呼びかけた抗議のサイレントアクションに弁護士ら2000人が集まり、最高裁前で抗議の黙とうが行われました。

このほかに、左翼21も声明を出して中国政府の介入に強く抗議するとともに、排外主義独立派の主張にも断固反対し、中国と香港をつないだ民主化運動と労働運動の強化を訴えています。

(左翼21)全人代の基本法解釈は自治権のさらなる侵害
中国と香港人民は団結して専制による抑圧に抵抗しよう


また『香港雨傘運動』の區龍宇さんも、ウェブメディアなどで中国政府への批判、排外主義本土派への批判、そして基本法の枠組みを乗り越える民主自決派を応援する論評を続けてています。また時間をみて翻訳紹介したいと思います。

以下は民主自決派の3議員の共同声明です。タイトルは、香港独立派は「民族自決」を主張していますが、香港民族?というクエスチョンは脇に置いたとしても、「自決」=自己決定とは、真の民主主義を表現するものであり、排外主義的主張をもつ「青年新政」は「自決」を名乗る資格なし、という意味合いがあるのでしょう。またそれ以上に既成民主派の基本法の枠内での活動という限界に対しても、その転換を呼びかけています。

原文はこちら
英語バージョンはこちら
記者会見(11月7日)の映像はこちら

自決とは、真の民主主義と法治を実現すること
――中国政府による五度目の香港基本法解釈に対する朱凱廸、羅冠聰、劉小麗の回答


1)北京政府は宣誓騒動を口実にして、「基本法」158条の解釈権を濫用し、事実上の「基本法」104条と「宣誓および声明に関する条例」の改定を行い、香港人の政治的権利と法体系を踏みにじるとともに、香港民主化運動に対する「香港独立」という政治的捕獲網を編み出した。梁頌恆と游蕙禎は最初の標的となり、李飛は民主自決が次の標的だと表明した。この捕獲網は際限なく広がり、すべての民主化運動の参加者は、唇亡びて歯寒し[一蓮托生]の道理と同じ運命にあることを理解すべきである。なぜなら北京の支配の論理によれば、最終的にあらゆるの民主化の動きは香港独立とみなされ、すべてせん滅の対象になるからである。

2)香港人に残された道は街頭における警察との肉弾戦だけではない。われわれは香港で地位のある法曹界が、五度目の基本法解釈にあたって、これまでの「受動性」という慣習を脱し、北京による政治的覇権に対抗して争うことを期待する。第一に、中国の全人代常務委員会が基本法158条の法令改正を越権する行為を行ったことに対して、香港の裁判所が追従するのではなく、司法の独立を防衛すべきである。第二に、法曹界は158条から派生する政治的干渉の危機について、香港人に対して制度改革および158条の改定にむけた道筋を提案する必要がある。第三に、法曹界、教育界そして二つの弁護士会は、市民を支援するために黒装束デモを呼びかけてさらなる非協力運動を検討すべきである。

3)民主自決が香港民主化運動の新綱領となる理由は、五度目の法解釈によってすでに明らかになった。「基本法」はこれまで一度も香港人から権限を授けられたことはなく、解釈権と改正権も北京が独占している。それは香港市民の民主的権利を保障できないだけでなく、北京が香港人の権利を侵害する根拠にもなっている。市民が民主的過程を経て改めて「基本法」を作り直さなければ、香港に真の法治はあり得ない。真の民主主義と法治を実現すること、それが自決である。われわれは、すべての民主派が「基本法」の「基本的欠陥」に果敢にチャレンジし、今回の危機をしっかりと認識し、市民の先頭に立って「基本法」および全人代による解釈という絶望の壁を突破することを呼びかける。この問題に正々堂々と正面から対峙し、闘争の方向性を整理し、香港人とともに腰を据えて応戦することだけが、香港の民主化運動が現在の厳しい状況を脱して、ふたたびその力を再建することにつながるのである。

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