
5月20~21日と仙台で開催されていたG7財務大臣・中央銀行総裁会合で話し合われると言われていたタックスヘイブン対策は、予想通りの内容になったようです。為替問題ではつばぜり合い、財政政策では一致を見ず。
しかし経済成長のために一層の労働者搾取の構造改革が必要だと言うことについては、G7諸国やIMFは一致しています。
以下、タックスヘイブンをめぐる問題について、思う所を書いてみました。
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パナマ文書が騒がれ始めた4月中旬、パナマ大統領が急きょ来日しました。
◎バレーラ・パナマ共和国大統領の訪日2016年4月17~21日(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_003217.html
直前に財務省前で行ったパナマ文書アクションで「きっと急速にパナマとの交渉が進み、形だけのタックスヘイブン対策を宣伝するでしょう」と発言しました。
サミット首脳会合を前に、パナマとの租税情報交換協定の締結のための交渉が急きょ始まります。
◎パナマ共和国との租税情報交換協定の締結交渉を開始します(財務省2016年5月18日)
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20160518pa.htm
そして5日後には協定について実質合意に至ります。
◎パナマ共和国との租税情報交換協定について実質合意に至りました(財務省2016年5月23日)
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20160523pa.htm
サミット直前の点数稼ぎというよりも、パナマ文書で明らかになった日本人関係者の口座情報の収集をより効率的に、あるいは今後のためにということでしょう。
つまりサミットによってタックスヘイブン対策が強化されたわけではなく、パナマ文書のリークと税逃れを許さない国際的な世論に押されての対策強化であると考えるべきでしょう。
「仮にそうであっても、政府によるタックスヘイブン対策は着実にすすんでいるではないか」という意見もあるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?
リーマン危機直後にはじまったG20において万全の租税回避対策をとると豪語した仏のサルコジや英のキャメロンの放言とおなじように、日本政府もタックスヘイブン対策として、情報交換に関する協定を締結してきました。
◎租税条約に関するプレスリリース(財務省)
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/index.htm
しかし租税回避は減るどころか、どんどん増加しているのが実態ではないでしょうか。
この間、いくつかの集会で発言していますが、問題はタックスヘイブンの存在ではなく、そこへ逃れようとする日本、アメリカ、ヨーロッパをはじめとする経済大国の側に問題があるのではないでしょうか。
政府のタックスヘイブン対策の大義名分はなんでしょうか?「租税逃れを補足して課税する」ということでしょう。しかし現在の日本政府がとっているような「いたちごっこ」と呼ばれる租税回避対策にだけ力点を置くことは、意図的な租税回避支援策としか考えられません。
本来必要なことは、合法的に租税回避をしている行為を違法にするような法改正をすべきです。OECDは税率をどうするかは国家主権なので、タックスヘイブンが税率を限りなく下げることには介入できない、ともっともらしく主張します。そうであるなら、合法的な租税回避ができないようにするとともに、ほぼ一貫して引き下げられてきた法人税を引き上げることで税収を確保すべきです。
1981(昭56)年~2016(平28)年の法人税率の推移(財務省)
http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.htm
税金を払う気のない大企業や富裕層はこう叫びます。「そんなことしたら企業や資産がどんどん海外に逃げてしまう」と。
それには「どうぞどうぞ」と言うしかありません。税金を払いたくない大企業や富裕層など出て行ってもらいましょう。そして口座を凍結し資産はすべて没収しましょう。
節税は合理的で合法的とうそぶく経団連は消費税のさらなる引き上げに賛成です。「財政再建のためにも消費税の引き上げは必要だ」と。そうしないと「国の借金が返せなくなると国債が暴落し国がつぶれてしまう」と。リベラルと呼ばれる多くの知識人も財政再建を持ち出されると消費税の引き上げに賛成してしまいます。
しかし、それに対しても「どうぞどうぞ潰れてください。この国は、税金を払いたくない大企業や富裕層の国であって自分たちの国ではないですから。」「借金の返済先はメガバンク。潰れるのを恐れるのはメガバンクのほうではないですか。」「大きすぎてつぶせない? 汚すぎてつぶせないというのが本当の所ではないですか? 預金者や貸出先に迷惑をかけないで潰れてください」と言えばいいのではないでしょうか。
世界をつぶしてきたのはコツコツ消費税を払っている庶民ではなく、税金を払いたくないメガバンクのほうだということは、繰り返される金融危機をみても明らか。
世界のタックスヘイブンに貯め込まれている金融資産は700兆円と言われています。日本からケイマン諸島に60兆円余りの資産が貯め込まれていると言います。それにしっかり課税をすれば消費税2%分の5兆円ほどの税収が見込まれると言います。
しかしそんな桁違いの金額がかすんでしまうほどの桁の金額が、アベノミクスの金融緩和によってもたらさられています。外国為替証拠金(FX)取引です。その額なんと2014年は約2000兆円余り、そして昨年2015年は5000兆円!
◎FX取引金額、初の5000兆円超え 2015年度(2016/5/ 9)
http://www.j-cast.com/2016/05/09266227.html
もちろん資産や直接投資残高はストックで、FX取引の総額はフローなので、厳密には比較対象にはなりませんが、attacのはじまりである為替取引に課税を!というのはまさにこのFX取引などを対象にしたものです。5000兆円の0.1%に課税をすれば、単純に考えても5兆円=消費税2%分の税収です。もちろん必要なのは税収ではなく、課税を通じた架空資本の傍若無人な膨張の抑制です。
OECDで議論し、G20やG7で宣伝されている租税回避対策(口座情報自動交換やBEPS行動計画)などは、とても本気で租税回避を解決しようとしているとは思えません。むしろ「合法的な租税回避」を拡大させることにつながるのではないかと危惧します。
先日のG7財務大臣・中央銀行総裁会合(仙台)の議長声明やタックスヘイブン対策に関する文書の和訳は、いまだ公式サイトや財務省、日銀にも発表されていません。そうそうと発表されたのはテロ資金対策のみです。7カ国で合意できたのがそれだけだったのかもしれませんが、あまりにふざけた対応です。
◎テロ資金対策に関するG7行動計画
http://www.g7sendai2016.mof.go.jp/jp/summary/index.html
生産を生産者に取り戻し、金融を民主的管理のもとに置くことこそ、本当のタックスヘイブン対策だと思います。
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