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映画『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』



ドキュメント映画『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』を観た。

リーマン危機からの回復には「経済成長」が必要だ、と唱える政治家、メディア、エコノミストたちの念仏に対して、「経済成長って何?」「それは永遠に続くものなの?」と率直な疑問をぶつけようとするアラナイの2人、シャーリー(92歳)とヒンダ(86歳)女性を撮ったドキュメント。

サブタイトルやパンフレットのドタバタ感とは違い、本編の映画は二人の女性のシスターフッドや健康上の不安を支え合う友情が底流をながれる物静かな内容だと思った。時間があまりとれないので、簡単に感想を。

ヒンダは「経済成長のためにはどんどん買い物をしろというけど、モノが増えて本当に幸せ?」と問いかける。アベノミクスの第二ステージ「GDP600兆円」というペテンが覆う日本社会で上映されている意味は多い。「経済成長」「GDP」という指標が切り捨てて、食いつぶしてきた別の価値を気付かせてくれる映画。

92歳と86歳の二人の女性が常に知りたい、そして世界を変えたいと訴える姿にも感動する。

オルタグローバリゼーション運動や環境問題に取り組んできた活動家なら、作品のなかでオルタナティブとして提示されている「定常経済」という、経済成長を目指さない経済システムにはそれほど違和感はないと思う。

インターネットでGDPや経済成長を調べていたシャーリーとヒンダは、YouTubeでジョン・F・ケネディの演説を見つける。1968年の演説の一節で、経済指標であるGDP(演説ではGNPが使われている)

こちらのサイトに全文(?)の日本語訳が掲載されている。

http://ameblo.jp/sunday0106/entry-10091709747.html

GDPには戦争、環境破壊、機動隊、監獄などが含まれているが、正直さ、文化、知識、愛などは含まれないという内容だ。

シャーリーとヒンダは、可能な限りの直接行動で、経済危機の真っ最中に経済成長についてのたわごとに浮かれるウォール街の大金持ちに訴える。

シャーリーとヒンダの姿を通じて、アメリカ民主主義の良心を垣間見ることができる。

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映画パンフレットには、映画では描かれていないシャーリーとヒンダのこれまでの活動についても、二人の対談で知ることができる。

シャーリーとヒンダは、高齢の女性たちで結成された平和活動団体「RAGING GRANNIES」で長年活動しており、シャーリは原潜反対やシェルへの抗議活動などでこれまでも5回も逮捕されている。ヒンダは99年のシアトルのWTO反対たたかいをきっかけにこの団体に参加したという。二人はいま気候変動についてのドキュメント映画にも参加しているという、筋金入りのオルタモンデアリストといえる。

一方で、二人を感動させる「定常経済」については、ぼくはあまり感動しない。ヒンダはパンフレットの対談(この対談はとてもいい)のなかでこう語っている。

ヒンダ「・・・・・・経済成長と地球温暖化はひとつのコインの両面のようなものだと強く思う。そのコインはつまり資本主義。資本主義は経済成長なしに存在し得ない。じゃあどうやって現状を変える?暴力的な革命は死と混乱をもたらす。」

ヒンダの両親は1917年のロシア革命を逃れてアメリカにやってきた。暴力的な資本主義が死と混乱をもたらした世界大戦を終わらせた大きな力となったロシア革命には、複雑でネガティブなイメージがあることも理解できる。より大きな規模で資本主義の殺戮大戦となった第二次世界大戦で最も大きな犠牲を出してファシズムと戦ったソ連や、植民地解放闘争のなかで支配的となっていったスターリニズムの犯罪への敵意も当然あるだろう。

ヒンダとシャーリーは、こうつづける。

ヒンダ 「本を読まないといけない。」
シャーリー 「そうね。」
ヒンダ 「本をひとつひとつ読んで、そうやって得た知識で子どもや孫の世界をよりよいところにしていきたいわ。それは大企業やウォール街の金融業者ではなく、われわれひとりひとりがやっていくことだと思うの。」

この2人の姿勢を学びたい。気候変動は資本主義という経済システムによって危機的な状況にまで追い込まれつつあるいまだからこそ「本を読まないといけない。」 いろいろと忙しいことにかこつけて、つまみ読み、積読状態になっていた『エコ社会主義とは何か』(ジョエル・コヴェル著、戸田清訳、緑風出版)、『100語でわかるマルクス主義 』(ジェラール・デュメニル、ミシェル・レヴィ、エマニュエル・ルノー著、斎藤かぐみ、井形和正訳、文庫クセジュ)、『エコ資本主義批判』(ショラル ショルカル、森川剛光、月曜社)を学び直したい。

生産手段の私的所有と賃労働という搾取労働が資本主義システムの根幹にある。この根幹は時代や国境ごとにさまざまなスタイルをとって現れている。気候変動が資本主義によってもたらされているという2人の主張に全面的に賛同しつつ、System Change Not Climate Change、定常ではなく変革を模索したいと思う。

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アベノミクスは、最低賃金を年間3%上げるということで、経済成長につなげるという念仏を唱えている。情けないことに、アベノミクスを批判する経済学者は、新自由主義のアベノミクス批判に対して「内需拡大の経済を」と対案を提起する。しかしこれは対案でも何でもなく、むしろアベノミクスの補完に過ぎない。

最低賃金を上げることは大切なことだが、年3%上げても賃上げにはならない。社会保険料や税金をふくめれば総賃金は下がっている。物価の上昇がさらにのしかかる。

最賃の近傍に張り付いた時給の非正規・不安定労働者が最賃引き上げの「受益者」となるかのようなアベノミクスの第二ステージは、実際には労働者にとっては賃上げではなく賃下げであるという批判をするとともに、「賃上げによる内需拡大を」という資本家の尻持ちスローガンを、労働運動が掲げるというなさけない状況で参院選を迎えることのないようにしてほしいものだ。

シャーリーとヒンダの問いは、かつて「それで自由になったのかい」という歌詞に込められたメッセージを思い起こさせる。

◎それで自由になったのかい(詞・曲:岡林信康)

そりゃよかったね 給料が上がったのかい 組合のおかげだね
上がった給料で一体何を買う テレビでいつも云ってる車を買うのかい
それで自由になったのかい それで自由になれたのかよ ブタ箱の中の自由さ
俺達が欲しいのはブタ箱の中でのより良い生活なんかじゃないのさ
新しい世界さ <新しいお前さ> 新しい世界さ <新しいお前さ>

全曲はこちら

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