『ギリシア デフォルト宣言』(その2)

10月7日にattac首都圏会員会員MLに投稿したものです。

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シリザの当初のビジョンが頓挫(尻挫?)となるなかで、第一次シリザ政権誕生の直前に公開された本書の特に後半で語られている左派が目指すべきもの、というのは大変示唆に富みます。その中の一部をシリザが目指そうとしたということも理解できます。何度かに分けて案内を書いてみます。

『ギリシャ デフォルト宣言』、前半はけっこう難しいです。

といいますか、経済学では常識なのかもしれませんけど、「単位労働コスト」を中心とした議論になっているので、そのへんが苦手な人には、ちょっと眠くなるかも。

第一章「欧州通貨同盟(EMU)の深刻な危機」はそれほど難しくなく、

「欧州通貨同盟が抱える根本的な問題--それこそがまさにユーロ危機の本質なのだが--は、はっきり言えば単位労働コストの格差拡大であって、それは多分にドイツの労働コスト抑制政策によって引き起こされた結果である。」(17ページ)

という概要を説明しています。

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第二章「欧州通貨同盟の理論的根拠」では、この「単位労働コスト」をもちいて、欧州通貨同盟やそのアンカー(基軸)としてのドイツ経済において主流となってきた経済学(新自由主義)の主張を、正面から批判しています。

「単位労働コストは(景気の動向のバロメーターである)インフレを予測し、抑制するための完璧な道具」(34ページ)であったにもかかわらず、ユーロ発足(1999年)以降、「EUの主要機関が採用した新自由主義的アプローチの理論は、賃金と単位労働コストの伸び率をずっと無視し続けてきた」(35ページ)。

そして通貨同盟の中心であったドイツ連邦銀行が採用したのは、マネーサプライによってインフレを調整できるという貨幣数量説でした。

この「マネタリズムの考え方では、通貨同盟においては共通の中央銀行が貨幣供給量を調整することにより、すべての加盟国にインフレを生じさせることができるだけでなく、加盟国のインフレ率のあいだに差をもたらさない」(30頁)とされましたが、貨幣供給だけではインフレ率を調整するには十分ではないと、筆者は批判しています。

また同じくマネタリストたちが念仏のように主張する「雇用市場の柔軟性」や「競争力の強化」ではなく、「名目賃金の上昇率を『国内生産の成長率+目標として定められたインフレ率』に等しくなるように調整すれば、各国の国内需要を安定させることができるだけでなく、ひいては通貨同盟全体の需要を安定させることもできるだろう」(36ページ)と主張しています。

しかし、本書全体(特に後半)を読めば、著者が通貨同盟全体を安定化させるためにそのように提言しているのではなく、ユーロ発足から10年にわたるメインストリームの経済学とそれを採用してきたトロイカに対する批判であることが理解できます。

このマネタリスト批判は、クロダノミクスの金融緩和批判にもつながります。

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第三章「ドイツ--ユーロ圏危機の原因」は、「一人勝ち」といわれるドイツが行ってきた賃金抑制政策によって、ドイツとその他の加盟国との間の貿易格差が広がっていく様子が描かれています。

「労働時間の削減により失業率の改善を図るという理屈が通用しなくなったことを悟った労働組合の指導者たちは、これまでの賃上げを要求するときに頼っていた図式を捨て、1999年(ユーロ発足)に三者協定に合意した。(捨て去った)その図式というのは、生産性の上昇分から得られた利益を労働者に平等に配分するというものだったが、その図式を捨てた労働組合は、『生産性の上昇分を雇用のために残しておく』という新たな図式に合意したのである。」(46ページ)

つまり企業の搾取率や内部留保を拡大させることに労働組合が協力した、ということです。

そうなると、こうなります。

「各国の単位労働コストの上昇は、1年あたりでみるとわずかな差に過ぎないが、それが10年も続くと大きな差となって現れる。欧州通貨同盟が発足して10年のあいだに、ドイツと南欧諸国との間の労働コストおよび物価の差は25%に達し」ました。(47ページ)

「別な言い方をすれば、ドイツの実質為替レートは、もはや欧州通貨同盟においてドイツ通貨が存在しないにもかかわらず、大幅に下落したのである。単位労働コストの上昇率の格差は、当然ながら物価格差として反映されることになる。欧州通貨同盟全体としては、2%のインフレ目標は完璧に達成された。しかしその裏で、各国のあいだにインフレ率の格差が目に見えて広がっていたのである。・・・・・・ようするにドイツは、明らかに欧州中央銀行の定めたインフレ目標を守るつもりがなかったのである。というのも、ドイツ政府と企業家たちは、自国の国際競争力を高めるために、猛烈な圧力を加えて賃金を抑制し、従来の資本-労働(分配)比率を変えようとしてきたからである。・・・・・・煎じ詰めれば、ドイツは『近隣窮乏化政策』をおこなったわけだが、それは自国の賃金を連結することにより『自国民窮乏化政策』をおこなった結果なのである。それこそ過去15年間にドイツが成功を収めた真の理由である。」(48~49ページ)

こうして、1章から3章までをあらためてまとめると、ロジックの筋道がみえてくるのですが、読んでいる最中は「むずかしいな~」という感じで、なんども眠くなりました。こんな調子で第4章「EMUにおけるストック/フローとその問題点」、第5章「ヨーロッパは対外不均衡を解決できない」、第6章「破綻に向かう欧州通貨同盟」を読むと、けっこう大変かなぁ、とおもい、一気に飛ばして第7章「左派は何をすべきか--EMU離脱とEUとの対決」から再開。

ここから、『ギリシャデ フォルト宣言』という書名が象徴する債務帳消しに向けての議論が、グッと身近に迫ってきます。

(つづく)
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