「2%」への招待状

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2011年のオキュパイ・ウォールストリート以降「1%VS99%」という経済格差を批判するスローガンが定着しているが、タイトルの「2%」は、それを指しているのではない。暮れも押し迫った12月25日、日銀・黒田総裁が経団連の諮問機関である審議委員会で、日本経済界の代表らを前に行った講演のタイトルが、この「『2%』への招待状」だ。

「2%」とは言うまでもなく13年4月の就任以来、黒田日銀が進めてきた「物価安定の目標」のインフレ数値のこと。将来的に物価が上昇するという予想が社会を支配すれば、物価が上がる前に企業や家計による投資や消費が促進されるだろう、という妄想の経済論理に基づいた政策。長期国債の保有残高の年間増加額を30超円増やして80兆円(国家予算に匹敵)とする10月からの追加緩和は、実質金利を引き下げるためだと説明するが、それは事実上の国債の日銀引き受けという、まさに「異次元の緩和」に他ならないことは、黒田総裁だけでなく、講演を聞いていた資本家たちにとっても暗黙の了解。

バブル崩壊以降から03年のりそな「国有化」までに、資本主義システムの救済ために投入した公的資金48兆円のうち10兆円が「国民負担」となったが、それから10年。「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」というアベノミクスの第一の矢は、「下手な鉄砲も数うちゃ当たる」よろしく労働者階級にその狙いをつけて放たれ続けている。10年前と同じく、そのツケは労働者にしわ寄せすることが想定されている。

冒頭に紹介した「1%VS99%」というメッセージは、たとえばトマ・ピケティの著書『21世紀の資本』が好意的に紹介されるように、今の資本主義のあり方をわかりやすく伝えている。08年リーマンショック以降に議論されてきた金融規制は、資本主義的金融システムを救済するには有効かもしれないが、「もう一つの世界は可能だ」と変革を訴えてきた社会運動が目指す経済システムに向かうものではない。

むしろ逆に「喉元過ぎれば熱さを忘れる」かのように、ゆうちょ、かんぽの東京証券市場への上場、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によるリスク資産運用の増額は、リーマンショックを引き起こした金融化、証券化の動きが進んでいる。公共サービスや老後の年金を金融市場の支配にゆだねてしまってはならない。金融庁幹部は「日本は危機対応先進国だ」と述べている(日経12月24日付)。他の先進国に10年ほど先駆けて発生した巨大なバブル崩壊で資本主義の終わりの始まりを開始したという危機感を、この発言からは読み取ることはできない。

ピケティの主張全体に惹かれるところはないが、アメリカの所得上位1%の全体に占める割合は、生産手段の私的所有権を廃絶した社会体制が誕生したときからその体制の消滅までの期間にかけて顕著に下がっていることをデータで明らかにしている点などは参考になる。つまり資本主義的危機の処方箋で最も効果的なのは、資本主義が資本主義たる仕組みである「生産手段の私的所有」そのものを遡上にあげる必要があることを示唆している。

話を黒田総裁の講演に戻そう。黒田総裁は講演で「(2%の物価目標は)一部の企業や金融資産の保有者だけの利益になるものではなく、幅広い業種や様々な人々にメリットをもたらすものである」と述べている。どうやって?黒田総裁は講演の最後にダーウィンの進化論を持ち出して説明する。「ダーウィンは『生き残るのは、強い生き物ではなく、変化に対応できる生き物だ』と言ったと伝えられています。いち早く環境変化を先取りし『拡大均衡』の経済に対応できた企業こそが競争の『勝者』となり、新しい時代における繁栄を享受できることになる」。ダーウィンの自然淘汰説を、社会の進化に曲解して当てはめる新自由主義の論理「社会的ダーウィニズム」の主張だ。

ここまでくると、この講演のタイトル「『2%』への招待状」が、「競争の『勝者』になって1~2%の富裕層におなりなさい」という招待状のことを指していると思えてならない。だが社会の進化は自然淘汰説ではなく階級闘争の法則が支配する。「競争に勝つ」ということは階級闘争に勝利するということ。つまり黒田講演は資本家に対して労働者との階級闘争に勝利せよ、というメッセージを含んでいる。

黒田総裁は最後に「どうかよいお年をお迎えください」と述べてこの講演を締めくくっている。とんでもないことだ。「早いもの勝ち」の社会ダーウィニズム信奉者たち「2%」が安穏とできる「よい年」は、その反対側にある98%の人々にとっては「わるい年」に他ならない。98%の人々が「宮殿に戦争を、あばら家に平和を!」(エンゲルス、1844年)の鬨の声をあげるのに、新しい年では遅すぎるということはあっても、早すぎるということはないだろう。   

稲垣 豊 会員/江東区
(2014年12月28日発行のATTAC Japan(首都圏)ニュースに掲載)

参考
【講演】黒田総裁「『2%』への招待状」(日本経済団体連合会審議員会) 2014年12月25日
 
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2015/01/09 (Fri) 08:51 | ケノーベル エージェント