
日銀が更なる金融緩和を打ち出した。
「中長期的な物価安定の目途」を、消費者物価の前年度比上昇率の1%とし、そうなるまで金融緩和を継続する、というものだ。
こまかく説明するとあれこれあるが、日銀の白川総裁は記者会見で、2012年末まで、毎月3.3兆円、年間39.6兆円の長期国債を買い入れることになると述べた。
・金融緩和の強化について(2012年2月14日)
・「中長期的な物価安定の目途」について(2012年2月14日)
・記者会見(2012年2月14日)
記者会見では、毎月3.3兆円を買い入れるということは国債の新規発行ないし純発行額に対してどれくらいのウェイトになるのか、という質問が出たが、白川総裁は、その他の質問には丁寧に答えるのに、その質問には「非常に難し問いだと思います」と明確には答えなかった。
2月8日の日経新聞によると、財務省は2012年度の入札による国債の市中発行額を過去最高の149兆7000億円としている。つまり単純計算すると、39.6兆円÷149.7兆円=26.4%、つまり四分の一超を、日銀が引き受けるという計算になる。
べらぼうな額である。
昨年末には日銀が保有する国債は約90兆円に達し、日本国債の発行残高の10%を占めた、08年9月のリーマン・ショック前に比べると3割増加した計算になる。
日銀の白川総裁は、財政ファイナンスを支える(=政府予算の不足分を補う)ものではなく、あくまで物価の安定を目指した政策であるとしているが、説得力はない。事実上の金融による財政のファイナンスといえる。
政府は「緩やかに2%程度の上昇を目指す」としており、今回の日銀の決定においても「消費者物価の前年比上昇率で2%以下のプラスの領域にあると判断しており、当面は1%を目途とする」と、検討幅の上限を2%と明示している。
これに対して2月15日付東京新聞の社説は「1%では低すぎる!」「2%を目指すべきだ」と批判している。
「『1%』という数字が低すぎる。FRBの目標は2%、ユーロ圏の欧州中央銀行(ECB)は2%未満でその近傍、英国も2%である。なぜかといえば、1%では0%に限りなく近づく可能性が高くなってしまうからだ。それではデフレを脱却できない。日銀も2%を目指すべきだ。」
・インフレ目標 政府の関与を明確に(東京新聞2012/2/15)
「貨幣現象であるデフレは金融政策の失敗が最も主要な原因だ」と日銀批判もけたたましい。
現在の政策の延長で2%のインフレを実現しようとするには、さらなる金融緩和が求められる。国債の追加買い入れ、債券やリスク資産の買い入れなどになるだろう。
しかし、それはさらなる混迷への道に他ならないことは言うまでもない。
ひとつには白川総裁も記者会見で語っているように、政府の2%目標というのは、昨年末に閣議決定された「日本再生の基本戦略」における成長戦略等の着実な実施により「我が国の構造転換を進め、日本再生をさらに力強く進めていく」ことを織り込んだものである。
・日本再生の基本戦略について(2011年12月24日閣議決定)
このような経済政策を前提とした2%インフレ目標を支持することはできない。
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もうひとつには、そもそもデフレは金融政策の失敗が原因ではないということにある。
現在のデフレは、国債発行や中央銀行のマネー供給で、資本主義に固有な過剰生産恐慌の発生をずっとずっとずーっと引き伸ばしてきたことにその原因がある。
マネーが大量に供給されれば物価が上がる、というのが世の常だが、現在中央銀行から供給され続けるマネーは生産過程(簡単に言えば「ものづくり」)ではなく、金融市場にながれているだけなので、賃金は上がらず、適度なインフレを導かない。
値上がりするのは、行く当てもなく金融市場をぐるぐると回っている巨額のマネーによって「儲かる!」ターゲットにされた投機対象だけである。2008年からつづく資源・食糧の高騰の原因だ。
過剰生産は解消しておらず、資本主義に固有の長期的な利潤率の低下などから、ものづくりにマネーを流し込む誘引が起きない。従来銀行は融資先の企業が稼いだ剰余価値の一部を利子として受け取るのだが、競争の激化、機械化の進展などで、利潤率の低下が甚だしく、融資によってはほとんど利益がでないことから、利益の確保できる国債や金融資産に融資するようになっている。産業資本の金融化も影響しているだろう。
儲からなくても、あるいは儲けがそんなのなくても、社会的に必要な仕事は沢山あるので、そちらにお金を回して雇用を増やしたりすることはできないのかとも思うのだが、それができたら資本主義じゃなくなる。
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