
財務省は、急激な円高への対応として、財務省は「円高対応緊急パッケージ」を発表した。
◎円高対応緊急パッケージについて(財務省2011/8/24)
外為特会からドル資金1000億ドルを使った海外投資のための「円高対応緊急制度」を創設し、日本企業による海外企業のM&Aや資源権益の確保に活用する。
これがなぜ円高対策なのか、というと、海外投資の際に必要なドルを確保するために、円を売ってドルを買うので、円高を和らげる効果がある、ということのようだ。
◆公的資金を使って銀行を支援
財務省は「円高対応緊急制度」から国際協力銀行(JBIC)に対して6カ月物のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)という、金融市場よりも低い金利で融資し、JBICはこの低利の資金を使って、他の民間銀行とともに企業に海外投資の資金を提供する。(M&A:500億ドル、資源確保・開発:500億ドル)
民間銀行にとっては、融資資金だけでなく、M&Aによる手数料収入も期待できる。公的な資金をつかって銀行のビジネスを支援するという、いつもながらの銀行優遇の政策だ。8/25付け「日経新聞」朝刊の報道によると、大手金融機関の首脳も「実にありがたい」と歓迎している。
◆原発輸出事業にも金が流れる懸念
財務省のホームページによると、資金供与先として民間銀行のほかに「産業革新機構」という官民による海外投資機構があげられている。同機構は2010年秋より海外の供水事業への投資したり、電力九社などとともに「国際原子力開発株式会社」を設立して原発輸出を後押しする事業にも乗り出している。
(参考)2010.10.15 「国際原子力開発株式会社の設立」を決定
原発は輸出も再稼動も新設もやってはならない。そんなことに公的な資金を使わせてはならない。
◆問題の先送りどころか、火に油を注ぐ政策は直ちにやめるべき
「円高対応緊急パッケージ」は、アナウンス効果程度はあるかもしれないが、これまでと同じように「金融の金融による金融のための」政策でしかない。マネーの暴走を規制し公正な社会を目指すオルタグローバリゼーション運動にとっては批判の的でしかない。
膨れ上がった投機マネーによってもたらされる円高に対して、さらなるマネーを供給することで対応するというのだから。投資対象となる資源・エネルギー確保事業についても環境破壊、農地収奪、住民追い出しなどの懸念が予測される。
◆「思惑的な売り買いがしにくくなる」という政策は継続すべし
さてこの「円高対応緊急パッケージ」、もうひとつ、注目すべき政策がある。
およそ30社の大手銀行や証券会社に対して、為替トレーダーが保有する外国為替の持ち高(自己ポジション)について毎日報告を提出させるというものだ。報道によると、持ち高報告は、「事前の許可・届出制度を原則として廃止するとともに、外国為替公認銀行制度、両替商制度を廃止する等、自由で迅速な内外取引が行えるよう、欧米先進諸国並みの対外取引環境の整備が図られた」(財務省)1998年の外為法改正以来、初となる。違反すれば罰則がある。
市場関係者からは「持ち高を毎日報告することで、思惑的な売り買いがしにくくなる」との声が出ているそうだ。つまり少なくとも日本で円を売り買いする行為には一定の制限がかかる、ということだ。
銀行は、ヘッジファンドや企業など顧客から依頼された為替取引を行うだけでなく、業務の中で知り得た情報に基づいて「為替相場が動きそうだな」というときには、自己資金で為替取引を行っている。つまり銀行自身も投機市場の重要なプレーヤーなのだ。
だが、なんと、こちらの政策は9月まででおしまいだという。もし仮に、この市場関係者の言うように「思惑的な売り買いがしにくくなる」のであれば、仮に焼け石に水だとしても、マウスのクリックひとつでカネを右から左に動かすことで人々の生活を大混乱させるまでに膨れ上がった金融を縮小させるわずかな一歩にするためにも、こちらの政策は9月までといわず、継続する必要がある。
もちろん情報を集めるだけでは何の規制にもならない。より直接的に投機を規制する通貨取引税、実需原則の復活、そして「大きすぎてつぶせない」金融機関の公的管理と民主的経営などが必要になるだろう。
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