
民主、自民、公明、たちあがれ日本が国会に提出した原子力損害賠償支援機構法案の修正案が、賛成多数で衆院本会議通過し、参院に送られた。
この法案は別名「東電・銀行救済法案」とも呼ばれている。7月29日の「日経新聞」朝刊に掲載されている「東電賠償支援の枠組み」に関するQ&Aが、わかりやすくそのことを物語っている。すこし抜粋してみよう。
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Q 与野党が法案成立を優先したのはなぜか。
A ……金融市場の混乱を避ける狙いもある。東電の社債発行残高は5兆円、融資残高も4兆円に上る。法案が通らず、国の支援が得られなければ、東電債の一段の格下げが予想され、社債価格が大幅に下落する懸念があった。銀行も東電向けの既存融資が不良化し、新規融資が難しくなる。
Q 投資家や取引銀行はどう評価しているか。
A 社債や貸し出しの毀損するリスクが遠のき、ひとまず安堵の声が広がっている。とはいえ、東電株の動きは鈍い。法案の枠組みでは、東電が利益を賠償に回し続ける。そうした状態があまりに長い場合、事故収束や電力インフラ維持に不可欠な技術者の獲得などが難しくなるとの恐れもある。……法案に株主らの協力を求める文言が加わり、将来の支援の枠組みが見通せないためだ。
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つまり、東電に融資しているメガバンク、株式や社債を購入している保険会社などを救済することが目的だ。与野党の修正協議では、国の責任を明確にするとか、これらの債権者に対して「協力を求める」ことが盛り込まれ、今後も早い時期に法改正を行うという。
「国の責任の明確化」とはつまり株主や銀行には責任はありませんよ、ということだ。だから債権者には強制力を伴わない「協力」を求めることになる。強制力のない要請にだれがほいほいと応じるのか。放射能被害が拡大するなか、金融機関や個人投資家の利益を守ることを最大の目的とした同法案に賛成した政党・議員のことはずっと忘れない。
やや古いが、今回の賠償支援スキームによって、金融機関や社債権者に毎年1545億円の利息が入るトンデモ法案であることをわかりやすく説明した「週刊ダイヤモンド」の記事がある。
・独自入手の極秘資料が暴く国民欺く東電賠償スキーム
原発事故の際の賠償については、すでに現行法の「原子力損害の賠償に関する法律」で電力会社の補償責任とともに、足りない場合には国が支援することが決められているにも関わらず、今回あらためて「支援機構」を設立することにしたのは、東京電力温存と金融機関救済のためである。
とある報告会で、政策研究大学院大学教授の福井秀夫氏は、今回の賠償支援機構について次のように批判している。(ガジェット通信)
「これは国民負担がかなり巨額に上るように仕組まれた法案ではないかというのが私どもの危機意識の根幹でございます。実際にですね、東電には純資産が1.6兆円、借入金が3.4兆円。ということで、かなりの資産があるわけです。これを賠償債務に先に回さないでまず守るというのはちょっと考えられないことだと思います。」
「既に現行法で国が援助すると書いているわけで、これの具体化をするのが今の政府の責任だと思います。すなわち、国が足らざるをきちんと補うという賠償の責任を明らかにして、その前にまず破たん処理できちんと東電のステークホルダーには負担していただく。」
経営陣、株主、金融機関の債権をすべて放棄してそれを補償に当てた上で、足りない分は国の財政で負担するということが必要だとおもう。
その費用は、国債発行という将来にツケを押し付ける方法ではなく、まずは原子力政策推進のための各種予算を全て賠償費用と事故対策費用に当てた上で、たとえば電力使用量に応じた形での負担金徴収なども考えられる。
その場合には、エネルギー事業を市場経済まかせにしない、ということも検討する必要があるだろう。つまり、一部で言われているような「東電資産の売却」ではなく(東電批判を行いつつ東電資産の売却を安易に提起する識者には注意が必要だ)、完全無償国有化を行い、労働と環境に負荷をかけない社会にあった公共サービスとしての発送電事業を行うことだろう。
折しも、原発停止に危機感を感じた日本エネルギー経済研究所が、「国内の原子力発電所54基すべてが2012年春に停止した場合に、12年度の実質国内総生産(GDP)を最大で3・6%(20・2兆円)押し下げ」「国内産業の空洞化を加速させることで失業者数も19万7000人増加する」という報告を発表したという。
「電力を多く消費する電機や自動車のほか、鉄鋼や非鉄金属、化学といった日本の製造業の中核を担う産業が大きな打撃を受ける」という報道もされている。
これまで何度も重大事故を発生させその都度リスクを撒き散らしながら稼動停止を繰り返し、そしていま現在も半分以上が停止状態にある原発が全部とまったからといって、それだけで海外に移転する企業があるとは思えないが、もしそれで失業者が20万人増えてしまうのであれば、営利企業はしょせんそんなもんだ、と開き直り、国有化された電力企業での新たな再生エネルギー事業や被災地復興や避難している人々へのさまざまなケア、そして新自由主義改革でばらばらにされてきた自治体、教育、福祉などの分野において、労働時間の大幅な短縮と生活できるまともな賃金を保障して雇用するくらいの政策を、放射能災害の被害者に対する無制限の補償と健康被害に対する万全の対策とをあわせて行うべきだろう。
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