
6月26日~27日の2日間、カナダトロントでG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)が開かれる。「強い経済、強い財政、強い社会保障」を唱える菅直人首相も参加する。マスメディアでは「消費税増税」ばかりが取り上げられているが、このスローガンの最初の提唱者らしい税制調査会会長の神野直彦氏にすれば、一向に「金持ち増税」の議論が取り上げられないことに忸怩たる思いなのかもしれない。しかし一方でそれはマスメディアに強い影響力を持っている大企業の側の危機感の現れでもあるだろう。消費税について議論するのであれば「消費税および金持ち優遇税制の廃止、金持ちと大企業による課税逃れの徹底した取り締まりと法人税の大幅引き上げ、金融取引税の導入」を掲げて議論すべきだろう。
話がずれたが、菅新総理はG20サミットで「経済成長と財政再建が両立」を強調するという。そもそもG20サミットにおける議論は、経済危機を引き起こした原因やその解決方法について真面目に議論をしてきたとは到底思えない代物であり、期待する必要もないのだが、私たちの求めてきた解決とはいったい何なのか、G20サミットのたびに機会をつくって考えてきたつもりではあった。そんなことを考えていた折、先日ふと日経新聞の連載記事の一節が目に留まった。
+ + (以下、引用) + +
危機のサイクルは確実に早まっている。2008年のリーマン・ショックから2年足らずで起きたユーロ不安。市場にあふれるマネーが世界経済を揺さぶるからだ。
各国は危機のたびに大量の資金供給で乗り切った。マッキンゼー・グローバル・インスティチュートによると、1990年に48兆ドル(約4400兆円)だった世界の金融資産は今や200兆ドルに迫る。国内総生産(GDP)が約2・7倍に増える間、金融資産は約4倍に膨らんだ。
リーマン・ショックで市場は16兆ドルを失ったが、米国のGDPに匹敵する14兆ドルの危機対応が穴を埋めた。民間の損失は国家が背負い、標的は国債に、通貨に変わる。
危機を封じ込める資金供給の処方せん。それがいつしか毒を帯び、新たな危機の出発点となる。
(略)
危機と対策、過熱と崩壊、そして次の危機--。実体経済に比べて極端にマネーが膨らんだ世界経済。この状態が修正されないかぎり、危機の種はいつか芽をつける。(おわり)
「通貨混沌 ユーロ不安と世界」(5)日経新聞 朝刊 6月20日(日)掲載
+ + (以上、引用) + +
わかりやすい。
2008年11月の最初のG20サミットからこれまで、「実体経済に比べて極端にマネーが膨らんだ世界経済」を修正する対策は全くとられてこなかった。それどころか「危機を封じ込める資金供給の処方せん」として、日米欧を中心に巨額のマネー供給が続けられ、それは現在も継続中だ。
ギリシャ財政危機では、EUは最大7500億ユーロ(89兆円)の緊急融資をギリシャなどに行うことを決めた。これはギリシャ国民を救済するということではなく巨額のギリシャ国債を保有するフランス・ドイツなどの民間銀行を救済することに使われる。アメリカは08年リーマンショックで7000億ドル(65兆円)の不良債権買取プログラムを実施した。日本も08年12月に10兆円枠の金融機能強化法をつくりマネーゲームに踊った金融機関にマネーを流し込むことをはじめ、日銀の国債買取などを実施してきた。日本の場合はバブルの後始末を庶民に押し付けるために、98年に銀行へ60兆円の公的資金を注入した。
過剰供給による恐慌のサイクルは資本主義の宿命であり、今般の危機を引き起こした巨額の投機マネーの存在は、宿命である恐慌を先延ばしにするために70年代からとられてきたグローバルな金融緩和政策によって生み出された資本主義の申し子そのものである。日本では巨額の財政出動が恐慌を先延ばしにしたし、アメリカやイギリスは世界的なマネー循環の中心となることで危機リスクを世界各地に分散させ、ラテンアメリカでは早くも80年代からアメリカ資本主義のツケを支払わされる通貨危機に何度も直面してきたし、アフリカでは生存さえも許されない厳しい状況に人々が追い込まれてきた。
G20サミット開催以降も、そのシステムは一切変わっていない。金融に対する規制強化さえ行われていない。
そんな状況で「強い経済」をいかにして実現するのか。「強い経済」がさまざまな犠牲を強いて達成されたとしても、現在の金融規制のあり方に根本的な変化がない限り、「強い経済」によって生み出された(正確には「人びとと自然から搾取された」)利益が人びとに還元されることはないだろう。
巨額の公的資金で救済された民間金融機関に対する金融取引税(トービン税)の導入が必要だ。また一切のマネーゲーム(通貨取引のほとんどは巨大銀行によるものだ)の禁止も強制する必要がある。それを受け入れられない金融機関に社会的な存在意義はない。国有化したうえで社会的なコントロールの下に置くべきだろう。
ヨーロッパでは、金融取引税を求める強力な社会運動の圧力を背景に、G20サミットで金融取引税について議論すべきという主張がでている。ドイツ政府、フランス政府それぞれの思惑はあるだろうが、それを超えた世論の高まりに注目すべきだ。attacフランスが声明を出している。
◎金融取引税:メルケルとサルコジの真価が問われるときだ(attacフランス)
徴収した税をどのように使うのかなどの議論は残されているが、まずは導入に向けて立ちはだかる障害を排除すべきだ。日本では「G20各国首脳に金融取引税の導入を求める国際署名」がウェブ上で呼びかけられているくらいで大きな流れになっていないのが現実だ。
ほとんど注目されていないのだろうと思ったら、11月に横浜で行われるアジア太平洋経済協力(APEC)の唯一の公式民間諮問機関といううさんくさい肩書きの「APECビジネス諮問委員会(ABAC)」が、今年の2月に金融取引税の導入に反対する書簡をIMFに送っている。
◎IMF宛緊急書簡(APECビジネス諮問委員会)
この書簡の署名はABAC議長及びABAC金融・経済作業部会長だ。ABAC議長は三井物産の顧問、金融・経済作業部会長は三菱東京UFJ顧問だ。書簡で述べられているトービン税反対の理由のひとつに、「かかる課税は産業界及び消費者全体に不公平な罰をもたらす」とある。しかし、外国為替取引の主体(=消費者)は、他でもない三菱東京UFJのようなメガバンク。よく恥ずかしげもなくこんなことがいえたものだと思う。金融危機を引き起こした「消費者=金融機関」に罰をもたらす税の何が悪いのか、まったく分からない。
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G20サミットにおける金融規制の議論と対照的なものに、国際通貨・金融システム改革専門家委員会でスティグリッツ教授が取りまとめた報告書がある。09年9月にその最終版が発表されている。日本では「和泉通信ブログ」で根気よく翻訳が続けられている。
◎和泉通信ブログ(スティグリッツ国連報告関連)
G8/G20 TORONT COMMUNITY MOBILIZATIONによると、G20が行われるトロント現地でさまざまな対抗アクションが取り組まれており(スケジュール)、6月26日には「People First! Rally & March」(地図PDF)が行われる。注目を!
◎G8/G20 TORONT COMMUNITY MOBILIZATION映像ページ

People First! Rally & Marchのポスター
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