副作用で大いに結構--欧州委員会報告にトービン税登場

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今朝(2010年4月15日)の「日経新聞」朝刊に「EU、金融特別課税4案 最大7.2兆円 破たん処理の財源確保」という大きな見出しの記事が6面に掲載された。

欧州連合(EU)の欧州委員会が、域内の金融機関に対する特別課税に関する報告書をまとめた、というもので、4つの案のひとつに「国際金融取引課税(トービン税)」があげられている。

記事によると、目的は米政府のような公的資金の損失を穴埋めすることではなく、「将来の金融安定を目的としている」らしい。そして欧州委員会が一番重要視している案は、トービン税ではなく、「資産・負債規模に応じた特別課税」だという。

資産・負債規模に応じた特別課税が金融安定にどう役立つのかというと、「資産や負債規模が大きくなれば課税額が増えるこのため金融機関が巨額の借入をしてデリバディブ(金融派生商品)などのリスクの高い取引を膨らませるような事態を防ぎやすくなる」ということらしい。

では、トービン税はどのように報道されているのかというと、これがひどい。

「外国為替などの国際的な金融取引に薄く広く課税する案は、ブラウン首相らが提唱している。難点は副作用だ。報告書では『取引コストが上昇して取引が減少し、価格の変動幅が大きくなる』『金融市場の効率性に悪影響を与える』『資本の自由な移動を保障するEU条約に合致するかどうか』など課題を多く挙げ、導入に慎重姿勢をにじませた。」

もういい加減にくだらない理由でトービン税をおとしめることはやめてもらいたい。

■副作用で大いに結構

「副作用」? 投機マネー取引の減少の何が問題なのか? 私たちは投機マネーを根絶したいのだ。人々の生活や地球環境の永続的な存続と全く関係のない、いや、それと対立するような経済活動をつづけている投機マネー(その元締めは大手銀行や中央銀行なのだが)が減少してなにがよくないのだ。

価格の変動幅が大きくなる? 流動性(貨幣量)が大きければ大きいほど変動幅のショックが小さい、などという理論に基づいたそのような主張は破綻している。流動性のない固定相場制の時代と、現在の変動相場制の時代のどっちが金融が安定していたのか。変動相場制に移行してから現在まで流動性はどんどんと拡大してきたが、それにともない危機の深さも同じく拡大してきたではないか。

金融市場の効率性に悪影響を与える? トービン博士は、過剰流動性と「効率的な」金融活動は短期的利益を追求する非合理的な投資に行きつくと論じ、その「効率性」に歯止めをかけるためにトービン税を提唱した。「効率的な金融市場」が世界にどれだけの被害をもたらしてきたのかは、リーマンショック以降の世界経済が証明しているではないか。リーマンショック以前においても「効率的な金融市場」を強制されてきた南の諸国では経済や生活が破壊されてきたではないか。

資本の自由な移動を保障するEU条約? 資本の自由な移動をEU憲法として制定しようとした動きに対して、ヨーロッパのattacは断固反対してきた。資本の自由な移動は、資本家のための自由であって、すべての人びとの自由とは異なるし、また時には鋭く対立もする。
フランスとオランダの市民はなぜEU憲法を拒否するのか

■トービン博士とATTACの提案

1972年のトービン博士による提案は(1)短期取引の費用を課税によって相対的に引き上げ、通貨価値の安定化を図ること、(2)そうすることで国境を越える投機性資金の流れをコントロールし、再び各国のマクロ経済政策上の自立性を回復することを目的とした。

1997年のアジア通貨危機を契機として結成されたATTACによる提案は、(1)投機マネーにトービン税をかけることで投機マネーを減少させ、(2)集まった税収を金融自由化によって被害を受ける南の諸国の貧困削減や公共サービスの強化に活用することを目的とした。税収の管理などについては、2002年にはフィンランドの「グローバル民主化のためのネットワーク研究所」のヘイッキ・パトマキ氏とリーベン・デニス氏が、国際通貨取引税条約草案を起草し、国際条約に基づいた管理機構を設立して民主的参加によるガバナンスを提案している。
国際通貨取引税(CTT)条約草案[仮訳]

2008年のリーマンショック後、欧州attacネットワークは、金融システムの安定や公平な金融システムのためには通貨取引への課税だけではなく、金融システムの根幹の転換が必要だとする声明を発表している。
金融危機と民主的オルタナティブに関する欧州ATTACの声明

またG20サミットでの腰の引けた対応にたいして、茶番はやめろ!と批判するだけでなく、G20から通貨取引税についての検討を委託された国際通貨基金(IMF)に対しても、ATTACの提起するトービン税の原則を主張している。
ATTAC、IMFを訪問:フランスは金融取引課税に向け圧力をかけるべき


■グローバルな民主主義の実現にむけて

attacフィンランドのパトマキ氏は、最近書かれた「トービン税とグローバル市民社会組織:2008-9年金融危機のあとで」という論文の中で、トービン税とグローバルな民主主義、あるいは自己決定権の関係について述べている。

「トービンが国家の経済政策の自律性を擁護していることは、民主主義的自己決定権を擁護していることでもある。 同様に、もし、主要に憂慮されていた問題が、自分たちの生活が金融の活動の結果によって影響される人々が、金融をめぐる条件の変化に対して何も発言権を持たないという問題であったとすれば、この議論は実は、相互に関連している世界における市民の民主的自己決定権をめぐるものである。民主主義化はまた、権利を奪われた人々をエンパワーし、すべての人々にグローバルな集団的自己決定に参加するための平等で、実効的な権利を実現することに関わっている グローバルな権力関係を問題にする試みは、民主主義に関する新しい問題を提起する。CTTは、自覚的であるか否かに関わらず、グローバル民主主義に関する議論をも開始していると思われる。」

そして、attac等が主張してきた金融市場の安定と貧困削減のための基金という、トービン税の二つの目的に、もうひとつ「グローバル金融市場とそれが解き放ち、強化してきた社会的勢力に対する何らかのグローバル民主主義的な管理」を付け加えている。

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金融とは実体経済に従属するものでなければならず、実体経済とは人びとの生活や自然環境の永続的な存続にとってのみ必要であればいいのだ。資本主義がシステムとしてそれを許さない仕組みであるのなら、人類とこの惑星の歴史のページから退場してもらわなければならない、とも思う。

そうそう、今回の欧州委員会のレポートに対してATTAC、OXFAM、AITECがそれぞれの立場から共同のプレスリリースを発表している(フランス語なので意味はわからないが)。
Réunion des Ministres des Finances européens : la taxation des banques, un hors sujet pour les enjeux de la planète ?(フランス語)
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