為替変動リスクを労働者に押しつけるな:トヨタの下請け単価引き下げ

yen carry trade

通貨取引税(トービン税)による投機マネーの規制を:日銀の量的緩和再開によせて(2)で、日銀による円の大量供給による円高緩和効果よりも、通貨取引税(トービン税)を導入するほうが、よっぽど為替相場は安定するだろう、という趣旨のことを書いた。

その続き、というか、為替相場の安定と人々の生活の安定という、一番言いたいことを書かなければと思いつつ、ほったらかしにしてたら、こんなニュースが流れた。

〈トヨタ〉部品価格の3割減要請…系列メーカーへ3年内に
12月22日10時37分配信 毎日新聞
「トヨタ自動車が系列の部品メーカーに対し、部品価格を現行から3割程度引き下げるよう求めていることが分かった。21日までに部品メーカーに要請した。今後3年内に実施する計画で、12年から販売する新車価格を抑えて需要を喚起するとともに、今後成長が期待される新興国市場での価格競争力を高める。」(以下略)

やっぱり書いておこう。
■円高でトヨタの営業利益が吹っ飛ぶ?

円高のニュースが流れると、よく「1円の円高でトヨタは○○億円の利益がふっとぶ」などと報道されることがある。『週刊ダイヤモンド』10/17日号ではこう書かれている。

「自動車メーカーは相変わらず為替の影響を受けやすい。1円の円高で営業利益に与える影響がトヨタで300億円、日産自動車で120億円、ホンダで110億円と大きい。」「じつは自動車は海外生産が業界全体で50%くらい。さほど進んではいない。」

【円高になると利益が減るのはナゼ?】(チョー単純化して説明します。読み飛ばしてもらってもかまいません)
円が高くなると(例えば、「100円=1ドル→100円2ドル」あるいは「1ドル100円→1ドル50円」に変動すると)、日本から海外へ輸出する商品の値段も高くなる。たとえばアメリカの消費者は、これまで1ドル払えば100円分の日本からの商品が買えたが、円が高くなると、同じ1ドルでも50円分の商品しか買えなくなるので「円が高くなった」という。だが実際にはこれまでの商品の値段を急激に変更することは難しい。たとえば日本の企業の側から見ると、アメリカで1ドル(=100円)で販売してきた商品を、「円高になったから」という理由で、100円の売上を確保するために、2ドルで売ることができるだろうか。それは難しい。ということで、結局おなじ1ドルで売ると、売上は半分になってしまう。これを「為替変動リスク」などということもある。


■為替変動のリスクを下請けに押し付ける

『週刊ダイヤモンド』の記事は、こう続けている。

「自動車業界は産業の裾野が広いだけに、部品や部材メーカーは戦々恐々としている。現に、静岡県の自動車部品メーカーは『自動車メーカーの収益が悪化すれば、われわれにコスト引き下げ要求を強めるのは必然』(幹部)と今から警戒する。」

そして、自動車メーカーとともに海外現地に進出した下請けメーカーに対して、現地通貨での支払いを通告してきた事例などを紹介している。「相手の自動車メーカーは大国内での売上で部品代を相殺できるが、部品メーカー側はタイ国内での支払いは従業員の給料くらい。金型などは日本から持ってきており、バーツの変動によるリスクを背負わされることになった。」すなわち「為替変動リスク」を下請けに押し付けた形になる。

【「為替変動リスクの下請けへの押し付け」って?】(これも分かっている人は読み飛ばしてください)
上記記事で紹介されているのはタイに進出した下請け部品メーカーの話。これまでタイに進出した自動車メーカーから、おなじ現地に進出した下請け部品メーカに、一個100円の部品を円で支払っていた。しかし現地通貨(バーツ)で支払うと通告してきた。仮に100円=40バーツ(1バーツ=2.5円)として、自動車メーカーから下請けには40バーツが支払われる。下請けメーカーはバーツを持っていても仕方ないので、日本円に兌換する。もしそのときに急激な円高で100円=50バーツ(1バーツ=2円)になったとするとどうなるだろうか。40バーツを兌換しても80円にしかならない。部品一個につき20円も損した形になる。これが「為替変動リスク」であり、自動車メーカーはそのリスクを下請けに押し付けた。輸出入産業は常にこの為替変動リスクを負っている。


『週刊ダイヤモンド』の記事は下請けへの押し付けと各社の対応などの紹介で終わっている。これだけをみても、トヨタが「1円の円高で300億円の営業利益が吹っ飛ぶ」などということはあり得ず、押し付けられるリスクは下請けに押し付けようとしていることが分かる。最初に紹介した「毎日新聞」の記事も、海外で安く商品を提供するために、部品価格を低く抑えようということである。方法は単純。下請けにコスト削減を強いるということ。

■価格引下げを前近代的労働で補う

では下請企業は、どうしているのか、というと、そのツケは労働者に押し付けるしかない。「国際競争力」の名の下に、企業は労働者を搾りに搾って来た。もう搾れないよ、となると、どうすればいいのか。なかには中国やベトナムなど、人件費のむちゃくちゃ安い国に生産拠点を移すことで対応しようとする企業もあるが、『週刊ダイヤモンド』の記事にもあるように、自動車産業の海外生産率はそう高くはない。それにそんな簡単に生産拠点の海外移転ができるわけでもない。じゃあどうするのか。「工場移転が難しいのなら、中国やベトナムから労働者が日本にくればいいじゃないか」ということになる。

トヨタ系列の下請け企業でつくる外国人「研修生・実習生」の受け入れ機関で2007年に発生した受け入れ途中での大量打ち切りで、「世界のトヨタ」のもうけの一端が明らかにされた。これについては名古屋ふれあいユニオン委員長の酒井徹さんの個人ブログに事件の詳細と経過が詳しい。

「ベトナム人『研修生』・『実習生』を最低賃金以下で働かせ、労基署から『是正勧告を含む強い指導』を受けていた豊田技術交流事業協同組合が、(2007年)5月25日、約40人のベトナム人『研修生』・『実習生』らの『研修』・『実習』を打ち切った。影響は、合計100人ほどのベトナム人『研修生』・『実習生』に及ぶと見られている。」
トヨタ系協同組合:「研修生」100人「打ち切り」

結局この事件は、地元の労働運動などの支援を受けたベトナム人らのがんばりのまえに、トヨタがその面子をかけて、別な受け入れ先を見つけるということでいちおうの解決をみた。
トヨタ系協同組合:研修生100人の受入れ先決定
ベトナム人研修生支援ブログ

この「研修生・実習生」の労働条件については、低賃金だけでなく、人権や身体の安全からみても酷すぎる状況が蔓延している。問題の根本は解決されていないままだ。自動車メーカーは、価格の引き下げを下請けに強要し、もう搾れないところまできたら、今度はアジアからの「研修生」「実習生」から搾り取って来たといえる。はたらく仲間たちが、国際競争力の名の下に展開されるグローバル企業の「バトルロワイヤル」のツケを支払わされている。

■下請け単価の引き上げこそ必要

酒井さんのブログの中で紹介されている愛労連の榑松佐一事務局長は、その報告の中でこう述べている。

「『日本一元気な愛知』でもこのような問題が続く背景にはトヨタなど大企業のめちゃくちゃな下請け単価削減があります。従業員10人程度の小企業でも最高9人までの研修生・実習生を働かせることができます。時給300円とか600円で残業させて、やっと会社をまわしている企業もあります。最賃違反や人権を無視する不法行為は許せませんが、油まみれになって働く中小企業労働者の実態をみると『そんな(不正をはたらく)会社はつぶしてしまえ』とは言えません。そこで働く労働者と家族のくらしがあるからです。中小下請け企業が最低賃金を払えるような下請け単価の引き上げが必要です。」

トヨタが行っている単価引き下げとは180度逆の方法によってはじめて労働者の暮らしは安定のための息継ぎができる。企業が進んでそのような方法を実施することはありえない。労働運動による取り組みだけがそれを意識的に推し進めることができる。課題は日本国内だけではない。「国際競争力」の名の下にコストを切り下げ、海外移転をすすめるグローバル企業に対抗するために、国境を越えた連帯が重要である、と酒井さんはブログで訴えている。
なぜ間接雇用が「低コスト」なのか

■為替変動リスクを回避するヘッジにも限界がある

大企業はこうして為替変動リスクを、下請けや労働者に押し付ける一方、為替取引などを通じてなるべく変動の影響を受けないようにしている(これをヘッジ:回避といいます)。ヘッジには様々な方法があるが、完全にヘッジを行うことは費用面なども含めて難しく、中小企業ではヘッジを行っていないところも多い。大企業の場合は、逆に社内で設定したレートよりも有利な動きを見せた場合には、先物取引を大幅に増大させて、利ざやを稼ぐこともおおいという。外食産業の「サイゼリヤ」などは、ヘッジ取引で儲けようとしたことが裏目に出て、逆に153億円もの大損をだしているのだが。
サイゼリヤ為替対策で裏目 153億円もの損失を出したデリバティブ契約の中身

こうして、投機マネーだけでなく、製造業でさえも為替の変動を通じた損益に踊らされ、ツケは何の責任もない労働者や社会全体に押し付けられている。

為替市場における投機マネーの暗躍を規制し、安定した為替相場のなかで、本当に必要とされるものの生産が行われ、金融システムはそのためのツールとして厳しく民主的に規制・管理される必要があるだろう。為替の乱高下で何の責任もない庶民や労働者の生活が脅かされる現在の国際金融システムを作り変えるために、通貨取引税の実施はその第一歩である。もちろん通貨取引税の導入だけでは不十分であり、前述のような労働運動による取り組みこそが重要だろう。
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