Le Tour de France des paradis fiscaux!:G20ではタックスヘイブンの規制はできない

▲7月3日にタックスヘイブン規制キャンペーンとしてスタートしたTour de France des paradis fiscaux(ツール・ド・フランス・タックスヘイブン)のスタート地点モナコでの映像


9月2日の東京新聞朝刊にタックスヘイブンとして有名な英領ジャージのルポ記事が掲載されていた。記事によると「金融業のもうけが全産業の53%を占め、住民一人当たりの国内総生産(GDP)は世界十指に入る豊かさ」だが、他の租税回避地との競争に勝つために、外国企業に課す税率をゼロにする一方、税収減を補うために日用品に対する3%の課税が行われ、住民がそれを負担するというあべこべの事態が紹介されている。また金融業への優遇に異議を唱える住民の声なども紹介している。

残念ながらこの記事はウェブ版には掲載されておらず、また紙幅の都合であまり深くは立ち入ってはいないことから、さらに詳しく知りたい方には、ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版に昨年12月に掲載された「英領ジャージー滞在の記」をお勧めしたい。

今年4月にロンドンで行われた「金融・世界経済に関する首脳会合」(G20金融サミット)の首脳声明でも「タックスヘイブンを含む非協力的な国・地域に対する措置を実施する」として、金融規制の目玉の一つとしてあげられ、タックスヘイブンであるリヒテンシュタインに対するドイツの強硬姿勢など、日本の報道でも珍しく「タックスヘイブン」の文字が躍ったことは記憶に新しい。

■タックスヘイブンの規制はattacの出発点のひとつ

attacもその結成当初から、タックスヘイブンの問題点を提起し、タックスヘイブンに対するボイコットを主張してきた。attac結成の契機となったル・モンド・ディプロマティークの社説『金融市場を非武装化せよ』ではこう訴えている。

「日々、為替相場の変動を投機対象として、1兆5000億ドルを超える資金が世界を駆けめぐる。……今こそ破壊的な資本の動きの中に、それを軋ませる砂の粒を投げ入れなければならない。それには3つの方法がある。タックス・ヘイブン(租税回避地)の撤廃、資本所得課税の引き上げ、金融取引への課税である。……諸国は公的機関と取引のある銀行による支店開設を禁止して、ジブラルタルやケイマン諸島、リヒテンシュタインなどに対する金融ボイコットを起こすべきではなかろうか。」(『金融市場を非武装化せよ』イニャシオ・ラモネ、ルモンド・ディプロマティーク日本語電子版)

紹介した東京新聞の記事でも、「オバマ大米統領が主導する9月下旬の米ピッツバーグでの首脳会合は金融規制と監督強化を懸案にする」といわれている。しかし、G20サミットなどで言われている「金融規制と監督強化」の内容を知ると、それは私たちのもとめる「金融ボイコット」などではなく、以前ここでも紹介した名著『タックスヘイブン』で述べられているような「いかに脱税的な行為をも正常なものとし、課税率を全体的に引き下げて、諸大国が税による圧力を弱めることによって、タックスヘイブンを健全な競争に仕向けるか、それだけであった」(同書134頁)というものであることがはっきりと分かる。
■OECDによるタックスヘイブンのリストアップ

税務大学校ジャーナル2009年6月号に「タックス・ヘイブンとの租税情報交換条約(TIEA)」(増井良啓・東京大学教授)という論文が掲載されている。適宜その内容を紹介しつつ、タックスヘイブンに対するこの10年来の「規制」の流れが行き着いた現状をふり返る。

前述の金融サミットの首脳声明では、タックスヘイブンへの対策として、次のように述べている。

「我々は、財政及び金融システムを保護するために制裁を行う用意がある。銀行機密の時代は終わった。我々は、税に関する情報交換の国際基準に反しているとグローバル・フォーラムによって評価された国のリストを本日経済協力開発機構(OECD)が発表したことに留意する。」

OECDは1998年からタックスヘイブンへの対抗措置として、非協力的なタックスヘイブンのリストアップを続けてきた。OECD は1998 年に「有害な税の競争」報告書を発表してタックスヘイブンへの対抗措置を匂わせた。

増井論文によると、OECDによるタックスヘイブンの定義は、

(1)実効税率がゼロか名目的であること、
(2)効果的な情報交換の欠如
(3)透明性の欠如、
(4)実質的活動がないこと

という4つの指標をたてていたという。

だが(1)や(4)は国家の主権として決められるべきことであるとして、望ましからざるタックスヘイブンとして認定するのは(2)や(3)に問題がある場合に限っていた。

ただ98年の時点では、「国内法上・租税条約上の措置の強化や、多国間の執行共助の推進が勧告されていた。のみならず、将来の検討課題として、タックス・ヘイブンに置かれた事業体に対する支払いにつき、控除を制限する措置や源泉税を課す措置などが指摘されていた」(同論文16ページ)という。これはいわゆる「タックスヘイブンに対する金融ボイコット」に当たる措置といえるだろう。

■情報提供の有無だけがタックスヘイブン認定の条件に

だが2001年に出された報告書では、タックスヘイブンにあたるかどうかの基準が大きく修正された。

「OECD とタックス・ヘイブンとの度重なる協議の結果、タックス・ヘイブンにあたるか否かの審査の力点は、情報交換および透明性の側面にはっきりと移行した。2001 年報告書は、この変化を明らかに示す公的文書である。」(同論文16ページ)

前述の定義のうち「(1)は、1998 年報告書の段階においても、それだけでは有害とはされていなかった。2001 年報告書の段階では、さらに(4)についても、非協力的なタックス・ヘイブンにあたるかどうかの判定において不問に付すこととされたのである。こうして、審査の力点は、(2)と(3)のみに置かれることになった。」(同論文17ページ)

そして2002年に、租税情報の交換に特化した租税条約モデルとしてOECDモデルTIEAが策定された。TIEAとはTax Information Exchange Agreement(租税情報交換条約)のことだ。ここで要求される「効果的な情報交換」に応じることで、それまで「非協力的」とレッテルを貼られていたタックスヘイブンは、そのレッテルから解放される。

「効果的な情報交換」とは、結局のところ、情報交換要請国(多くはOECDなど主要国)が必要とされる情報を提供する法的枠組みをしっかりと整えるということであり、一切の情報を自動的に透明化することではない。

■情報交換で問題は解決されない

たとえば、ひどい派遣切りをしている日本の企業が、タックスヘイブンに持っている口座が自動的に公開されるわけではない。日本政府が何らかの必要性がないとだめなのである。とえば脱税など、当局が犯罪性のある資金移転だと認定してはじめて、タックスヘイブンとされるその国に情報の公開求めることができるというだけのものであり、規制とはなんら縁のないものである。

たとえ話として、アメリカ政府は、マイクロソフトの会長がどれだけタックスヘイブンに隠し口座をもっていても何ら手を打たないが、言うことを聞かない将軍様の隠し口座があるカジノ立国の金融機関に対しては、情報の提供、そして口座凍結までやってしまう。いまでは「テロリスト」と呼ばれているアラブの大富豪についても、彼らがアメリカに友好的なときには、どれだけマネーロンダリングをしていても、アメリカ政府は一向に気にしない。要は、租税回避をしているのかどうか、マネーロンダリングをしているのかどうかが問題ではなく、気に入らないヤツの財布のヒモを押さえつけることができるかどうかが問題なのである。それはなにもアメリカ政府だけではない。日本政府だってホリエモンや「金もうけ、悪いことですか」と放言した村上がタックスヘイブンを活用していたことに対して、問題が発覚してから捜査(っぽいこと)を行ったに過ぎない。

OECDのグリア事務総長は次のように述べて、銀行の守秘義務および納税者の機密が危険にさらされることはないことを明らかにしている。

「実際、全ての国が何らかの形の銀行守秘義務を認めており、全ての国が納税者のプライバシー情報を保護する重要性を認識している。この基準を満たしても納税者情報の機密が危険にさらされることはない。この基準は、先進国、途上国双方の税務当局が、税規則を完全かつ公平に適用するために必要な情報を持てるようにするためのものである。」(発言要旨

attacなどが求める「タックスヘイブンに対する金融ボイコット」の前提として情報の透明化は必要だが、「金融ボイコット」という手段を放棄した上で、情報交換や情報の透明性を要求するOECDによる「タックスヘイブン規制・監視」は、われわれの求めるものとは正反対の結果に向かっている。すなわち『タックスヘイブン』の中で言われているように、この10年はタックスヘイブンの合法化の10年だった、ということである。以下にそれをみてみよう。

■地球上から消えてしまったタックスヘイブン

増井論文は、タックスヘイブンリストにあげられた国・地域の数の推移をこうまとめる。すこし長いが、分かりやすいので引用する。(文中の「法域」とは、ここでは「国・地域」とほぼ同義語として理解してもらってかまわない)

「1998 年報告書の公表後、47 の法域が審査の対象とされた。2000 年報告書の段階では、そのうち12 がリストから外れ、35 となった。2001 年報告書は新たに6 つをリストから外しているから、単純に差引計算すれば29 が残っていたことになる。

ところが、2001 年報告書の段階で基準自体が修正された。4 つの認定基準のうち、(1)実効税率がゼロか名目的であること、および、(4)実質的活動がないこと、の2 つについては、問題にしないこととされた。そして、(2)効果的な情報交換の欠如、および、(3)透明性の欠如、の2 つに力点をおいて洗い出しを行うこととされた。いわば手続的側面に審査の対象を限定したのである。

そして2004 年報告書では、修正後の基準に基づいて2 法域がリストから外され、結局、5 つの法域が名指しされる形で残った。」

五つの法域とは、アンドラ、リヒテンシュタイン、モナコ、マーシャル諸島、リベリアである。

増井論文は、4月のG20金融サミットの前に校了しており、それ以降の事態については触れていないので、すこし触れておこう。

残るリヒテンシュタイン、モナコ、アンドラもG20サミットを前にした3月に相次いで情報開示などの協力を表明したことで、OECDがリストアップした「非協力的タックスヘイブン」はこの地球上から消滅してしまった。

国際的な金融の流れの約半分がタックスヘイブンを通過している(IMF1994)ことも、銀行の国際活動の約半分を占めている(BIS調査2005)ことも、多国籍企業の海外投資の約30%がタックスヘイブンへ向かっていることも、ヘッジファンドの約60%がタックスヘイブンに設立されている([Futures Japan]jan-08)ことも、ヘッジファンドマネージャーの52%が米国、19%英国に在住していることも、タックスヘイブンで開設されているストラクチャード・インベストメント・ビーグル(SIV、投資目的会社)など”影の銀行システム”が10兆ドル規模に及ぶことも、富豪がオフショア市場に所有している資産が11兆5000億ドルありそのうち8600億ドルが非課税となり、世界から2550億ドルの税収が消失している(タックスジャスティスネットワーク2005)ことも、なーんにも変わることはないのに、OECDによると、問題のあるとされるタックスヘイブンはこの地球上から消え去ってしまったのだ。

■G20を受けて新たなリストが発表されたが・・・

G20金融サミットの首脳声明が発表された4月2日、OECDは新たなリストを発表した。リストでは、「国際的に合意されている租税基準の導入を確約しているものの、いまだ実質的に導入していないタックス・ヘイブン」(=規制対象ではなく、TIEA交渉を進める対象となった)のほかに、「国際的に合意されている租税基準の導入を確約していない国・地域」として、コスタリカ、アラブアン島(マレーシア)、フィリピン、ウルグアイが上げられた。
OECD租税回避リスト(2009/4/2)PDFファイル
(最下段部に上記の国・地域がリストアップされている)

だが、その直後の4月7日、OECDはそれら4カ国・地域が「租税情報の交換に関する国際的に合意された基準の遵守を表明」と発表し、8月26日に発表されたリストでは、「グローバルフォーラムの調査によると現在、すべての国地域は、国際的に合意課税標準にコミットしている」とされ、それら4カ国・地域もリストから削除された。
OECD租税回避リスト(2009/8/26改定)

■OECDモデルTIEAと米国TIEAの酷似

増井論文の後半ではTIEAを強力に推進する力となったのが、アメリカの租税政策であり、「2001年報告書以降、OECDが情報交換と透明性に重点をおいてきたのも、米国の租税政策との関係抜きには理解することができない」と述べている。そして「9・11以降のテロリスト資金への警戒は、情報交換重視の傾向に拍車をかけた」。(同18~19ページ)

「米国がタックス・ヘイブンとの間で締結するTIEAと、2002年OECDモデルTIEAとはうりふたつである」と述べて、OECDモデルTIEAと米-リヒテンシュタインTIEAの条約の類似点を条文ごとに照らし合わせている。その内容は論文を参照してほしい。

この事実を、別な見方をすれば、それほどアメリカが重視してきた租税情報交換や透明性が、実際には金融危機に歯止めをかけるためには、ほとんど何の訳にも立たなかった、ということではないのか。

増井論文では、「少なくとも。情報交換条約は、いくらかの納税者をこれらのタックス・ヘイブンから追い払うであろう。」という米国の実務家Tillinghast 氏の言葉を紹介しながら、こう結論付けている。

「TIEAの存在は国際的脱税を解明するための国際協力にむけた一歩であり、脱税予備軍の納税者がタックス・ヘイブンを用いることに対する抑止力として育てていく余地がある。しかし、TIEA のみに過大な期待を抱くことは禁物であろう。むしろ、租税情報収集のための種々の制度の一部としてTIEA の果たすべき役割を位置づけ、納税環境整備の総合的施策の中で適切な役割を分担させることが適切である。」(同論文29ページ)

G20金融サミットや、それをめぐる一連の報道において、「タックス・ヘイブンへの規制・監督」と呼ばれているものが、このTIEAのみである、という事実は、「タックスヘイブンに対する金融ボイコット」へのボイコットに他ならない。G20やOECDに任せてはいられない。

資料:現在のTIEA締結の状況(英語)

■Tour de France des paradis fiscaux!

今年7月、attacフランスなどは、タックスヘイブンに規制を!を訴えて「Tour de France des paradis fiscaux」(ツール・ド・フランス・タックスヘイブン)を展開した。フランスに隣接するタックスヘイブンのモナコなどから出発し、ゴールのパリにむけてタックスヘイブンの閉鎖をもとめるツアーが展開された。以下はattacフランスのホームページに掲載されたフランス各地での画像報告。楽しそうだ。

モナコでの映像(7/3)
アンドラでのアクション(7/11)
アネシーでのアクション(7/24)
パリでのアクション(7/27)
Tour de France des paradis fiscaux(attacフランス)
ツール・ド・フランス・タックスヘイブンなどタックスヘイブンの情報ページ
タックス・ヘイブン・キャンペーン(仏語)
(attacや地球の友、オックスファム、CADTMなど15団体が参加)

■日本も租税回避地利用大国

4月G20サミットのまえには、こんな報道もあった。

「実は日本は租税回避地利用大国である。日本で発行される仕組み債にはケイマンに設立された特別目的会社(SPC)が使われることが多い。証券化で利用されるSPCもケイマン籍が多い。 日本の銀行のオフショア金融センター向け資産残高(融資と債券保有の合計)は4080億ドルと、英国の銀行の5150億ドルについで2位。国際金融市場での残高が6位なのに比べるとオフショア比率の高さが突出している。 とりわけケイマン向け資産は2370億ドルで、国別ではトップ。2位のドイツの銀行の資産、1130億ドルの倍以上である。会社設立のコストが安いのに加え、法人税が非課税となっていることがケイマン利用の背景にある。」(太田康夫 日経編集委員 2009/3/16)

この短い論評から、金融危機を爆発的に世界に広めた証券化という手法がタックスヘイブンで増殖したこと、そして「わたしたちに責任はありませんよ」と涼しい顔をしている日本の金融機関が、危機を拡大させた張本人の一人であることを、私たちは読み取らなければならないだろう。私たちもTour de Japon des paradis fiscauxなど楽しい「金融ボイコット」アクションを考えたい。
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