
エクアドル政府が、2012年償還のグローバル債の利払い3100万ドルの停止を決めましたが、ロイターは「今後想定される四つのシナリオ」という記事を配信した。
◎エクアドルが対外債務利払い停止、今後想定されるシナリオ
ロイター 2008年12月16日
四つのシナリオとは次の通り。「訴訟とエクアドル資産の差し押さえ」「デフォルト債の再交渉」「国内外投資の減少」「国際金融機関が融資抑制」。さっと思いついた幾つかの点についてコメントをしておこう。
その1:訴訟とエクアドル資産の差し押さえ
「エクアドル債の保有者はエクアドルの資産差し押さえのため、あるいは同国が支払いのため海外に保有している銀行口座の凍結などを求め、直ちに提訴する可能性がある。」「債券保有者は資産差し押さえにより、エクアドル経済にかなりの打撃を与えることができると見ているという。」
→99年に発生したブレイディ債のデフォルトの際に、額面価額の22%にまで急落した同債券を、ハゲタカファンドが買いあさり、額面価額の支払いを求めてアメリカの裁判所に訴えようとする動きがあったという。いまこの瞬間もハゲタカどもがエクアドル民衆の血肉を求めて暗躍している可能性がある。ハゲタカの後ろには名の知れた国際金融機関が控えている。
(参考)エクアドル危機の諸相 政治経済の破綻と先住民族運動:PUENTE VOL.30
90年代はじめから00年1月のノボア政権誕生までを扱っている。債務危機に関する記述が詳しい。ぜひ一読を。ただ、債権者側のための処方箋である「ブレイディ・プラン」については評価は甘い?
その2:デフォルト債の再交渉
「コレア大統領がデフォルトの構えを示し始めた最大の理由は元本削減と償還期間の延長とされる。大統領はタフネゴシエーターとして知られ、交渉は数年続く可能性がある。しかし債券保有者の多くは債務再編を拒否し、法的措置に訴える可能性が大きい。」
→これまでエクアドルで取られてきた債務再編やIMF・世銀のコンディショナリティは不当であり、そのような枠組みの中で押し付けられてきた債務に支払いの義務はない、というのが今回のエクアドル政府の立場である。債権保有者は、そのような不当な債権を購入したことを深く反省すべきである。また80年代からこれまでにエクアドルで実施されてきた債務再編(つけかえ)の過程はすべて、北の金融機関とエクアドルの政治経済エリートを救済し、リスクと損失をエクアドル社会・庶民全体に押し付けるものであった。そのような債務再編を民衆は望んでいない。
その3:国内外投資の減少
「投資家がエクアドル政府への不信を募らせている中、資金調達が困難になっているため、外資系の資源会社による大規模プロジェクトの早期開始に影響が出てくる可能性がある。石油会社も大規模投資を控えている。」「エクアドルではこれまで3人の大統領が民衆の抗議活動や議会での混乱で政権の座を追われているため、今回のデフォルトが政治的な不安定要因になる可能性もある。」
→エクアドルの自然と先住民を搾取しまくってきた外資系資源会社がこれを契機に出て行ってくれるなら、それにこしたことはない。米石油大手シェブロン傘下のテキサコ社は1972─1992年に180億ガロン(680億リットル)の汚染排水を不法に廃棄し、密林汚染や健康被害を引き起こした。現地住民約3万人が損害賠償を求めて提訴している。出て行く前にこれまで破壊しつくしてきた自然環境を元に戻していけ。そして未来永劫、損害賠償をエクアドル先住民に支払い続けろ。
「今回のデフォルトが政治的な不安定要因になる可能性もある」? なぜ「これまで3人の大統領が民衆の抗議活動や議会での混乱で政権の座を追われ」たのか分かっていないのか?
アブダラ・ブカラム大統領は当初のポピュリズム政策から新自由主義に転換したことで全土で抗議行動が発生し1997年2月に辞任した。
ジャミル・マウアド大統領は経済危機を乗り切るために現地通貨スクレを廃止し、通貨を米ドル化したが、それによってさらに生活が苦しくなると危機感を感じた先住民の闘いと急進派将校らによって2000年1月打倒された。
そして2000年1月反乱の参加者で、2002年11月に民衆によって押し上げられたルシオ・グティエレス大統領は、緊縮財政、対米接近など民衆の期待を裏切ったことで抗議行動が激化し2005年4月に退陣した。この3人の大統領は、新自由主義に抵抗する先住民・労働者の希望を裏切ったことで政権の座を追われた。
もし今回、コレア大統領がデフォルトを宣言しなければ、この3人のようにエクアドル民衆の抗議活動によって政権の座を追われることになったかもしれない。民衆はコレアを支持したのではなく、新自由主義に対抗するコレアの政策を支持しているのだから。
その4:国際金融機関が融資抑制
「米州開発銀行(IDB)はエクアドルがデフォルトの構えを見せていたことから、融資の承認を遅らせているが、コレア大統領はこれに反発している。世界銀行など他の国際金融機関は今後、エクアドルへの融資を行わない可能性がある。」「資金調達が困難になることに加え、原油価格の下落により、来年度予算の財源確保が難しくなれば、エクアドルはこれまで国民の支持を得る上で重要な役割を果たしていた社会保障関連の支出を削減する可能性も出てくる。」
→2007年2月、エクアドルのパティニョ経済財政相(当時)「国際通貨基金(IMF)と『趣意書』を交わすことはもうないだろう」と述べ、2200万ドル残っていたIMF債務を近日中に繰り上げて完済すると発表している。
(資料)南米の脱IMF加速 エクアドルも債務完済へ(2007年2月10日(土)「しんぶん赤旗」)
またコレア大統領は「2005年、パラシオ政権の財務大臣だった時に世銀が下した決定へのお返しとして、2007年4月末にラファエル・コレアが大統領命令で世銀代表エドワルド・ソメンサットを追放したのは、憲法の精神の具現化に他ならない。FEIREP(石油安定化基金)が提示した、石油収入を債務返済ではなく社会政策に優先的に回すという改革案に対して、世銀はすでに約束されていた1億ドルの融資を凍結するという対抗措置に出た。コレアはこの国際機関からの介入に抗議して財務大臣を辞任した。コレアは世銀代表に対し、2005年の措置に関して48時間以内に弁明するように通告した。なんらの説明もなかったので、コレアは彼を追放した。エクアドル大統領は、世銀の融資凍結は国家主権を完全に踏みにじったものであったと宣言した。」(「エクアドルの不当な債務を帳消しに全国ツアー」資料集19ページより)
未曾有の金融危機の前にゆらぐブレトン・ウッズ機関からこれ以上なにを融資してもらおうというのか。エクアドルをはじめ南の諸国は、北の支配の道具であるブレトン・ウッズ機関から決別し始めているのだ。
「社会保障関連の支出を削減する可能性」?? これまでエクアドルは社会保障を切り詰めて債務返済に充ててきた。「1980年には予算の40%が保健医療と教育に回され、15%が債務返済に充てられていた。2005年にはこの比は逆転し、政府は予算の40%を債務返済に回す傍ら、保健医療と教育にはたったの15%しか予算を使えなかった」。(同資料9ページ)
「1989年から2006年の間に借りた資金のわずか14%しか政府プロジェクトに使われなかったことが見て取れる(飲料水供給、エネルギー、灌漑、運輸、通信、社会インフラ、企業への財政支援など)。残りの86%は対外債務の元利返済に使われたのだ。よりつぶさに検証すると、ただでさえ少ない14%のうち、34%は開発プロジェクトに投入されず「金融セクター改革」に回されている。」(同27ページ)何をいまさら白々しく「可能性」などと寝言を言っているのだ。
支配の鎖を断ちきりつつあるエクアドルの先住民、民衆に、本心では慄きつつも冷笑することでしかこの現実を受け入れることができない北の金融機関と南の腐敗した支配者たちを慰めるための「四つのシナリオ」を実現させてはならない。「ワシントンコンセンサス」という名のぼろぼろになった舞台を整え役者をそろえる猶予を与えてはならない。「南」と「北」の民衆の闘争と連帯のグローバル化こそが、「もうひとつのシナリオ」を実現させるだろう。
エクアドルの債務利払い不履行に支持を!
債務も環境破壊もないもうひとつの世界は可能だ
エクアドルと世界に「もうひとつのシナリオ」を!
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