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二つのジョージ・ワシントン:横須賀の原子力空母と日銀の米ドル供給

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2008年9月25日は、日米間でふたつの大きな出来事があった。

ひとつは横須賀米軍基地に初めて原子力空母ジョージ・ワシントンが入港・配備されたこと。
もうひとつは史上初めて日銀がドル資金を短期金融市場に直接供給する公開市場操作(オペ)を実施したことだ。

原子力空母も米1ドル札も、同じジョージワシントン。これは何かの偶然か。

Attacの会員メーリングリストでも25日早朝と夕方の抗議行動を呼びかける案内が流された。
==(以下、転載)==

 原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀に入港します。原子力空母の母港化はもちろん初めて、アメリカ以外の母港は横須賀だけです。
 12あるうちのひとつ、長さ1000フィート(333m)、乗り組み員5600人以上の動く原発ともいうべき世界最大級の原子力空母なのです。
 横須賀の人たちは、否決されましたが、2度の住民投票条例制定のための直接請求運動をとりくみ、横須賀市民7人に1人が署名をしました。5月のジョージ・ワシントンの火災事故や原子力潜水艦ヒューストンが佐世保や横須賀入港時に、放射能漏れを起こしていたことなどが判明し、みんな不安を感じています。
 仮に横須賀基地停泊中に事故が起きた場合、放射能は首都圏全域に降り注ぎ、約120万人が犠牲になると言われています。原子力母空配備は横須賀だけの問題ではありません。
 また米軍の進める戦争の前方展開空母として、初の海外母港化が固定されてしまいます。沖縄と同じように、米軍再編の最前線として日米軍の一体化が目の前で繰り広げられる神奈川なのです。ジョージ・ワシントンは来てしまうけれど、これが終わりでなく、これから私たちは原子力空母を追い返す闘いを開始します。
 抗議と決意を表すためにぜひみなさま明日、横須賀へお集り下さい。


==(以上、転載)==

TBSのウェブサイトでは25日早朝の抗議行動の模様が流れている。
米原子力空母、横須賀基地に配備(TBSニュース)
(25日早朝の抗議行動などの動画ニュース)

おなじ25日、日銀がドル資金を短期金融市場に直接供給する公開市場操作(オペ)を実施する(実施は米国東部時間の25日なので日本とは14時間の時差がある)。これは、サブプライムローン関連証券の暴落が、世界の金融市場を混乱に陥れ、米証券第四位のリーマン・ブラザーズの破綻がドル供給不安を招いている事態に対する各国中央銀行による協調救済策だ。

25日、日銀は内外金融機関40社に対して、第一弾として296億2200万ドルを供給する。

日銀によれば年内にあと4回、合計1100億ドルの資金提供を実施すると言う。

9月25日 300億ドル
10月8日 100億ドル
10月22日 300億ドル
11月5日 100億ドル
11月19日 300億ドル
2008年 9月24日 米ドル資金供給オペの取引概要 (PDF, 128KB) より

資金提供を受ける40社は次のとおり。

・株式会社みずほ銀行
・商工組合中央金庫
・株式会社三菱東京UFJ 銀行
・農林中央金庫
・株式会社三井住友銀行
・ドイツ証券株式会社
・株式会社りそな銀行
・ゴールドマン・サックス証券株式会社
・株式会社みずほコーポレート銀行
・みずほ証券株式会社
・株式会社埼玉りそな銀行
・メリルリンチ日本証券株式会社
・株式会社静岡銀行
・大和証券エスエムビーシー株式会社
・三菱UFJ 信託銀行株式会社
・野村證券株式会社
・中央三井信託銀行株式会社
・新光証券株式会社
・住友信託銀行株式会社
・三菱UFJ 証券株式会社
・株式会社新生銀行
・日興シティグループ証券株式会社
・バークレイズ銀行
・クレディ・スイス証券株式会社
・カリヨン銀行
・モルガン・スタンレー証券株式会社
・エービーエヌ・アムロ・バンク・エヌ・ブイ
・ドレスナー・クラインオート証券会社
・ドイツ銀行
・ソシエテ ジェネラル証券会社
・ユービーエス・エイ・ジー(銀行)
・ビー・エヌ・ピー・パリバ証券会社
・ビー・エヌ・ピー・パリバ銀行
・アール・ビー・エス証券会社
・ドレスナー銀行
・HSBC 証券会社
・ラボバンク ネダーランド
・UBS 証券会社
・信金中央金庫
・セントラル短資株式会社
日銀2008年 9月22日 米ドル資金供給オペの対象先公募の結果について (PDF, 16KB) より

内外の名だたる金融機関がこぞって「今日明日の運転資金がありません」と中央銀行に泣きついている。しかしサブプライムローン証券というデタラメにデタラメを重ねた金融商品でがっぽり稼ごうとしたツケが回ったに過ぎないこれら金融機関は、自らが引き起こした世界的な金融危機に対して何ら社会的な責任をとろうとはしていない。

リーマンブラザーズのリチャード・ファルドCEOなどは2007年の報酬がなんと3483万ドル(36億円)にも上ったという。ペテン師以外の何者でもない。そしてこれらペテン師どもが引き起こした混乱を中央銀行が救済しようというのだ。

日銀の白川総裁は、「ドルの資金市場でドルが調達しにくくなってくると、(調達した)円を売ってドルを調達するという行動が増えていきますから、一般的には円の資金市場に圧力がかかってくることになります。そういう意味で、この問題は当初はドルの問題でしたが、円の問題に跳ね返ってくる可能性が高まってきた」として、ドル供給は円の安定化のためだ、と強調する。

2008年 9月19日 日銀総裁記者会見(9月18日)要旨 (PDF, 164KB)

だが「最後の貸し手」としての面目躍如の施策は、「最後だからね」という約束にはならず、巨大な賭場と化した国際金融市場においてペテンにペテンを重ね、手痛いしっぺ返しを食らった内外の金融機関に対して、さらなる「掛け金」を与えるものではないか。G7批判の文章でも書いたが、「ちぇっ、ぜんぜん儲からないや」という雰囲気が広がることで、だれも賭場で遊ばなくなってしまっては、元も子もないからだ。

賭場の胴元とイカサマ師---G7とサブプライム問題(attacこうとう 2008年2月9日)

日銀が差し出した資金は米ドルばかりではない。9月22日には、国内短期金融市場に1兆5000億円の資金を即日供給するオペを実施している。不安が不安を呼び、誰も金融市場でお金を貸したがらないから、日銀が供給して市場の不安を取り除くのだという。即日供給は5営業日連続で、総額は12兆5000億円に達している。

これほどまでに国際金融市場は危機的な状況にある。

しかし一方のペテン師たちは、借りた金を「ちゃんと返しますから」といいながら、自分の儲けのためのお金はちゃっかりと確保している。

三井住友フィナンシャルグループは、ゴールドマン・サックスへの出資検討を明らかにした。三菱UFJフィナンシャル・グループは、モルガン・スタンレーに9000億円の出資を決めた。野村ホールディングスは破綻したリーマン・ブラザーズのアジアと欧州部門を買収。米政府の管理下に入った保険会社AIGの日本のグループ会社も日本の生損保が買収に食指を動かしているという。

米金融危機 日米の業界地図一変(東京新聞2008年9月25日 朝刊)

邦銀等が買収しようとしているのはトレーディング部門ではなく、おもに企業の買収・合併(M&A)部門である。株を右から左へ動かすだけで莫大な手数料を稼ぐ事業である。「そんなことはない。資本や人的資源を効率的に再編するプロフェッショナルな仕事だ」と主張するかもしれない。しかしサブプライムローンという弱者を食い物にし、それをさらに証券化して世界中にばら撒いてきた金融機関に、いったいどのような希望を託すことができるというのか。

1兆ドルとも言われるサブプライム関連の損失や何千億ドルともいわれる中央銀行による多額の資金提供など、ほどんと金銭的感覚が麻痺する中での買収ニュース。庶民は「またか」という麻痺的感覚におとしめられている。

しかし、この買収劇は、日銀による短期資金放出とは質の異なる(大きな意味では同じだが)ものだ。それは、危機に直面している国際金融システムの維持のためでもなんでもなく、この危機を「チャンス」とみているものだ。人々の生活の必要なところに必要な資金を回すという本来の金融の目的とは、あるいは僕たちが必要としている金融システムとは全く関係のない、金儲けの必要なところに必要な資金を回す腐りきった金融システムのなかで反省もなく儲けを目指すための投資行為に他ならない。

サブプライム問題ではアメリカやヨーロッパの金融機関を批判する主張は政治の世界やマスコミでもたくさん見られる。だが、三菱や野村など、日本の金融機関に対する批判は聞こえてこない。「日本の金融機関への影響はそう大きくない」というペテンとも願望とも取れる政治や経済の世界からのコメントばかりだ。

だが邦銀は、30兆円もの公的資金という名の労働の果実、庶民の預貯金を注ぎ込んでもらって生きながらえてきた。何年も法人税を払ってもこなかった。超低金利政策により銀行は300兆円ほども利用者への利払いを圧縮した。また同じく低金利によって企業の利子負担も300兆円ほど減った。それはすべて家計の利息削減分で補ってきたといっても過言ではない。大企業や金持ち達は、利率の高い海外や課税されないタックスヘイブンへ資産を預けることなどができるが、庶民にはそのような選択肢はない。銀行のもうけや企業の利子負担分は庶民の懐から補われたといっても過言ではない。

低金利がもたらした家計から企業への所得移転(予算委員会調査室 福嶋博之)

野村、三菱をはじめとする国内の民間金融機関は、低賃金と不安定雇用などでもうけた金を、あるいは途上国から巻き上げた金を、または環境破壊によって未来から奪った金を、これまで以上に世界中のマネー市場に流し込み、そして世界中の儲けを日本に流し込む体制(=アメリカの金融資本がやってきたこと)を、これをチャンスに拡大しようとしている。

軍事的にはリスクを全世界に拡大する日米軍事安保体制のさらなる強化のためにジョージワシントンが横須賀へ入港し、金融市場においてはリスクのもとを断ち切るのではなくさらなる過剰マネーを誘発する可能性のあるドル資金が日本からアメリカへ提供された。戦争も貧困もないもうひとつの世界をめざす人びとにとっては、そのどちらも不要なものであるし、またそれは軍事・金融支配体制の危機的な状況を反映したものと映っている。

ATTACフランスは、混乱する金融市場に対するNOとオルタナティブを提示している。

金融支配とすぐに手を切れ:アタック・フランス(日刊ベリタ掲載)
機は熟した、金融市場に対する民主的統制を!--金融危機と民主的オールターナティブについてのATTACの声明(草案)


私たちもすぐにはオルタナティブを提示できるほどの力はないかもしれないが、近づきつつある総選挙をはじめ、さまざまな機会を通じてNO!を突きつけ、代案を提示する努力をつづけたい。
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