
4月17日の東京新聞朝刊にこんなニュースが載っていました。
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対アフリカODA
07年実績17.1億ドル
3年で倍増達成
財務省は16日、アフリカ向けの2007年の政府開発援助(ODA)実績が17.1億ドル(暫定値、約1800億円)と、03年(8.4億ドル)の2.04倍となり、05年に小泉純一郎首相(当時)が公約した「三年間での倍増」を達成したことを明らかにした。5月に横浜市で開かれるアフリカ開発会議(TICAD)を控え、今後はアフリカ向けODAの新たな対応が課題となる。(以下略)
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ほんとかよ、と思い調べてみました。
(参考)ODA白書、年次報告
ODA白書によると、03年のアフリカ援助は5.29億ドル。
あれ?報道では8.4億ドルだよな、と思いながら、債務救済の頁を見たら「7か国に対して合計約913億円(ボリビア約534億円、ベナン約38億円、モーリタニア約80億円、タンザニア約121億円、マリ約78億円、ウガンダ約62億円)の円借款債権の放棄」とありました。
ボリビアをのぞいたアフリカ諸国の債務救済合計は379億円なので、それに上記5.29億ドルを足したら、だいたい東京新聞の報道の8.4億ドルになります。
つまり、8.4億ドルのうち、3億ドルほどは、実際に援助資金を提供した額ではなく、債務削減の額ということです。
ODA白書では、2004年から、債務救済を含めた開発援助の額とは別に、債務救済を除いた金額も明示しています。
それによると、06年の対アフリカODAは、債務救済分を含めると25.58億ドル、債務救済分を除くと、5.17億ドルになります。
減ってんじゃん!!
日本の対アフリカODA(単位:100万ドル)
年度 合計
2002 583.75
2003 529.98
2004 568.72(646.97)
2005 1013.46(1,137.34)
2006 517.56(2,558.19)
( )内が、債務救済を含めた開発援助合計
こんな感じなので、07年アフリカ向け17億ドルという援助も大半が債務救済なのか、とおもいます。
もちろんもっと突っ込みどころはあります。たとえば、ODAには、無償援助(債務救済も含まれる)だけでなく、政府貸付も含まれます。一般金利よりも低く返済期間も長いなどの有利な条件といわれますが、それは「援助」ではなく「融資」です。日本政府がアフリカに貸した金額と、アフリカが日本政府に返済した額も、2004年からはODA白書には記載されています。
日本政府の対アフリカ
政府貸付等(単位:100万ドル)
年度 貸付額 回収額
2004年 56.27 1,415.26
2005年 509.2 830.75
2006年 164.85 621.91
ご覧のとおり、返済額のほうが多くなっています。2003年度以前は、貸付額と回収額の合計しか記載はないのですが、2003年は954万8000ドル、2002年は366万4000ドルのマイナス、すなわち回収額が上回っています。
債務や開発援助問題に取り組んでいる人なら、実際の援助は増えていない、債務削減を無償援助に組み入れている、ということは常識のようですが、普通はそんなことまでは分かりません。報道で「援助が倍増した」と聞けば、増えたんだな、と思うでしょう。
アフリカ向け援助を倍増する、というのは2005年のイギリス・グレンイーグルズサミットで当時の小泉首相が約束したようですが、郵政選挙など内政だけでなく、国際的な公約においてもデタラメな男だったということでしょうか。
ただ、財務省、あまりに恥ずかしいと思ったのか、あるいはデタラメな数字だということをメディアの皆さんも分かっているのか、このニュースは、ウェブでは、時事通信が報道しているだけでした。まだ財務省のウェブにも載っていません。
◎対アフリカODA、倍増達成=07年実績は17.1億ドル-財務省 (時事通信) - 2008年4月16日
援助や融資の額は、ただ単純に増やせばいい、ということではないでしょう。債務帳消しの運動が主張するように、ODAをはじめ、豊かな国から貧しい国へ流れるお金の多くが、本当に必要としている人びとには行き届かず、腐敗した独裁者の体制を維持するために使われ、地域のコミュニティや環境を破壊し、そして回りまわって(いや、時には途上国へすらも流れることなく直接)北の国の企業や銀行、そしておこぼれとして政治家たちのポケットに還流してきました。「不当な債務」と呼ばれるものです。北の国から南の国をかすめて北の国へ戻ってくる「開発援助」というパイプは、さび付いてぼろぼろに腐っています。パイプは取り除かなければなりません。
この「不当な債務」の借金の返済を負わされているのは、南の国々の子どもたちであり女性たちであり労働者であり農民です。そのような「不当な債務」の帳消しは、犯罪的な資金の流れやプロジェクトを洗い出す債務監査などを通じて行わなければならないと思います。南米エクアドルでは、人びとの怒りと希望に押し上げられた新政権が、「不当な債務」の監査を進めています。今年7月にも監査の最終レポートが出される予定です。エクアドルの二国間債務のなかで日本は三番目に大きな債権者です。
(参考)コレア、エクアドル債務監査委員会の活動を積極的に後押し
このような、南の国の「オーナーシップ」による債務帳消しの取り組みとは対照的に、G8諸国をはじめとする金貸し大国の主導で進められてきた債務削減の動きは、人びとの期待を裏切り続けています。そもそも債務漬けになった大きな理由の一つである新自由主義政策をどれだけ実施するかによって、債務削減が決まる、というものです。そしてそれらの債務は、焦げ付いて回収不能であったり、外交上や日本企業に利害関係のある地域の債務だったりと、よこしまな意図があると考えざるを得ません。
またこの間活発になっているODA予算の引き上げや開発資金の開拓など、「不当な債務」などの問題などなかったかのように、財界、政界、学界、NGOなどがこぞって「提言」をしています。いったいどっちを向いてるんだ、と感じているのは僕だけではないと思います。
債務が削減されないよりはましではないか、ODA減額よりもいいではないか、という声もあるでしょう。
そんなことでは永久に債務の鎖から南の人々が解放されることはないでしょう。いま、南の「オーナーシップ」による債務監査と削減要求が、ごくごく端緒ではあれ現実のものとなりつつあります。いくつもの落とし穴や恫喝や暗殺や誘惑が南の人々のまえに、そして北の人々の前に立ちはだかるでしょう。それらを乗り越えることができるのは南と北の連帯しかないと思います。
最もより効果的な債務削減の方法を南の人々はみずからの闘いで示しています。だめな政府なら変えちゃえってね。
債務の鎖、がんじがらめになっているのは、じつは北の私たちのほうではないのか、そんな気もしないではないですね。
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